第400話 ギルマスに訴えるリズ。しかし…

リズ 「……やっぱり、デボラは嘘をついてたわけね、そんな事だと思ったわ。あの日、戻ってきたデボラがギルドになんて報告したと思う? ミィがハンスにプロポーズするためにダンジョンに宝石いしを採りに行ったって言ったのよ?」


ミィ 「そんな、デボラはハンスが私にプロポーズするために、狩風に頼んでダンジョンに宝石いしを採りに行ったって言ったのよ?」


リズ 「全部、嘘、アナタを騙し、ダンジョンで殺そうとした罠だったって事ね」


ミィ 「そんな……なんでデボラはそんな事を……?」


リズ 「そんなの決まってるじゃない! ハンスを奪うためよ。ハンスはモテまくってたからね、デボラがハンスに結婚してって迫ってるのは有名な話だったわよ」


ミィ 「…全然知らなかった」


リズ 「はぁ、鈍いわねぇ相変わらず。ハンスはモテたからね、狙ってる女の子は多かったのよ! 色んな娘に言い寄られて大変そうだったわよ。けど、ハンスは折れなかったけどね。あの弱気なハンスが。本気でアナタに惚れてたみたいね」


ミィ 「ハンスは今どこに?」


リズ 「ハンスは……


…デボラと結婚したわ。子供も二人いる」


ミィ 「…!


……そう……そう。…仕方、ないわね……」


リズ 「まぁ、ハンスを責めても仕方ないけどね。あなたは死んだと思ってたんだからね…。


ハンスは今は、冒険者は辞めて、代官、つまりデボラの父親の補佐をしてるわ」


ミィ 「そう……。


…でも、デボラはどうやってダンジョンから生きて戻れたの? 独りでダンジョンの通路に取り残されてしまったはずなのに」


リズ 「あの日、デボラは “狩風” のメンバーと一緒に帰ってきたわ。たまたま偶然・・・・・・ダンジョンに入っていた狩風と遭遇したんだってさ。嘘くさかったけど、嘘だっていう証拠もないしね。でも、今のミィの話を聞く限り、狩風の連中もきっとグルね」


ミィ 「そんな……」


リズ 「ダンジョンでの殺人は重罪よ。デボラがやった事は許される事ではないわ。ダンジョン殺人は証拠が出ないから滅多に罪に問える事はないけれど、ミィの証言があれば!」


だが……


この話をギルドマスター・Gに持っていったリズだったが、Gはデボラを訴える事には極めて消極的であった……。


G 「ミィが生きていた事は喜ばしいが……曖昧な証拠だけで訴える事はできん。デボラは代官の娘だ、今は冒険者も辞めていてギルドの所属ではないので処分も難しい」


リズ 「曖昧って、殺されかけたミィがこうして生きて戻って証言してるんです! 何よりの動かぬ証拠じゃないですか!」


G 「いや。それは、ミィのほうがが嘘をついている……


…そう言われたらどうする? ミィの言ってる事が本当だと裏付ける証拠があるならともかくだが」


リズ 「狩風を追求してみたら? 彼らはまだ冒険者です、ギルドの権限で事情聴取くらいはできますよね?」


G 「それくらいは可能だがな……だが、あいつらだって本当の事は言わんと思わんか? ダンジョン殺人は立証が難しいが、万が一有罪となったら極刑確実の重罪だ。仮に本当だったとしても、絶対に認めはしないだろう。デボラだってそうだ。


そもそも、今の話を聞く限りでは、デボラが嘘をついたのが本当だったにせよ、ミィは勝手に暴走してボス部屋に飛び込んだんじゃないか? デボラが直接手を下したわけじゃないのだから、ミィの行動は自己責任とも言える。嘘で騙したのが本当だったとしても、殺人罪を適用できるかはかなり微妙なところだろう。デボラは代官の娘だぞ? そんな曖昧な罪状で代官の娘を罪に問うなんて、できるわけがないだろう」


リズ 「そんな……あなた・・・はそれでいいんですか?! 冒険者を守るべき立場のギルドなのに、正義はないんですか?」


Gはリズに強い語調で責められ、顔を曇らせた。


G 「正義だと? そう言うが、ミィが言ってる事が嘘かもしれないじゃないか? だいたい、なぜミィは生きていたのに今まで名乗り出てこなかったんだ?」


リズ 「それはだから! 大怪我をして奴隷商に助けれてそのまま奴隷にされていたから」


G 「ミィが持っていた冒険者証ギルドカードも、この街に居た “ミィ” の持っていたカードと別のものだったようじゃないか? 通常、ギルドカードは本人の魔力紋を登録してあり、偽造はできないはずだ。だとしたら、別のカードを持って現れたあのミィは、以前この街に居たミィとは別人だと言う事になる。今更現れたあのミィは、本当に、この街に居たミィなのか?」


リズ 「だからそれは! 奴隷ギルドが裏から手を回して偽造させたんだと…」


G 「たしかに、先刻の王都での騒ぎは俺も聞いている。奴隷ギルドのトップが逮捕され、奴隷ギルドが隠れ奴隷をあちこちに送り込んでいたとな。いずれこの街にも調査が来るそうだ。


今帰ってきたミィは、話題の奴隷ギルドの隠し奴隷スパイだったんだろう? そんな人間を証人として信用していいのかと突っ込まれたら、証人としての信憑性すらも揺らいでしまうかもしれない」


ミィ 「解放されたんだから関係ないでしょう! 奴隷だった時の事は所有者の責任のはずです」


G 「ま、まぁ、スパイ云々はいいとして。さっきお前が言ったとおり、冒険者を守るのが俺の仕事だ。だからこそ、依怙贔屓はできないのだよ。狩風も守ってやるべき冒険者なのだ、公平に扱う義務がある。


どうしてもデボラを裁きたいなら、ミィが言っている事が本当だという動かぬ証拠を持ってこい。代官でも否定できないような絶対の証拠をな。それができないなら、訴えてもおそらく勝てない。諦めるんだな」


リズ 「~~~~もういいですっ!」


リズは激昂してギルマスの執務室を飛び出して行った。


ミィ 「あ、待って、リズ!」


G 「ミィ!」


そのままギルドを飛び出して行ってしまったリズをミィも追いかけようとしたが、部屋から出てきたGが声を掛けた。


ミィ 「ギルマス…!」


G 「…お前も、せっかく無事に生きて帰れたんだ、過去にこだわらず、こらから先の事を考えたほうがいいんじゃないか?」


ミィ 「……失礼します」




  * * * * *




ミィ 「待って、リズ。待って! もういいわ! もう昔の事はいいわ」


リズ 「…よくないわ、許せない。悔しくないの? こうなったら、街の裁判所に直接訴えて……それではダメね。街の裁判所は代官の運営だものね。代官の娘を訴えても受け付けてもらえない可能性が高いわね。そうだ、冒険者ギルドの中央本部に直接訴えれば……」


ミィ 「お願い、もういいの。確かにギルマスの言う通りよ。過去の事は忘れて、私はこれからの人生を生きる事を考える。ハンスが幸せになったなら、それを今さら出てきてぶち壊したくない……」


リズ 「あんた、お人好し過ぎるよ!


……まぁそれがミィらしいけどね」




  * * * * *




G (……リズよ、余計な事をしてくれるなよ? 代官を甘く見ないほうがいい。お前はそれなりに優秀な受付嬢だ。お前にまだ消えてほしくはないぞ……)



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


G、パーティ狩風に事情聴取


乞うご期待!


― ― ― ― ― ― ―


☆祝400回 \(^o^)/


応援してくださっている皆様に感謝m(__)m




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る