第601話 治療は終わるが

結局、薬草を入手してから夫人の病気が良くなるまで三週間近くを要した。その間、ヴェラは伯爵邸のある街 “トリオムラーグ” に留まった。



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※トリオムラーグはアレスコードの街をさらに王都方向に向かった先にある。もう少し進むと学園都市ユーフォニア、そして王都ガレリアーナへと続く街道ルート上である。


トナリ村から見ると、トリオムラーグは馬車で一週間ほどかかる距離となる。(大小の街を五つほど経由する事になる。)


街の名前に貴族の名が入っているのは、その街が代々その貴族家によって統治されてきた伝統がある証拠である。トリオム伯爵家もそれなりに歴史のある家柄なのである。

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ルチアには伯爵家に逗留するよう言われたが、ヴェラは街の宿に泊まるとそれを固辞した。せっかく知らない街に来たのだから街を見たかったのだ。


伯爵の屋敷までの行き帰りでも色々と目にするし、時間があれば観光などもしたかった。伯爵邸に泊まると自由に外出しにくくなるだろうし、伯爵達と一緒に食事する事になるなど、色々面倒がありそうだったからである。


ヴェラは、別に宿など取らずともリューやランスロットに頼めば行き来は一瞬なので、通いでの治療も可能ではあったのだが……ここ最近はずっと村に籠もり切りであったし、リューも結婚し家族ができて、なんとなく距離感ができた事もあり、ここで休みをとって少し羽を伸ばすのも悪くないかと思ったのだ。


行きは急ぎであったのでランスロットに送ってもらったが、最初から帰りは馬で帰るつもりだったので、愛馬も一緒に連れてきた。


じつは、毎日リューやランスロットに送り迎えを頼むのも気が引けるのもあった。


ランスロットやリューにとっては大した手間ではないのだが、頼む方はやはり、あまり便利に使いまくるのも悪いかと気を使ってしまうところがあるのは仕方がない。


(トナリ村の患者の治療はあらかた片付けてから出てきたし、もし緊急性がある場合はランスロットが連絡をくれる事になっている。)


夫人の診察と治療は毎日行ったが、それ自体は対して時間が掛かる事でもない。あとは、夫人とお茶を飲みながら世間話をしたり、街を観光したりして過ごした。


そして、ヴェラがトリオムラーグの街に来て十日ほど経った日の朝。


すっかり良くなったルチアが、陽の光を浴びても大丈夫な事を確認し、治療は完了となった。


やっと外に出られるようになったルチアは、早速明日からは外出するとの事であった。しばらく屋敷の中に籠もり切りであったため用事が色々と溜まっているのだと言う。しばらくは忙しくなるとルチアは笑って言った。


治療は終わったのでサクッと帰りたかったヴェラであったが、最後に伯爵家で一緒に夕食をとルチアに言われ、断りきれなかった。もう一泊伸ばす事になるが、ルチアの手配でヴェラの宿泊していた宿の支払いは全て伯爵家が持ってくれる事になっていた事もあり、断りづらい。


ヴェラ 「だから自分で払いたかったのよね……」


しかし、ルチアは悪人ではない、むしろ好感が持てる部類の人間である。一度くらいは付き合うも仕方ないかとヴェラは承諾したのであった。




  * * * * *




ルチア 「あなた・・・とこうして食事をするのも久しぶりですね。あなたは最近はずっと、ミーズの部屋で食事をなさっていて、食堂に来られませんでしたからね」


伯爵家の晩餐に参加する事となったヴェラであったが、晩餐の席にはエゴーリ・トリオム伯爵も同席していた。(ルチアの言を聞けば、それが当然の慣習というわけでもなさそうだったが。)


エゴーリの年齢はまだ三十歳前後のように見える。ルチアの夫としては若過ぎる気もしたが、年の差夫婦などというのも珍しくはない。


エゴーリ 「そ、そうだったかな? オホン、ああお前か? ルチアの病気を治してくれたのは?」


話を誤魔化すようにエゴーリがヴェラに話しかける。


ヴェラ 「はじめまして、ヴェラと申します」


エゴーリ 「おお。ルチアが世話になったようだな」


ルチア 「ええ、見てください、すっかり綺麗になりましたわ。ヴェラさんはとても優秀な治療師ね」


エゴーリ 「腕の良い治療師はよいが……。その、なんだ、屋敷に来ているなら、もっと早く俺の所にも挨拶に来るべきだろう、失礼じゃないか?」


ヴェラ 「それは、申し訳ありません、ご挨拶が遅くなりまして…」


やっぱり面倒臭いと内心思うヴェラであった。


ルチア 「私がしなくてよいと言ったのよ。というか、不機嫌そうなのはなぜ? まるで、私の病気が治ったのがお気に召さないみたいね?」


エゴーリ 「いや、そんな事はないが~」


ルチア 「そういえば、病気の原因は、ミーズの送ってくれた花だったそうなんだけど? 一瞬、あなたの差し金かと思ったのだけど…違うわよね?」


エゴーリ 「し、知らん、そんな事は!」


ルチア 「…そうね、そんなレアな花の事をあなたが知るわけもないしね。で、不機嫌なのは何故なの?」


エゴーリ 「いや、別に…」


ルチア 「言いたいことがあるならはっきりおっしゃい」


エゴーリはルチアに睨まれ観念したように話し始めた。



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次回予告


ヴェラ (これってテンプレなの?!)


乞うご期待!



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