第246話 盗賊を殲滅するリュー
去っていくガーメリアト達を見送った後、リューは神眼を使って逃げた盗賊達の位置を捕捉する。
リューの神眼と転移を使った攻撃ならば、直接追わずとも相手を仕留める事が可能であるのだが、あえて今回は転移で盗賊たちの近くに移動した。
盗賊 「なんだ、お前…?」
盗賊達は突然現れたリューに対し武器を抜いて身構える。
盗賊達 「迷子か?」 「まぁいい、やっちまおうぜ」 「今日は収穫ゼロだったからな」 「大したもん持ってなさそうだが、ないよりはマシか」 「手ぶらで帰ったら母ちゃんにどやされちまうからなぁ」
そんな盗賊達の言葉を聞きながら、リューは炎の仮面を装着した。(仮面はベースの銀仮面の上に被せて着ける事ができる。)
盗賊が斬りかかってくる。だが、その男は突然胸を押さえ、苦悶しながら倒れ、死んだ。
心臓に炎を転移で送り込まれたためである。
リューが送り込んだのは生活魔法程度のごく小さな炎である。(仮面の力で繊細な魔法のコントロールが自在となっている)だが、小さな炎であっても体内に直接送り込まれたのでは一溜まりもない。
次の男は、突然白目を向いて倒れて動かなくなった。今度は脳に炎を送り込んでみたのである。
目の前で死んでいく盗賊を、リューは冷ややかな目で見つめていた。
リューが今回、標的の近くにあえて移動してきたのは、遠隔地に居ながら人の命を奪うのではなく、ちゃんと自分の目で相手を殺すと言う事を確認しておきたかったのであった。
リューがダンジョンなどで魔物を狩る際は、神眼で階層内にいる魔物を捕捉し、魔石を抜いてそのまま亜空間に収納、で瞬時に終了してしまう。
盗賊狩りもリューにとっては魔物を狩るのと同じ位置付けであった。盗賊狩りは時々非常に良い稼ぎになる事があるのだ。
(リューは金はたくさん持っていたが、とは言え、最近は良い服を買って、良い宿に止まって値段を気にせず食事している。結構な勢いで金を使ってしまっているのだ。今のところ、全体量からすれば消費した金額は微々たるものではあるが、金はいくらあっても良い。稼げるチャンスには稼いでおきたい。)
だが、一応相手は魔物ではなく人間である。自分の攻撃で相手が苦しみながら死んでいく。この世界で人を殺す事に躊躇がなくなりつつある自覚があったリューは、それをちゃんと自分の目で見ておきたいと思ったのだ。
とは言え、改めて人を殺してみても、特に後悔や躊躇はなかった。
― ― ― ― ― ― ―
この世界でリューはあまり酷い狼狽や混乱の状態になった事がない。比較的安定的な精神を保っている。それは、竜人の体質により、精神に強い安定性が齎されているからなのである。
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リューは別に正義感を振りかざして悪は討つべしなどと言うつもりはない。人間の価値観は人それぞれ。国・文化・立場・思想が変われば “正しさ” も変わるものだと考えているからである。
誰かが正しいと思ってやった行為でも、別の視点から見ればそれは間違っているという事になる。結局、絶対の正義などないのである……地球においてさえ、ロビンフッドのように、悪政を行う王を討つお尋ね者が正義、という場合だってあるのだから。
ましてや、ここはリューがかつて居た地球とは違う、異世界であり、種族すらも人間とは異なる存在が居るのである。魔物から見れば、人間を襲うのは生き延びるためであるし、自分たちを殺す人族は悪の存在でしかないだろう。
野盗に落ちた人間達も、必死で生き延びようと足掻いているだけの者達なのだ。
……とは言え、人の世界で生きている以上、人の世界の価値観・ルールに沿っておいたほうがよいわけで。盗賊はたくさんの旅人の命を奪う、忌むべき存在である。生かしておく理由はない。魔物と盗賊は討伐が推奨されているのである。人の世界に生きていて、それを咎められる事はないのである。
リューもまた、他者を捕食しながら生き延びようとする者である。それを躊躇する理由もないと、どこか達観しているリューなのであった。
次の盗賊には先程より少し大きめの炎―――小さめの
もうひとつ、リューは魔法の練習がしたかったという理由もあった。不死王がくれた仮面とリューの膨大な魔力をもってすれば、あらゆる魔法が使うことができる。そして、仮面を使って魔法を繰り返し使っていれば、そのうち仮面がなくても魔法が使えるように身体に覚えさせる事ができるのである。
火球は着弾と同時に爆裂する。心臓の中に火球を送り込まれた盗賊は、心臓と肺腑を爆発により引き裂かれ、しかし肋骨と鎧に阻まれた爆炎は口から吹き出し、火を吐いて死ぬ事になった。
頭の中に送り込まれた者は、目・耳・鼻・口から頭蓋の内容物と火を吹き出して死んだ。
さらに次は、もっと強めの火球を送り込んでみた。ある者は胸部が爆裂し頭部と両腕が四散、ある者は頭部が突然爆裂してなくなった。
それを見た盗賊達はパニックを起こし、その場から逃げようとするが、リューの神眼からはどこに行こうとも逃れられるわけもなく、次々とリューの魔法攻撃の実験台にされ、全員が死んだのであった。
リュー 「次の世界では真面目にやれ」
転生を経験したリューは、死が終わりではない事を知っている。
仮に盗賊を生かして捕らえたとしても、この世界では死罪は確定である。あるいは、死ぬまで奴隷として劣悪な環境で使い潰され、毎日死を願うような生活となるのだ。むしろ一瞬で楽に死ねただけ幸せと言えるかも知れない。
盗賊退治の作業を終えた後、遺体から金目のものと武器を “収納” した後、遺体を一箇所に山積みにして燃やす。
積み上げるのも転移/収納を使えば簡単な作業である。亜空間に遺体を収納して、一箇所に纏めて出す。あるいは転移を使い直接死体の山の上に死体を移動させる。
爆散して周囲に散った手足や頭部を集めるのが少し面倒だった。死体の処理と遺品から金目のモノを回収する事が必要ならば、刃物を使うか、身体がちぎれないようなごく小さめの魔法を使ったほうが良いと気づいたリューであった。必要ないなら、死体の処理が必要ないように、一気に爆散・消滅させてしまうほうが面倒がなくて良いだろう。あるいは、これまで同様、ダンジョンの中に送り込んでしまう手もある。ダンジョンは、生物の死体は時間が経つと吸収されて消えてしまうのであるから。
死体・部品が積み上がった所で、リューは次元障壁で遺体の山を囲い、その中に火の魔法を叩き込んで焼却した。
次元障壁で囲っているので、安心して手加減無用の火炎を投入し、あっという間に焼却完了である。
作業を終え、リューは欠伸しながら退屈そうに待っていたヴェラの元に戻った。
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次回予告
盗賊のアジト
乞うご期待!
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