第38話 スラムの犯罪組織を壊滅させる
一眠りしたリューは、教会の様子を見てから、スラムの奥に向かう事にした。
ケンゴ達を唆し、ボーダータウンに縄張りを広げようとしている犯罪組織、四夜蝶を潰すためである。
最初は力を示して脅し、手を出さないよう警告するだけで何とかならないかとリューも思っていたのだが……
ケンゴたちから教会も潰すつもりであると聞いてしまった以上、甘い対応をするわけにも行かないだろう。しょせん、犯罪組織である、潰してしまって問題ない。
リューは冒険者なのだ。街を出る事もある。いずれ、長旅に出る事もあるだろう。リューの不在時に教会の子供達に手を出される可能性もあるのだ。
それを考えれば、完全に芽を積んでしまう必要があるだろう。特に、治安を守る警備隊と犯罪組織が癒着しているのは、何とかしておく必要がある。
四夜蝶は、3つあるスラムの犯罪組織の中では、暴力を前面に押し出す“過激派”である。逆らえば酷い目に遭わされる、そういう脅しで縄張りを拡大しているのである。
四夜蝶は、名前に“四”とついている通り、四人のリーダーがいるのだが、その上に一人のボスが居る。以前勢力争いをしていた4つの中堅グループをまとめ上げた人物がおり、一つの組織となったのだ。
四人のリーダーは全員武闘派として戦闘能力に秀でており、四天王として内外から恐れられている。
リューは四夜蝶のアジトとなっているビルに着くと、そのまま堂々と正面から乗り込んで行った。
当然、中には組織の人間が多数居て止めようとしたが、全員あっけなく意識を手放していく。リューが神眼によってビルの構造と人間の位置を確認し、近くに居る人間の頸動脈を極小の次元障壁によって遮断して行ったのである。
呼吸を2~3分止めたところで死にはしないが、脳に血が行かなくなると、数秒~十数秒で意識がなくなる。
1~2分なら何も問題はなく蘇生する。5分、脳への血流が止まれば、生存率は25%、蘇生しても障害が残る可能性が高い。十分戻らなければ、確実に死ぬだろう。
脳への血流が止められた場合、意識を失うが、その際に苦痛はない。スウッと視界が暗くなり、眠るように意識がなくなっていくのである。つまり、リューがそのまま血流を復活させずに放置すれば全員殺された事に気づかずに死んでいく事になる。
苦しまずに死ねるという意味では一番楽な死に方と言えるだろう。
リューが近づくだけであっけなく気絶していく組織のメンバー達。
リューは、今にも倒れそうな3階建ての建物の階段を上り、三階に向かった。そこに五人の人間が居るのが分かっている。
三階のドアを開けた瞬間、いきなりナイフが飛んで来た。
だが、リューには、近未来の危険を察知する事に特化した未来予知能力がある。当然、ナイフによる攻撃も予知していた。事前に来ると分かっている攻撃など何もしなくても避けられるが、念の為、時間の流れを百分の一にした。
ゆっくりと飛んでくるナイフの柄を掴む。刃の部分には毒が塗ってある可能性があったので、柄を掴むようにした。そして、掴んだナイフを飛んできたほうに投げ返したリュー。
かっこよく壁に突き刺されば良かったのだが、ナイフ投げなどやったことがなかったため、ナイフは回転しながら飛んでいき、壁に横向きに当たって落ちただけだった。
ちょっと恥ずかしいと思うリュー、今度練習しておこうと誓うのであった。
「やるじゃねぇか」
中に居た手前左側の男が言った。
「ルビーのナイフであの世に逝かなかった男は久々だな」
右側の男はそう言ってニヤッと笑った。
「部屋に入ってくる者には毎回ナイフを投げつけるのか?随分乱暴だな」
「幹部以外入れない部屋にノックもせずに入ってくる奴の扱いならそんなもんだろ」
奥右側の男が言った。
リュー 「言っておくが、殺意を持って攻撃してくる者は全員殺す。今のナイフは特別にノーカンにしておいてやる。次は気をつける事だ」
リューはそのまま前に進む。奥の豪華な机に座っている男が一人と、その手前に立つ男三人、女が一人。おそらく奥に座っているのがボスで手前の四人が四天王だろう。
左の男が言った。
「四夜蝶のアジトに一人で乗り込んでくるたぁ、大した度胸だな。下の連中はどうした?」
「下は全員眠ってもらった。間もなく死ぬ頃かな。可哀相だから一旦解除してやるか」
階下では、脳への血流が戻り、倒れていた男たちが徐々に目を覚ましていったが、何がおきたのか、何故自分が床に倒れているのかよく分からないのであった。
「お前達の返答次第では、下の連中も含めて全員死ぬ」
奥の男(おそらくボス)が言った。
ボス 「おめぇは誰だ?何の用だ?」
リュー 「お前達を潰しに来たんだが。一応確認はしてやる。ボーダータウンに縄張りを広げようとしているのは本当か?」
ボス 「誰に聞いた?」
リュー 「ケンゴだ」
左の男 「あのバカが・・・それはアイツらが勝手にやったことだ。俺らの指示じゃねぇよ」
リュー 「その気はないと?」
右の男 「なくはないがな。スラムの中は縄張りが拮抗しちまってるからな。外に広がるしかねぇだろ?」
リュー 「それで、教会と孤児院も潰すつもりだとか?」
左の男 「そんな事まで言ってたか?ああそうだ、もし、俺らの縄張りになるんだったら、そんなもんはいらんからなぁ」
リュー 「縄張りの拡張は諦めろ。教会とその周辺に手を出さないと約束するなら、生かしておいてやる」
右奥の男 「ヒュー、威勢がいいねぇ!嫌いじゃない」
ボス 「約束できないと言ったら?」
リュー 「言ったろ、全員死んでもらう」
ボス 「怖いねぇ。教会にそれだけ肩入れするのは、孤児院出身者か?」
リュー 「シスターに恩があるだけだ」
左の男 「泣かせるねぇ、その恩に報いるために一人で乗り込んできたってのか!」
ボス 「 腕に相当自信があるようだが、しょせんはガキの使いだな。世の中では、一人ではどうにもできない事もある。俺達の仲間は多い。お前がここに居る間に、孤児院のガキどもを拐って人質にする事だってできるんだぞ?」
リュー 「やはりそうなるか・・・やっぱり全員殺すしかないな」
「舐めるな!」
四人が攻撃を仕掛けてきた。
左男は短剣、右の男は短槍、左奥の女はナイフを投擲、右奥の男は魔法の詠唱を始めた。
愚かな奴らだとリューは思う。
次の瞬間には四人の首が次元斬で落ちていた。
「警告はしたぞ?」
ボスは慌てた表情で立ち上がったが、首はずるりとテーブルの上に落ちていった。
階下の者達も再び意識を失い、脳への血流は死ぬまで戻る事はなかった。
その日、静かにスラム三大犯罪組織のひとつ、四夜蝶が消滅したのであった。。。
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さて、四夜蝶のボスにはもう一仕事してもらう必要がある。
机の上に転がったボスの頭を掴むと、リューは声を掛けた。
「おい、警備隊のボルトを買収したな?死んだふりはやめろ、まだ生きてるぞ、返事をしろ」
ボスはパニックに陥っている様子である。自分の首が胴体と離れ、テーブルから自分の身体を見上げているのだから、死んだと思っても当然だろう。
だが実は、頭と胴を切り離したが、空間を断裂させず、亜空間で首と胴を繋いだままにしてあるのだった。
パニックに陥っていたボスだが、自分が死んでいない事を徐々に理解し、落ち着いてきた。
「言うことを聞けば首は再び繋いでやる。警備隊に行って、ボルトを買収した事を証言しろ。その他の犯罪についても、包み隠さず全て白状するんだ。いいな?」
「は、はい~証言します、白状します、だから首を戻してクダサイ・・・」
冷静に考えれば、犯罪をすべて証言すれば斬首刑になって結局首を斬られてしまう事になるのだが、パニックに陥っていて、冷静な判断ができていないのかも知れない。
とはいえ、断ったら何をされるか分からないのだから、選択肢はないのであるが。
もしかしたら、死ぬならともかく、生きているのに首が胴と離れている状態というのは、精神的に耐え難いのかも知れない。
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とりあえず、ゴランの居る第三警備隊の詰め所にボスとともに転移で移動したリューであったが、首はリューが小脇に抱えたまま。胴体は頭がないため平衡感覚がないようで立っている事ができないので寝ている状態であった。
そのまま首だけでも話はできるのだが、見た人の動揺が激しかった為、胴体の上に乗せて布でぐるぐる巻にして固定した。頭は乗っているだけなので、前かがみになると胴体から転げ落ちてしまうので注意する必要がある。慣れないうちは何度か頭が転がってしまい、腰を抜かす人が何人か出てしまったのだが。
よほど首と離れたままなのが嫌だったのか、ボスは素直に買収の件やその他の犯罪についても証言した。
ゴランが証言をすべて確認とれたところで首を接合してやり、後の身柄は警備隊に任せた。
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リューが家に帰ると、教会からダグが慌てて走ってきた。
教会に警備隊が来て、リューを探しているという。リューに教会に来てはダメだと知らせに来てくれたのだが、大丈夫だと行ってリューは教会へ向かった。
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次回予告
リューは濡れ衣を着せられボルトに逮捕されてしまう?!
乞うご期待!
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