第489話 恐ろしく手が早い!

校舎の中に入り、ジャカールを探すヘレン。たしかにジャカールは校舎の中に入っていったはずだが、その姿はどこにも見つからないのだった。


リュー 「居たか?」


後から来たリューに向かって首を振るヘレン。


ヘレン 「来てくれたのね……どこにも居ないわ。見間違い……? いいえ、幼馴染の私がジャカールを見間違うはずがない……」


『ヘレン!』


そこに二人の少女が駆けつけてきた。そのうちの一人がヘレンに駆け寄り肩を掴んで騒ぐ。


アルバ 「ヘレン! 無事?!」


ヘレン 「アルバ……、大丈夫よ……彼は見つからなかったけど」


アルバ 「もうバカ! 一人で無茶して! レイア様を呼んでくるから待っててって言ったでしょ!」


アルバと、一緒に来たもうひとりの女生徒がレイア様らしい。


のだが……


リューは何故かそのレイアを見つめ、フリーズした。


レイアも同様の様子である。


アルバ 「レイア様?」


レイア 「…あ、ああ、ごめんなさい。あの…あなたは? あ、私はマグダレイアです…」


リュー 「俺は、リュージーンだ……えーと……どこかで…会ったことがあったかな?」


レイア 「いえ、ない、と、思いますけど……でも、私も、どこかで会ったような気がします……何故でしょうね?」


リュー 「あ、えと、君も、この学園の生徒なのか?」


レイア 「ええ、あなたも? って、お互い、制服を着てるんだから、当たり前ですね…」


アルバ 「ちょっと! 何をしてるのよアンタ! その手を離しなさい」


リューとレイアは、会話しながら徐々に近づき、いつのまにか手を握り合っていたのだった。それも、指の間に指を入れる “恋人繋ぎ” である。


リュー 「え? あれ?」


レイア 「あ、あら! やだ、いつのまに…」


アルバがレイアをかばうように二人の間に割って入る。手を放し、離れる二人。


アルバ 「アンタ、何者?! 恐ろしく手が早いわね! 魅了のスキルでも持っているの?! さてはこの校舎に巣食う不良生徒ね?! そうやって女生徒を誑かして暴行してたのね?!」


ヘレン 「違うわ、アルバ、この人は! 不良達に襲わそうになったのを、この人が助けてくれたのよ!」


アルバ 「助けてくれた…? あ、さっき外に不良達が縛られて転がされてたけどあれ? ってか襲われたって?! 大丈夫なの?」


ヘレン 「私は大丈夫よ、襲われる前に彼が助けてくれたから」


だが、リューは話を上の空であまり聞いておらず、アルバの後ろに隠されて遠ざけられてしまったレイアを目で追っていた。


レイアもまた、リューを見ている。


レイア 「あなたは……誰?」


リュー 「君は……誰だい?」


アルバ 「とにかく! 一旦戻るわよ! ヘレンも一人で悩んでないで、リーチェ様に相談しましょう!」


リュー 「リーチェって、さっきヘレンもそう呼んでいたな」


ヘレン 「ええ、ベアトリーチェ様よ」


リュー 「やっと会えそうだな」


アルバ 「?」


アルバ 「…なんでアンタがベアトリーチェ様の事知ってるのよ? まさか……狙ってるの!?」


リュー 「狙ってる? 何のことだ?」


    ・

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    ・


西棟校舎から引き上げたリューとヘレン、アルバは、一旦学園長室へ行ってヘレンが襲われた事を報告した。


もちろん、ヘレンが襲われた事も極秘である。未遂で何もなかったのだが、噂が立つだけでも未婚の貴族の娘にとっては致命傷になりかねないからである。


これまで暴行にあった女生徒達の情報もすべて厳重に伏せられて来たのだ。今回の件も、学園長が極秘裏に処理してくれるということであった。


もちろん、生徒達はキチンと回収して取り調べると約束し、学園の警備員に連絡していたので、任せる事にして、三人は学園長室を出た。


もう午後の授業も終わってしまっている時間だったため、寮に戻る事にしたヘレンとアルバとレイア。


その後をついていくリューであったが……


アルバ 「ちょっと! ついてこないでよ!」


リュー 「いや、だから、俺もベアトリーチェに用があるんだよ」


アルバ 「嘘! 今度はリーチェ様に近づこうって魂胆なんでしょ! 信用できないわ、来るな! あっち行け!」


リュー 「本当に用があるんだって。ユキーデス伯爵に頼まれたんだよ」


アルバ 「見え透いた嘘を…」


リュー 「本当だって! 学園に行けば娘に会えると言われたんだが、休んでるみたいで会えなくてな。だが、本人に連絡が行ってるはずだ、訊くだけ訊いてみろよ。勝手に判断して後で怒られてもしらんぞ?」


アルバ 「…じゃぁ、訊くだけはきいてみてもいいわ。だけど、どっちにしろ今日は無理よ」


ヘレン 「そうですね、風邪で寝込んでいるので、すぐに会うのは無理じゃないかと…」


リュー 「なるほど、そりゃそうか…」


アルバ 「押しかけても無駄よ? 女子寮は男子禁制だからアンタは入れないんだから。諦めなさい」


リュー 「女子寮に向かってたのか……」


ヘレン 「安心して、リーチェ様には伝えておきますので」


アルバ 「リーチェ様が会うっておっしゃらない限り、近づいたら許さないわよ? こちらにはレイア様だって居るんだから、強引に近づこうとしたらコテンパンにされるだけよ!」


しっしっと追い払うような動作をするアルバ。名前を出されてレイアは少し困った顔をしていたが。


レイアもリューと話したそうにしていたのだが、アルバはあれからずっと、リューとレイアの間に入り、二人を遠ざけるようにしているのだ。


レイア 「あ、あの…」


だが女子寮に到着してしまい、レイアはアルバに門の中にグイグイと押し込まれてしまう。


アルバ 「こっからは立入禁止よ! さっさと消えなさい!」


ヘレン 「ご、ごめんなさいね…普段はあんな子じゃないんだけど、レイア様大好きっ子で、レイア様に近づく男が居ると、女でもだけど、ああなっちゃうのよ……」


結局、女子寮の門番に睨まれながら、アルバ達を見送る事しかできなかったリューであった。


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リュー 「しかし、あの娘は、なんだったんだろう……というか、何だろう、初めての、不思議な感覚だったな……」


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レイア 「あの人は一体誰だったのかしら……?」


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アルバ 「なんなのよアイツ! レイア様に馴れ馴れしく! 私だってまだ手を繋いだ事ないのに! あんなに簡単に女の子の手を握るなんて、悪い奴ねきっと! レイア様もなんであんな簡単に……あれはきっと【魅了】のスキルでも使っていたのよね。そうやって女生徒を誑かしているんだわきっと。もしかして、最近起きてるって噂の婦女暴行事件や生徒の失踪事件もアイツの仕業かもしれないわね……」


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― ― ― ― ― ― ―


次回予告


失踪する生徒達…


乞うご期待!



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