第244話 リューも移動開始

ドロテアとランバート、王都へ帰る馬車の中。


ドロテア 「ガーメリアはどうした?」


ランバート 「ガーメリアはあのリュージーンとかいう者の監視に残りました」


ドロテア 「何? 暗部を動かすよう指示したはずだが?」


リュージーンの事を王に報告するため王都に帰る事にしたドロテアであったが、一国を滅ぼすほどの力を持ったリュージーンをそのまま野放しにしておくわけにもいかず、監視だけは付けておくよう命じていたのだった。


ランバート 「それが、急な事だったので暗部の手配ができず、とりあえずと言うことでガーメリアが残ると言いまして」


ドロテア 「ほう、暗部の手配がつかなかったと?」


その言葉に少しランバートが焦る。


暗部は国中の都市に潜伏させている。ドレッソンの街にも当然居たはずなのである。手配が付かないというのも苦しい言い訳であった。


ランバート 「それが、その…」


ドロテア 「ガーメリアの我儘か……まぁ良い。ガーメリアほどの実力であれば問題はないだろう。……いや、問題あるか? 余計な事をしないとよいのだが……」


ガーメリアはドロテアの直弟子の四人つまり宮廷魔導師四天王の一人であり、実力では四天王の中でもトップである。つまり、ドロテアは別格として、魔法王国ガレリアの中で最高の実力の魔導師なのだ。


仕事もできるしリーダーシップもある。弟子を育てる指導力もある。(ランバートはガーメリアの最初の弟子であった。)


だが、ガーメリアは少し師であるドロテアを崇拝し過ぎる部分があり、その点についてだけは暴走しがちな部分があるのだ。「絶対認めない」などと言っていた事を考えると、リュージーンに余計なちょっかいを出しかねない。


ドロテアが心配しているのはリュージーンではなくガーメリアの身なのだが。リュージーンに下手に手を出せば、いくら四天王最強の魔道士と言えど、返り討ちにあってしまうだろう。ドロテアが敵わない相手なのだから、それより弱いガーメリアに勝てるはずはないのだから。


ただ、ドロテアが見た所では、リュージーンはそれほど激しい性格には見えなかった―――冒険者とトラブルになっても、全員軽症で済むように終わらせていると聞いた。なので、よほどの事がない限りは、殺し合いにまではならないだろう。ガーメリアもそこまで無茶はしないだろうと思える程度にはドロテアも信頼している。


ただ、別の問題もある。そちらのほうがドロテアにとっては頭が痛い。それは……王宮に宮廷魔道士四天王の一人が居なくなると言う事は、その分の仕事を誰かがこなさなければならないわけで……


ドロテア 「だがそれだと、ガーメリアが抜けた分の仕事を私がやらされる事になるんじゃないのか?」


実はドロテアは、弟子四人が立派に育った今、極力仕事は四人の弟子に任せて、自分は手を出さないようにしていた。名目としては弟子たちの成長のためという事になっている、その意味も確かにあるのだが、一番の理由は、ドロテアが仕事をしたくないからなのであった。


もともと好きで就いている立場ではない。本当は宮仕えなど辞めて野に下り、自由に生きたいのだが、王がそれを許してくれないのだ。


ドロテア 「だったら、私が監視につくからガーメリアを戻そう、うん、そうしよう、それがいい。おい、馬車を引き返させろ!」


ランバート 「いけません! ガーメリアの仕事は私が全部やりますから安心して下さい。王からは、先生を王宮に留めるように全力を尽くせと命じられています、先生が居ないと王も不安なのでしょう」


ドロテア 「あの子もいい加減、独り立ちしてほしいんだがなぁ……」


もちろん、ガーメリアが監視に残ったのは、師であるドロテアに認められたリューへの嫉妬であった。ガーメリアは師を敬愛しているが、それは、激しく恋い焦がれていると言ってよいレベルであった。(男装の麗人という風体のドロテアは女性に非常にモテるのである。)


その気持ちは四天王の四人とも同じであった。ガーメリアをトップとする四天王の四人は、宮廷魔道士の同僚というだけでなく、共通の偶像アイドル=ドロテアを崇拝する仲間でもあったのだ。


そんな師が、自分達直弟子を差し置いて、突然現れた謎の男を認めたのである。そんな事はあってはならない。ましてや、絶対無敵の師が負けた?! そんな事は絶対にあってはならない事。ガーメリアにとっては神にも等しい師ドロテアが負けたなど、とても信じられない事であったのだ。


話を聞いたガーメリアは、ランバートには有無を言わさず監視を買って出たのであった。


もちろん、単なる監視だけで済ませる気はない。リュージーンの実力を、いや嘘を見極め、弱点を探り、隙あらば倒してしまおうと思っていたのである。


弟子であるガーメリアに破れるような相手であると知れば、ドロテアも目を覚ますであろう。


リュージーンの実力が信じられないガーメリアは、おそらくリュージーンは “幻術” の使い手であったイドリエル・デヴィンの関係者なのではなかろうかと疑っていた。


正体を暴いて師の目を覚まさせなければならない使命感にガーメリアは燃えていた。



   *  *  *  *



リュー 「そろそろ街を出るか」


ヴェラ 「そうね……そう言えば、ユサークはどうするの?」


リュー 「いや、奴ももうこの街には居ない。見失った」


ヴェラ 「え、行方不明?」


リュー 「いや、改めてじっくり落ち着いて探ったところ、ドロテアが西に移動していくのを見つけてな。ドロテアは王都に帰ると言っていたが、一緒に移動する者の中にユサークを発見した。どうやら魔力を抑える魔道具を装着しているようだな。異様に魔力が小さくなっていたので、別人かと思って見逃してしまった」


ヴェラ 「追跡を誤魔化すために魔力を抑えたのかしら?」


リュー 「いや、そんな方法で追跡されているとは思っていないだろう、おそらく……魔力を抑える枷を嵌められているのだろう」


ヴェラ 「それって、捕まったってこと?」


リュー 「ああ、騎士たちと一緒に移動しているようだ。その中にはドロテアの魔力も感じる。つまり、ユサークは王都に護送されている途中なのではないか?」


ヴェラ 「ドロテアはそのためにこの街に来ていたって事なのね」


リュー 「いや……」


リューはドロテアが何が目的で来たのかを知るために神眼でドロテアの心の中を読んでいた。だが、ドロテアの中にあったのは純粋な “好奇心” であり、ユサークの情報は微塵もなかったのだ。


ただ、リューは神眼の能力についてだけは、ヴェラにも詳細を明かしていない。【魔眼】の上位レベルであると言ってあるので、心を読む能力まであるとは思っていないはずである。


リュー 「おそらく、後から来た四天王とか言うドロテアの部下がその目的で来ていたのだろう」


ヴェラ 「勇者がこの国に捕まったとなると、まずいかしら? 戦争に利用される?」


リュー 「奴はもう勇者ではないからな、利用する価値もないだろう。捨てられるか、あるいは、そこそこ戦闘力はあるから兵隊として使い潰される事になるのかもなぁ」


ヴェラ 「じゃぁ、私達も王都に向かうってことね?」


リュー 「あまり気がすすまないが。あそこまで魔力が小さくなると、あまり離れると追跡も難しくなるからな。とは言え、まぁのんびり行こう、最終的には逃がす気はないが……俺にとってはユサークは道標の一つに過ぎん、何も目標がないと、次にどこに行くか定まらんからな」(笑)



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


峠には盗賊がいるのもお約束?


乞うご期待!




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