第245話 峠で盗賊に襲われる

街を出たリューとヴェラ。


冒険者ギルドにも特に何も伝えていないが、依頼を受けたわけでもなし、この街で冒険者として活動していたわけでもないので問題ないだろうという判断である。


当然、ドレッソンの街の冒険者ギルドとしては実力のある冒険者に街に残って欲しかったであろうが、そんな事はリューの知った事ではない。


ワイラゴのダンジョンの中に草原フィールドの階層を作りそこに放牧していた二人の馬を転移で呼び戻し、二人は旅を始める。(草原フィールドはあくまで放牧用の設定なので、他の階層と通路を繋げていないので冒険者が入り込むこともないし魔物も出ない設定にしてある。)


しばらく街道を進む二人。しかしそこでリューが言った。


リュー 「んー……尾行ツケてくる奴がいるな。この気配は……ドロテアの部下の一人、ガーメリアとか言う奴か」


リューとヴェラの数百メートル後ろを三騎で移動している。旅の途中の騎士を装ってはいるが、こちらが速度を早めても遅めても、ずっと同じ距離を保っているのが妙なのである。


まあそれ以前に、ビンビンと敵意がリューに刺さってくるので丸わかりなのだが。


ヴェラ 「私達を?」


リュー 「ああ、監視を命じられたというところか? しかしだったらもっと隠密行動が得意な者に任せればいいものを……」


ヴェラ 「どうする?」


リュー 「放っておこう、巧妙な尾行をつけられると厄介だが、間抜けな尾行はこちらも分かりやすくていい」





そのまま追跡は無視して馬を進めていくと、今度は山中で盗賊が待ち伏せしているのが分かった。危険予知が発動したので行く先を神眼で探ったら判明したのだ。


リュー 「これもこの世界のお約束だね」


ヴェラ 「この国は戦争が多くて荒れているから野盗が多いと聞いたわ」


峠の細い道。両側は切り立った崖になっていて、谷底の道を進む旅人には逃げ場がない。その崖の上に身を潜めている者が十数人。


だが、この国の盗賊は、これまでの国とはちょっと違った。このシチュエーションなら通常であれば上から矢や投石で攻撃してくるのが定石であるが、さすが魔法王国、この国の盗賊は、全員が魔法で攻撃してきたのだ。


そこでリューは、新技を使って対処してみた。リューを中心に半径100メートルほどの範囲内にある魔法を全て分解・無効化してしまう。


待ち伏せしている盗賊達は手を翳し、火球を打ち込もうとするが、魔法が水をかけたろうそくのように消えてしまう。


盗賊たちが戸惑っている内に、リューとヴェラは峠を通過してしまった。


リューは、あえて盗賊達の体内の魔力は奪わずに残してやった。それは、後から尾行つけてきている者達へのちょっとした嫌がらせである。


リュー達はのがしてしまったが、すぐ後からもう一組、獲物が来ているのだから、当然、盗賊達はリュー達を無理に追わず、後から来た者を襲うだろう。


まぁガーメリアは宮廷魔道士だそうだし、騎士達も当然それなりの実力があるはずだから余裕で切り抜けられるだろうと踏んでの事であるが。



   *  *  *  *



騎士A 「ガーメリア様、この先の峠には盗賊が出没するという情報がありますが、いかが致しますか?」


ガーメリア 「?」


騎士B 「このまま行くと、監視対象が盗賊に襲われる恐れがありますが」


ガーメリア 「放っておけ。別に我々の任務は対象の護衛ではない」


騎士A 「よろしいのですか?」


ガーメリア 「その程度で殺られるようなら、しょせんそこまでの者達であったと言うことだ。ドロテア様には私が報告しておくから心配する必要はない」


だが、不思議な事に、リュー達は特に盗賊に襲われる事もなく、すんなりと峠を通過してしまった。峠には確かに野盗の気配があるのにも関わらずである。


騎士A 「盗賊達も襲う価値がないと判断したのでしょうか?」


     ・

     ・

     ・


警戒しながらガーメリア達が峠に差し掛かったところで、突然上から火球の雨が降り注いだ。


金目のモノを置いていけと声を掛けるのではなく、取り敢えず殺してから奪うというハードタイプの盗賊である。


だが、さすがガーメリア、瞬時にそれを察知し、障壁を展開して攻撃を防いた。師であるドロテア譲りの魔法障壁である。


それを見た盗賊達は、相手が手強いと悟り、無理に戦おうとはせずに撤退する事にしたようだ。良い判断であった。討伐されずにしぶとく生き残っているのはこういう慎重さゆえか。



    *  *  *  *



そのままガーメリア達が盗賊を撃退しに向かうなら、その間に先に進んでしまおうと思うリューであったが、ガーメリア達は逃げる盗賊を追おうとはしなかった。


そこで、リューは道を引き返し、声を掛ける事にした。急に監視対象が戻ってきたのでガーメリア達は少し面食らっているようであったが。


リュー 「大丈夫か? 確かガーメリアとか言ったな、ドロテアの部下の?」


騎士A 「なんだお前、無礼だぞ! ガーメリア様を呼び捨てなど!」


騎士B 「お前は平民だろう? ガーメリア様は子爵位をお持ちの貴族であり、宮廷魔道士四天王のお一人だぞ? もちろん我ら騎士もナイトの爵位を持っておる。平民が軽口を聞いて良い相手ではないぞ」


リュー 「悪いな、俺は敬語が使えない呪いに掛かっているんだ、許してくれ」


騎士 「そんな呪いがあるか。ふざけた事を言いおって、無礼討ちにされても文句は言えんぞ」


リュー 「まぁ冒険者が敬語が上手く使えないのは気にしても仕方がないだろう?」


苛ついた騎士が剣の柄に手を掛けて威圧してきた。


ガーメリア 「よせ、構わん。平民の冒険者は粗野で教養がない者が多い。いちいち気にしても仕方がない」


リュー 「そういう事にしといてくれ。ところで、今、盗賊に襲われていたようだが?」


ガーメリア 「何も問題ない。私も “不滅の要塞” ドロテア・リンジットの弟子だ。盗賊など相手にならんよ」


リュー 「なるほど、だが、それだけの腕があるのに、盗賊を討伐せず放置・素通りでいいのか? 一応アンタも国の重職に就いている身なんだろう?」


リュー(騎士達の方を見ながら) 「国の治安を守るのも騎士の仕事じゃないのか?」


騎士 「生意気な奴だな、殺されないと分からんか」


リュー 「盗賊は放置して、冒険者は殺すってか、この国の騎士の程度が知れるな」


騎士 「なんだと小僧、いい加減にしろよ?」


リューの挑発?に苛ついてついに剣を抜いた騎士。だが、ガーメリアが手を上げてそれを制した。


ガーメリア 「やめろ」


ガーメリア(リューに向き直り) 「悪いが、急ぐのでな。盗賊は、ダヤンの街についたら騎士団に連絡して討伐させる」


普段であればガーメリアとて盗賊団に遭遇してそのまま見逃すような事はしない。だが、逃げる盗賊団を深追いすれば、リュー達を見失ってしまう恐れがあったので、追跡を優先したのだった。正直、今ガレリア国内は荒れていて、盗賊団など掃いて捨てるほど居るのである。ひとつふたつ潰しそこねたところで大した影響はないのであった。もちろん、可能であれば潰していくべきなのではあるが……苦々しい顔をガーメリアがした時、リューが言った。


リュー 「そうか。では俺が討伐してしまってもいいな?」


ガーメリア 「…何? ……別に構わんが……相手はかなりの人数だったぞ?」


リュー 「オレ一人で問題ないさ。どうした? 急いでいるんだろう? はやく行ったらいい」


ガーメリアは急いでいると言ってしまった手前、残るわけにも行かず、馬を進めざるを得ないのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


盗賊殲滅


乞うご期待!



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