第200話 勇者、最低……
ユサーク 「うぅー! 許さねぇ、覚悟しやがれ!」
だが、次の瞬間、再び勇者の手の中から剣が消える。身にまとっていた鎧も同時に消えていた。
リュー 「何度生み出しても、何度でも奪えるなら何も問題ないな」
リューはもう一度、先程収納したシャルの攻撃魔法を勇者に向かって開放する。
大量の魔法攻撃を受けボロボロになって転がっていく勇者。
練習中の攻撃魔法を試してみたいとちょっと思ったリューであったが、うまく手加減できず、どうなるか分からないので思いとどまった。勇者に鎧を着させて実験台になってもらうのも良いかも知れないが、勇者の仲間達も居るのだ。流れ弾で被害が出るかも知れない。
聖盾騎士ジョディは、リューに攻撃していなかったので未だ無事であるが、勇者を守る盾の仕事をするため勇者とリューの間に割って入ろうとするのだが、どこから攻撃が出てくるのか分からず、ウロウロするばかりであった。リューは収納しているモノを出す場所を自由に指定できる。つまり、収納している攻撃魔法を、どこからでも出せるのである。例え前に立ち塞がられたところで、関係ないのだ。
すると意を決した表情のジョディが盾を構えてリューに向かって走り出した。盾による攻撃、シールドバッシュを放つつもりだ。だがその攻撃ももちろんリューは読んでいる。
ジョディのシールドバッシュとまともにぶつかりあったリュー。しかし、吹き飛んだのはリューではなくジョディであった。リューは重力魔法で瞬間的に体重を数十倍に増やしつつ、同時に竜人レベルを瞬間的に引き上げ、強化された膂力で魔剣を思い切りジョディの聖盾に叩きつけたのだ。
ジョディのシールドバッシュは跳ね返され、弾き飛ばされ壁に叩きつけられたジョディ。しかも、魔剣の攻撃をまともに受け止めた盾は、真っ二つに割れてしまっていた。
ジョディ 「そ……そんな! 聖なる盾が割れるなんて!」
リュー 「お前らでは俺には勝てん。もう止めておけ」
ユサーク 「うう、何をしている、攻撃だ、もっと攻撃を続けろ! アガタは俺を治療だ! さっさとやれ!」
勇者のその言葉で、もう動く力も残っていないはずのシャル・ココがヨロヨロと立上がり、リューに向かってくる。ジョディも立ち上がろうとしていたが、壁に叩きつけられた衝撃で動けないようであった。
リュー 「もうやめておけ、いくら勇者の命令とはいえ、命を落としてまで従う理由はないだろう?」
シャル 「ダメなんや……勇者のスキルなんや。勇者はパーティに加わった仲間を強制的に従えるスキルをもっとるんや。一度パーティに加わったら、勇者に死ね言われたら死ぬしかないんや……」
リュー 「それじゃぁ奴隷と同じじゃないか」
ユサーク 「そうさ、コイツラは僕の可愛い奴隷だよ。僕を守り、僕を気持ちよくさせるためだけに存在してるんだ。神に選ばれた勇者の
リュー 「その、隷属? のスキルは、戦闘時だけなのか? まさか、平時も勇者に “奉仕” させられているのか?」
シャル 「そや、ベッドも風呂も、勇者様と一緒やで、楽しそうやろ?」
聖女アガタが辛そうに俯いた。
勇者 「そうさ、僕は彼女たちの体中のホクロの場所を調べるのが趣味なんだ」
リュー 「屑だなぁ……」
戦闘中は速度重視であまり深いところまで分析していなかった神眼を、リューは高レベルで発動してみた。すると、勇者から何らかの魔力がメンバー達に流れているのが見えた。それは通常の魔法とは少し違う、より繊細で強力な魔力であった。レベルの低い魔眼ではおそらく見えないであろう。魔法というよりは呪いに近いものであった。
これは、勇者の剣や鎧を強化している力と同じ、勇者の称号を持つ者の権能なのだろう。リューと同じく、神が勇者という存在に与えた能力なのだろうか?
だが、全ての魔力はオリジンから作られている。ならば、勇者の権能であっても分解する事が可能なはず。そう考えたリューはすぐに試してみる。結果は……
パーティメンバーを縛っていた力が突如失われ、無理して立っていたシャル達は一気に崩れ落ちた。
ユサーク 「おい、どうした? 立て、戦えよ、なんで言うことを聞かない?」
リューがジロリと勇者を睨む。
ユサーク 「ひっ……来るな!」
勇者が慌てて再び剣と鎧を出そうとしたが、その時には転移で勇者の横に移動していたリューが勇者を殴り飛ばす。勇者はすぐに起き上がるが、既にリューが間合いの中に転移しており、再びパンチが炸裂する。
ユサーク 「うげぇっ! ゲボォッ! ブグゥ……」
何度となくリューのパンチを浴びては吹き飛ばされる勇者。立ち上がれなくなれば今度は四つん這いの勇者を蹴り飛ばし始めるリュー。
勇者は這々の体で近くに居たジョディの後ろに隠れながら言った。
ユサーク 「おい、ジョディ! 俺を守れ! お前は俺の盾なんだろう?」
リュー 「もうお前たちを縛っていた鎖は切れたのだ、無理に命令に従う必要はないのだぞ?」
ジョディ 「私は……勇者様を尊敬しています。私なんかを勇者パーティに入れて頂いた恩がありますから……私は自分の仕事を全うします」
そう言うと、気力を振り絞りジョディはヨロヨロと立ち上がり、リューの前に立ち塞がった。すでに盾も割れてしまっているため、両手を広げてその身を盾にする姿勢である。だが……かろうじて立っているだけのジョディは、デコピン一発で倒れてしまいそうである。
どうしようかとリューが考えていると、ジョディは突然後ろから蹴られ、膝をついて倒れてしまう。蹴ったのは勇者だった。
ユサーク 「おい! 何をやってる! さっさと攻撃しろよ!」
倒れてしまったジョディに、もう立ち上がる力はなかった。
リュー 「最低だなお前。そろそろ殺しておくか」
聖女アガタ 「お待ち下さい! 管理ダンジョンを破壊しようとした事は謝ります、素直に撤退いたします、だから、どうか、許してもらえませんか?」
リュー 「無理やり隷属させられていたんだろう? こんな奴、庇う価値あるか?」
アガタ 「確かに行動は縛られていましたが、私達は望んで勇者様のパーティに加わったのです。最低の男ではありますが、大いなる災いから世界を救うには、勇者の力が必要なのです。どうか、命ばかりはご容赦願えませんでしょうか?」
リュー 「都合が良い話だな。ソイツは殺す気で刃を向けてきたんだ、俺だけでなく、無関係なヴェラまでな。人を殺そうとするなら、当然、自分が殺される覚悟もあるべきだろう」
アガタ 「申し訳有りません……どうしてもと言う事であれば、私が、この身を捧げます、ですから他のみんなの命は、どうかお助け下さい」
リュー 「……やれやれ。素直にダンジョンから出ていくなら、許してやるか……」
だが、必死で勇者を庇う聖女をよそに、勇者は現実が受け入れられないようであった。
ユサーク 「うぅ……こんな、馬鹿な……まさか、そうか貴様、魔王か? 魔王なのか?!」
リュー 「魔王ちゃうわ!」
だが、パニックを起こした勇者は、突然脇に置いてあった勇者一行の荷物に飛びつき、何かの魔道具を取り出した。
すると、勇者の足元に魔法陣が浮かび、勇者が消えてしまう。転移である。
呆然としているアガタ達。
リュー 「……逃げた?」
アガタ 「……はい。“精霊の羽根” を使ったようです。一度しか使えない使い捨ての魔道具ですが、ダンジョンから脱出できると言われています。非常にレアな品で、王宮の宝物庫に眠っていたモノを王様が持たせてくれたのですが、今まで一度も使った事はありませんでした」
リュー 「……一人で逃げたって事か? 皆を残して? どこまでクズなんだ」
アガタ 「も…申し訳有りません……」
さすがの聖女も呆れた顔をしていた。
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次回予告
クズ勇者・・・
乞うご期待!
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