第399話 あの日、何があったのか?(2)
ハンスを除いたパーティメンバー四人でダンジョンへと入ったミィ達。
だが、ハンスは見つからない。
そもそも、もし途中でハンスが死んでいたら、死体はダンジョンに吸収されてしまい消えてしまうので分からないだろう。
だからと言ってミィは諦める事はできない。生きている事を祈りながら、とにかく三階層目の最奥まで行って見る事にしたのだ。
当時、伸び盛りで勢いのあったミィ達 “太陽の果実” の実力ならば、三階層の突破はギリギリ可能というところ。
ハンスが居ないので一人欠けた状態ではあったものの、ミィの鬼気迫る活躍で、なんとか最奥のボス部屋まで到達できたのであった。
ターラ 「……結局、見つからなかったわね」
ミリン 「やっぱり、途中で死んで、もう吸収されてしまったのでは…」
デボラ 「まだボス部屋が残ってるわよ?」
ターラ 「さすがにハンス一人でボス部屋には入らないでしょう」
デボラ 「そんなの分からないじゃない。万が一って事があるから、一応、入って確かめたほうがいいんじゃない?」
ミィ 「…」
ターラ 「ちょ、ミィ! 待ちなさい!」
ミィは黙ってボス部屋に飛び込んでしまった。
冷静に考えれば、ボス部屋にハンスが居るわけはない。もしボスに負けて殺されていれば、ダンジョンに吸収されて消えてしまうし、勝てばダンジョンを脱出する転送魔法陣が出現するのでハンスはもうダンジョンを出ているはずなのだから。
どちらにしても中にハンスが居るわけはないのだが、冷静さを欠いていたのか、そうと分かっていても確かめずには居られなかったのか、ミィはボス部屋を確認しようとしたのであった。
慌てて追いかけるターラとミリン。
デボラは……
デボラ 「きゃぁ!」
デボラは突然、背後から現れたオークに襲われた。不意を突かれたのだろう、倒れたデボラと、その後に立っているオークが振り返ったミィに見えた。
慌てて助けに戻ろうとしたが、ボス部屋の扉がその前に閉まってしまった。
ミィ達は初挑戦なので知らなかったが、この階層のボス部屋は、一旦入ると扉が閉じ、ボスを倒されなければ開かないタイプであったのだ。
ミリン 「デボラ! デボラ!」
ミリンが扉を叩くがビクともしない。再び扉を開けるにはボスを倒すしか無いのだ。
見たところ
ターラ 「急いでボスを倒すしかない!」
ミィ 「デボラ、すぐ行く! それまでなんとか一人で持ちこたえて……」
大急ぎでボスを倒し、再び扉を開いてデボラの救援に向かう事にしたミィ達だったが……
…ボスモンスターは手強かった。
ミィ達はここに辿り着くまでにかなり消耗していたし、回復アイテム等が入った荷物もデボラが預かったままであった。
デボラはミィ達には三階層のボスはオークキングだと伝えていた。だが本当は、この部屋のボスモンスターはミノタウロスであった。
ミノタウロスは危険度Aランクの魔物である。普通はこんな浅い階層に出る魔物ではないのだが、このダンジョンは階層ごとに難易度の上がり方がおかしい特殊なダンジョンなのであった。
* * * * *
一方、ボス部屋の外では……
デボラが笑っていた。
オークに襲われて倒れたのもすべて演技であり、オークは死体を背後からそれっぽく動かしていただけであった。
オークの死体を持って動かしていたのは、“狩風” のメンバー、ベニーであった。デボラはミィ達を罠に嵌めた後、一人でダンジョンから脱出する事はできないので、狩風に護衛を頼み、密かに後を尾けさせていたのだ。
デボラは、自分以外のメンバーも一緒に全員死んでもらうつもりであった。ハンスを奪い合うライバルでしかないからだ。通常、ボス部屋はパーティのメンバー全員が入らないと閉まらないはずの扉が閉まってしまったのは、この時既にデボラにはパーティのメンバーという意識はなかったため、扉が閉まってしまったのだろう。
デボラは、三階層のボスがミノタウロスである事を知っていて、ミィ達では…全員揃っていればまだしも、三人だけではとても斃せないだろうと思っていた。おそらく三人は殺されてダンジョンに吸収されてしまうだろう。
ハンスにはミィ達は死んだと伝えればいい。そして、慰めるフリをしながら落としてやればいい。ミィさえ居なければ、デボラはハンスを落とす自信があった。
・
・
・
だが、デボラには計算違いがあった。
ミィ達はなんと三人でミノタウロスを斃したのだった。ただ……
…代償は大きかった。
ミリンはミノタウロスの斧で首を刎ねられ死んだ。
ターラも深手を負って戦闘不能の瀕死状態。
ミィも決死の攻撃でミノタウロスにかなりのダメージを与えたものの、片手片足を失う大怪我で戦闘不能となってしまった。
絶体絶命。
だが、ターラが瀕死の身体に鞭打って立ち上がり、不意を突いてミノタウロスの身体に剣を突き立てた。ミィが作ってくれた隙を突いた形であった。見事、ターラの剣はミノタウロスの心臓と魔石を貫き、ボスを倒すことに成功したのだった。
ターラは朦朧とする意識を必死で奮い立たせ、ボス部屋を出てみた。ミィもターラも瀕死の重症であるが、回復アイテムをデボラが持っていたはず……
…だが、部屋の外にはデボラの姿はなかった。オークに殺され、ダンジョンに吸収されてしまったのだろうか?
仕方なくターラは引き返し、なんとかミィの手足を縛って止血すると、ミィを担いでボスを斃した事で現れた転移魔法陣を使ってダンジョンを脱出した。
だが、ターラはそこまでであった。ダンジョンを脱出したところで限界を迎え、そこで事切れてしまったのだ…。
そのしばらく後、通りかかった奴隷商にかろうじて息のあったミィは発見された。大怪我をしたミィを奴隷商は治療してくれたのだが、ミィはそのまま奴隷商に連れ去られ、街に戻る事はなかったのだった。
奴隷商がミィを助けたのは外見が美しいミィが奴隷に良いと思ったからであり、そうでなければ見捨てて行っただろう。見捨てられて死ぬのと、助けられて奴隷になるのとどちらが良かったのか……。
* * * * *
街に戻ったデボラは、ハンスにミィが死んだと伝えた。
ミィはハンスにサプライズでプロポーズするためダンジョンに宝石を採りに行ったので、ハンスを置いて行ったのだと、ミィに言ったのとは逆の嘘をついた。その嘘に、ハンスもミィ同様アッサリ騙されたのであった。
ハンスは冒険者ギルドに救助隊を要請したが、しかし、事情を聞いたギルドマスターは、既にミィ達はボス部屋に無謀な挑戦をして死んだと判断、救助隊を出してはくれなかった。
実はデボラは、代官の権力を使い当時のギルマスも抱き込んでいたのだが、仮にそうでなかったとしても、ダンジョンに挑戦した冒険者がダンジョンで死ぬ事など日常茶飯事なのである。その度にいちいち救助隊が編成される事はないのであった。
その後、悲しみにくれるハンスをデボラは根気よく慰め、まんまと落とす事に成功。
やがてハンスはデボラと結婚、子供も二人できた。ハンスは冒険者を辞め、代官の補佐として勤め始めたのであった。
・
・
・
一方、治療を受け回復したミィは治療費の請求を受け、奴隷契約を結ばされた。仲間がどうなったのかも、全員死んだとしか聞かされていないまま、ミィは奴隷ギルドに指示された別の街で冒険者として活動するように指示されたのであった。
おそらく奴隷ギルドが裏から手を回したのだろう、ミィは冒険者としての記録上では死んだ事になったまま、別人として新たに登録されていたのだ。スパイとして使うのはそのほうが都合が良かったのだろう。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
ギルマス 「ミィが嘘ついてる」
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます