第534話 だが断る!

仲間たちも気が立っていたのだろう、その後は全員で、寄って集ってリューをボコった。そして、ボロボロになって動かなくなったリューの身ぐるみを剥ぎ、森の中に置き去りにしてやった。


「しけた奴だな、金になりそうなのは薬草くらいだが、それも大した金額にはならん」


「ないよりゃマシだろ。今日はまったく稼げてねぇんだからな。他の冒険者でも襲わにゃ酒も飲めねぇ」


「だが、みつけた冒険者がコレじゃぁ、無駄働きのようなもんだな」


失くした装備やアイテムの補填に、カモにできそうな冒険者を見かけたら殺して金を奪ってやろうと思っていたんだが、出会ったのが魔抜けのリューだったので稼ぎにはならなかった。本当に使えねぇ。まぁストレス解消にはなったがな。


そうして、俺達はリューを森に置き去りにして街へと帰った。リューはもう虫の息だったから、放っておけば死ぬだろう。仮に死ななかったとしても、動けない状態で裸同然で森に放置したんだ、ゴブリンにでも襲われてすぐ死ぬだろうと思っていた。だが……


翌日、なんと奴は生きて戻って来やがった。どうやって生き延びたのか……偶然誰か通りがかって助けられたのか? 運のいい奴だ。


だが、その後が滑稽だった。街に戻った奴はギルドで俺達に襲われたと訴えたんだが、当時のギルマスだったダニエルに相手にされなかったんだ。


「本当にヤッチマ達だったか? 顔をはっきりと見たのか?」


奴は俺の隠形を使っての不意打ちで昏倒していたのだから、当然、はっきりと顔を見ているわけがない。はっきり見たと強弁すればまた違ったかも知れんが、奴はバカ正直にはっきりとは見ていないと言っちまったから、もうダメだった。ダニエルは「確たる証拠がない」と相手にしなかった。


まぁ俺達とすれ違った後にいきなり後ろから殴り倒されたんだから、俺達以外に誰が居るんだ? って話なんだが(笑)


しかし、当時のミムルでは、無能な新人の扱いはそんなもんだった。悔しかったら強くなれって方針だったからな。


だが、その後しばらくして、街の外を跋扈する盗賊の存在が問題となり、領主から討伐依頼が出てしまった。


実は、街の周辺で冒険者や商人を襲っていた盗賊は、俺の仲間だった。犯罪や問題を起こして街を追放された元冒険者などのはぐれ者を集めて、強盗の仕方を教えてやって利用していたんだ。


俺は、討伐依頼が出た事をいち早く盗賊達に伝え、一緒に街を離れた。もし盗賊共が捕まったら、俺が関わってた事もバレちまうからな。


それから、何年か経ってほとぼりも冷めたろうと思って戻ってきたんだが、まさかリューが生き残っていて、しかもSランクになってるとか、信じられるわけねぇだろう…


奴は俺を見下ろしながら言った。


「お前は、あの後すぐ、姿を消してしまったからな……。他の連中はしっかり教育・・したのに、お前一人だけ赦すのでは不公平というものだろう?」


「…どうする気だ?」


「お前がやった事と同じ事だよ」


奴は俺の胸ぐらを掴むと空へと飛び上がった。両腕と片足を切り落とされてる俺はなすがままだ。


と言うか、一体何なんだコイツは?! 背中から羽が生えてきたぞ? まさか、コイツ、人間じゃなかったのか! どうりで、ボコって森に放置しても死ななかったわけか? コイツは…手を出しちゃいけないヤバイ奴だったってのか……?


後悔しても後の祭りだった。


奴は、俺を森の奥へと運び、捨てた。


「おい、まさか……」


近くでゴギャギャという鳴き声が聞こえる。ゴブリンが居るようだ。奴はわざとその近くに俺を降ろしたのだ。


「頼む、許してくれ! ゴブリンに生きたまま食い殺されるなんて悍ましすぎる! それに、ゴブリンに食い殺された奴はゴブリンに転生するって聞いたぞ! そんなのは死んでも嫌だ!」


「ほう? そんな話は初耳だが……


…だがじゃぁお前はあの時、俺などはゴブリンに転生すればいいと思って置き去りにしたって事だよな? それなのに、自分は嫌だって、そんなのが通ると思うのか?」


「あ、あの頃は……上位ランクが底辺ランクに厳しく当たるのは、悔しかったら強くなれって叱咤激励の意味があったんだよ! あの時、ミムルのギルドはそういう方針だったんだよ! ギルマスの、ダニエルの指示だったんだ!」


「じゃぁ、お前より上位のランクである俺は、お前に厳しく当たったっていいよな? 悔しかったら強くなればいい。これは叱咤激励の愛の鞭ってわけだ」


「しっ、死んじまったら強くなれねぇだろうが」


「俺も普通なら確実に死んでた状況だったけどな。だが、俺は幸運にも生き残った。お前も運が良ければ助かるかも知れんぞ?」


「そっ……、なぁ、頼む……ひと思いにやってくれ!」


「そんなにゴブリンに殺されるのは嫌か?」


「嫌です!」


「そんなに殺してほしいか?」


「頼む!」


「そうか……


…だが、断る!


来世はゴギャゴギャ叫んでろ」




  * * * * *




そして、リューは飛び去り、その後すぐにヤッチマはゴブリン達に発見された。ヤッチマが殺してくれと大声でリューに縋ったため、ゴブリンに気づかれてしまったのだ。


最初は警戒していたゴブリン達だったが、ヤッチマが動けない状態である事に気づくと、面白がって嬲り始めた。


Aランクの冒険者であるヤッチマならば、ゴブリンなど片手で捻り潰せる雑魚モンスターである。残った片足で一匹は蹴り殺したものの、その足を棍棒で砕かれた後はなすすべもなく…


棍棒で体を砕かれ、錆びて鈍った切れない刃物で体を切り刻まれ、内臓を引きずり出されながらヤッチマは死んでいったのであった。






さて、逃げたヤッチマの仲間達であるが……


もちろん、リューはソイツラも逃がす気はなかった。盗賊たちとグルになって自分を殺そうとしていたのだから。


だが、リューは追う必要がなかった。逃げようとした男達は、すぐに立ち止まって逡巡していたからである。


ヤッチマを置いて逃げていいのか迷っていた……わけではなく、いつの間にか、エリザベータが地上に降りてきて立ち塞がっていたからである。


男達は迷っていたが、結局、後ろのリューと戦うよりは、前にいる、子犬を抱えた少女と戦う事を選んだのであった。


その判断はもちろん間違いであった。まぁ、リューと戦っても勝ち目はなかったのだが。唯一、可能性があったとしたら、三人が別々の方向に逃げれば、誰かしらは逃げ切れる可能性は(少ないなりにも)あったかもしれない。だが、戦う事を選んでしまったので、結末は一瞬で訪れた。


エリザベータは片手に子犬を抱いたままだったが、剣を抜き襲いかかって来る男達に向かって、残る片腕を鋭く振った。その瞬間、男達の頸が飛ぶ。ドラゴンクロウである。


リューがやると、威力はあるので武器・防具ごと両断できるが、攻撃が粗いので、対象はバラバラになって吹き飛んでしまう。だが、エリザベータのそれは、狙った場所に正確に集束され作用するため、対象が吹き飛ぶ事はなく綺麗に切断されてしまうのだ。


それを見ていたリューが呟いた。


リュー 「さすが、やるね…」


    ・

    ・

    ・


リュー 「幻滅したか?」


自分の残虐な行いに、リューはエリザベータが引いただろうと思った。だが


エリザベータ 「別に? 昔酷い事されてたのは聞いてたし。当然の復讐よ。私も一人旅だったから、しょっちゅう盗賊やら冒険者やらに襲われたしね。そんな連中は情け容赦なく……」


エリザベータは親指で首を斬る仕草をした。


エリザベータ 「むしろ、アッサリ殺してしまって悪かったわね。復讐にもっと甚振りたかった?」


リュー 「いや、そいつらには恨みはなかったから構わんよ。ミムルでは見なかった顔だ、おそらくヤッチマとは別の街で仲間になったんだろう」


エリザベータ 「盗賊達もグルだったのよね? 人間って、本当、クズばっかりよね。里で言われてた事は本当だったわ…」


リュー 「……」


エリザベータは自分達竜人は人間とは違うと言う意味で言ったのだが、リューは自分をずっと人間のカテゴリで認識していた(実際、リューの魂は人間のそれである)ので、人間=クズと言われると微妙であった。


しかし、実際、この世界の人間はクズばかりなのも事実で、否定もできないのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


修行編?!


乞うご期待!



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