第37話 ケンゴの最後
ようやく周囲の様子が変わった事に気付いたケンゴ達が、狼狽えながら周囲をキョロキョロ見回している。
リュー 「東のダンジョンの近くの森だよ、ここなら邪魔は入らんだろう?…少し明るくするか。」
リューは火球を四方に放ち、周囲の木を燃え上がらせた。(リューは時空系魔法以外の魔法は使えないが、いつぞや、ビッグの仲間が放った火球を亜空間に収納したままになっていたので、それをいくつか解放したのである。)
空き地の周囲は魔物や野生動物が入り込んでこないように次元障壁で囲ってある。炎上する木も次元障壁で囲い、火が広がらないようにした。
リュー 「で?何の用だ、こんな夜中に?」
ケンゴ 「て、てめぇ、どんなトリックか知らんが……やることに変わりはねぇ!おい、お前らッ!」
ケンゴの合図で我に帰ったチンピラ達が一斉に剣を抜いた。ほとんどが短剣であるが、中には長剣を持ったものも居る。
リュー 「物騒だな、どうするつもりだ?」
ケンゴ 「テメエは手足を切り落としてから嬲り殺しにしてやるぜ。死体はスラムの町で晒してやる、今後、逆らう奴が出ないようにな!」
リュー 「……タンジ、お前もか?」
ケンゴの仲間の中に居た、教会孤児院出身のタンジに問いかけるリュー。
タンジ 「う、うるせぇ!殺してやる!」
タンジは短剣をリューに向けながら殺気の籠もった目をリューに向けた。
リューの目が金色に光る。
神眼を発動させたリューは、タンジの心を覗くだけでなく、その未来をも見る。
選択し得るいくつかの
知らぬ仲ではない、短い時間ではあったが孤児院で一緒に暮らした事もあるタンジは、できれば助けたかったのだが……ため息をつくリュー。
リュー 「ひとつ警告しておく。殺しにくるなら、俺も手加減はせん、死ぬ事になるぞ?覚悟がある奴だけがかかって来るがいい。」
ケンゴ 「この人数相手に!弱っちぃテメエが一人で何ができるってんだ!やっちまえ!」
だが、リューに向かって走り出した人間の首が、次々と地面に落ちた。
全員の頭部を囲うように亜空間を設定し、その空間を“切り離す” と、頭部だけが別の次元の空間となる。次元障壁で首と胴が切り離された状態である。一瞬にして切り離した亜空間を解除すれば、胴と切り離された頭部は、切断されたかのように切れてしまう事になる。
これをリューは「次元斬」と名付けた。
ケンゴ 「どうしたお前ら?!」
リューに襲いかかり、首を斬り落とされて倒れていく仲間達。リューは指一本動かしていない。
ケンゴ 「おい!どうしたっ!何をしたぁぁっ!?」
リュー 「言っただろ、死ぬことになると。」
ケンゴ 「……!」
リュー 「ケンゴ、お前には聞きたい事があってな。なんでずっと、しつこく俺に絡んできたんだ?」
ケンゴ 「お前が・・・お前が悪いんだよ!なんでお前だけ……」
リュー 「……?」
ケンゴ 「俺は……、俺だって孤児だったんだ!だが、両親が死んだ後……俺は誰にも助けてもらえなかった!一人で泥を啜りながらスラムで生きてきたんだよ!」
ケンゴ 「だがお前らは、教会に拾ってもらえた。特にリュー、お前はスラムで苦労する事もなく、街に来るなりいきなり教会で世話してもらっただろう!」
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リューはこの街に放り出された時、12歳であった。ビッグの父親に多少の金は持たされていたものの、遊んで暮らせるような金額でもない。そこで、リューは安い宿を探してスラムに近づいたのだが、そこで強盗に襲われてしまったのである。
全財産を奪われ頭から血を流し倒れていたリューを発見して助けてくれたのがボーダータウンの教会のシスター、アンだったのである。
それから教会で世話になることになったリューは、スラムで一文無しで生きて行かなければならない、というような経験をしなくて済んだのだ。それは確かにラッキーであったと言える。
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ケンゴ 「俺は、そんなお前らを許せねぇんだよ!」
タンジ 「俺の事も、そう思ってたのか……?」
リューを襲う事に躊躇してその場を動けなかったタンジは、まだ生き残っていた。
ケンゴ 「当たりめぇだ!どっかで使い捨てにしてやろうと思ってたんだよ!いずれのし上がったら、教会もぶっ潰してやる。安心しろ、スラムの孤児は立派な犯罪者になれるよう、組織で育てる事にする計画らしいぜ?!」
計画らしいと言う事は、上部組織である四夜蝶がそんな事を考えているという事なのかも知れない。
ケンゴの境遇は気の毒とは思うが、教会に手を出すと言われれば、生かしておくこともできない。
ケンゴの首が地面に落ちた。
リューは、ケンゴ達に多少の恨みはあったものの、そこまで深い恨みというわけでもない。境遇を聞いてしまえば気の毒に思うところもある。せめて、苦しませずに死なせてやったのはリューの情であった。
死後の世界、そして転生があることをリューは自ら体験して知ってしまった。
であれば、生きている事がなにより重要とは言えなくなる。
この世で地獄のような生活から抜け出せないなら、次の世界に行くほうが良い場合だってあるだろう。
命を簡単に奪う事に抵抗がないわけではないが……自分だけならばまだしも、自分の大切な者達までも殺そうとする者は、排除するしかない。
そもそもこの世界は簡単に人の命が失われる。
死んだものは、また次の世界に転生していくのだろう。
自分もまた、いずれ死んで、転生時に女神の代理者と話したあの世界に戻るのだ。
せめて、次の世界では幸福な境遇に生まれ代われる事を願い、楽に逝かせてやる事がせめてもの情である。
2~3人、リューを襲わなかった連中が走って逃げていったが、タンジは立ち尽くしていた。
リューはタンジのほうへ向き直り、近づいて行った。
タンジ 「ひっ・・・?!」
短剣をリューに向けて震えているタンジにリューは言った。
リュー 「俺は未来を予知する事ができる。」
タンジ 「……?」
リュー 「お前は近い将来、悲惨な死に方をする。」
タンジ 「……なにを言って…?」
リュー 「だが、未来は絶対ではない。自分の決断によって、未来は常に変わる。お前の選択、お前のこれからの生き方次第で、未来は変わっていくのだ。よく考えて生きる事だ。」
気がつけば、タンジはボーダータウンの路地に居た。リューが転移させたのだ。
結局リューはタンジを殺す事はできなかった。どうせ悲惨な未来しか待っていないなら、ひと思いに殺してやり直させる事も情かとも思ったのだが……
可能性は極めて低いが、絶対ではない。未来は常に変わるのだ。あとはタンジの選択次第である。。。
リューはケンゴ達の死体を広場中央に集める。転移を使って一箇所に集めるだけなので大して時間は掛からない。一旦亜空間に収納して、広場中央に再び出すだけである。
死体を積み上げたら、火球を放って火を付ける。
死体を放置しておくと血の臭いに吊られて獣や魔物が集まってくるし、死体がアンデッドになって蘇ったりする事があるので、魔物の死体は必ず処理するのが基本的ルールとなっている。
パーティの仲間が死んだ場合なども、できるだけ遺体は処理する事が推奨されている。かつて仲間だった者がアンデッドになって彷徨うというのはあまり気持ち良い光景ではないからだ。
ここは森の深くなので、放置しておいてもあまり問題はないのだが、一応念の為処理しておくことにした。
ただし、普通に焼いた程度では、骨は残る。
スケルトンと呼ばれる骨だけのアンデッド系の魔物が居る。骨だけになってもアンデッド化することはあるわけだ。
だが、基本的には焼かれた骨からはアンデッド化はしにくいと言われている。ただし、絶対ならないかと言うとそこまでの検証は行われていないので不明である。
実際にはアンデッド化というのは、本人の生への執着が異常に強いことと瘴気と呼ばれる濃縮された淀んだ魔力溜まりが揃う事で発生する現象なので、焼かれた骨も条件次第ではアンデッド化する可能性はある。
(そもそも、死体や骨以外に魂が留まり続けるアンデッドも存在しているので、実は死体に拘る必要はないのかも知れないが。)
ただ、リューは骨まで残さず灰にしてしまう。次元障壁で死体を隔離したあと、火球を連続して放り込んで温度を上げていく。
実は、骨というのは燃えて灰になることはない。また、石や鉄よりも融点が高く、骨まで溶けるほどの高温で焼くと、周囲の土や石も融けて溶岩化してしまう。つまり、土の上でそれほどの高温で焼くと骨は周囲の融けた土と混ざってガラス質の石になってしまうようであった。
周囲で明かり取りのために燃やしていた木も死体の上に転移させて一緒に燃やしてしまう事にした。温度が高いため、あっという間に炭になる。
やがて、森の深くにある広場の中央に灰と炭の小山ができていた。あとは雨が降れば融けて流れてしまう。骨は周囲の土と混ざり石となって残るだけであろう。
リューはそれを見届けてから街に転移で戻っていった。
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次回予告
スラムの犯罪組織に単身乗り込むリュージーン!
乞うご期待!
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