第216話 勇者の末路
ユサーク「あ……?」
ユサークはヘナヘナと膝をつき、手をつき、ほとんど動けなくなった。リューがユサークの体内の魔力を全て分解してしまったのである。
ユサークの身体が頑丈なのは、当然、魔力で身体を強化しているからである。それが失われて、素の筋力だけになり、さらに魔力切れの症状を起こして動けなくなってしまったのである。
だが、それだけに留まらず、さらにリューは魔力分解を続ける。単にユサークの体内の魔力を消し去っただけではなく、その幽体に刻み込まれていた特殊な権能の術式の破壊・分解を試みていたのである。
先程、勇者の権能を分解・無効化したが、ユサークの幽体の無意識の中に刻まれた “勇者の権能の魔法術式” が残っていれば、また時間とともに権能も回復してしまう可能性がある。
二度と勇者の権能が復活しないよう、勇者の称号そのものを消し去ってしまえないかとリューは考えたのである。
そして、リューの目論見通りそれは成功したようだ。
ユサークを鑑定してみると、ユサークの鑑定結果の中に【勇者】の称号は存在しなくなっていた。
“勇者の権能の魔法術式” については不死王が研究したがったかも知れないが……、いや、過去に勇者は何人も現れている。不死王がそれを研究していないわけはないだろうとリューは思い直した。
リューはユサークに近づき言った。
リュー「お前の勇者の称号を分解消滅させた。お前にはもう何の力もない。ただの一般人だ」
ユサーク「…は? ……何言ってる?」
リュー「誰か、鑑定が使える者が居たら確認してみるといい」
騎士団長が名乗り出てきた。
騎士団長「ワシは簡易だが鑑定が使える。
… … … …おお、確かに!
【勇者】の称号が消えておる!
ユサァァァクゥー、
お前はもう勇者ではないぞ!」
ザマァ見ろと嬉しそうに笑う騎士団長。
そんな事を言われてもすぐには信じられないユサーク。だが、確かに、体がとてつもなく重い。以前のように湧き上がる力が微塵も感じられない。
ユーサクは慌てて天に手を翳し聖剣を創り出そうとするが何も起きない。
ユサーク「そんな、馬鹿な……返せっ! 僕の称号をっ! 返せぇっ!」
リューの足に縋り付き泣き叫ぶユサーク。
リュー「すまんが、俺は分解はできるが、与える事はできないんだ」
ユサーク「そ、そんなぁぁぁぁ」
縋ってくるユサークがうっとおしく、リューはユサークを軽く蹴り飛ばした。蹴られたユサークは思いの外派手に転がる。
魔力も分解され完全になくなってしまい、魔力による身体強化のアシストが一切ない状態のユサークは、一般人の中に入ったとしても最弱の存在となっている。軽く蹴っただけでも大ダメージを負うのである。
ユサークが転がっていった近くに、先程ユサークの飛ぶ斬撃で怪我をした騎士が居たが、その騎士がユサークを蹴る。さらに、周囲に居た騎士達がユサークをよってたかって蹴り始めた。これではリンチである、騎士らしからぬ行動であるが、騎士団長はちょうど目にゴミが入ったらしく、目を擦っていて見ていなかったのだった。
力の強い騎士達に蹴りまくられ瀕死の状態のユサーク。さすがに今の状態では死んでしまい兼ねないので、リューが再び治療してやる。
ユサーク「痛いよぉ……死ぬぅ……はれ、痛くない。治ってる?」
だが、ユサークの後ろにいた騎士が再びユサークを蹴り、ユサークは床を転がってリューの近くに来た。
リューはユサークに言った。
リュー「これからは、罪を償う人生だ」
やった事の内容を考えれば、おそらく、ユサークは死ぬより辛い刑罰が待っているだろう。
この世界では最も重い量刑は死刑ではない。むしろ簡単に殺して貰えるなら罪が軽いほうなのである。
最も重い刑罰が下された場合、まずは鞭打ち他の激しい拷問が与えられる。もちろん、死なないギリギリまで身体を破壊されては治癒魔法やポーションで回復させられ、また刑罰が与えられる。そんな事が数ヶ月~数年間も繰り返されるのだ。人権等の意識は薄く、しかもどんな重症でも魔法や薬で治ってしまうこの世界の刑罰は、地球のそれよりもはるかに厳しいのである。
その刑罰が終わっても開放はされない。その後は、生涯絶対に開放されない終身奴隷として、鉱山等で重労働を課せられるのである。隷属の首輪ではなく、一生消えない奴隷の入墨を刻みつけられる事になる。自殺も禁じられ、死なないようにキチンと管理されるため、ただ、生涯を終えるその日が早く来る事ことを願いながら、死ぬまで過酷な環境で扱き使われる事になるのである。
罪状を考えれば、ユサークも極刑は免れないであろう。だがそれは、すべてユサーク自身がやった事の報いであり、自業自得としか言えない……
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次回予告
リュー、叙爵される
乞うご期待!
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