第189話 不死王は語る

不死王 「お主は、おそらく、末期的な段階になってしまった世界に一石を投じるためのトリックスターなのじゃろう。

 

じゃが、お主には、この世界を破壊してしまえるような力が与えられている。それはつまり、最悪この世界を壊してしまっても良いと神が考えている事の証明じゃ。神はおそらく、末期のこの世界を廃棄しようと考えておるのではないかとワシは睨んでおる。その前の、最後のチャンスとしてお主を投入した」

 

リュー 「……俺は、特に何か使命を背負わされたりはしていない。ただ、自由に生きればよいとだけ言われたが……」

 

不死王 「お主は、自分に世界を滅ぼしてしまえる能力ちからが与えられておる事を理解しておらんじゃろうしな。じゃがそれで良いのじゃろう。意図的に変えるのではなく、自然な流れでどうなるか、と言う事なんじゃろうの」

 

リュー 「俺の能力チカラ?」

 

不死王 「左様、お主にはこの世界を創造した神の力の一部が与えられておるのじゃ。ワシが興味を持ったのもそれじゃよ。お主も薄々気付いているじゃろう?」

 

リュー 「……魔力がゼロなのに魔法が使える事、か…?」

 

不死王 「左様。そもそも、時空魔法というのは膨大な魔力を必要とするのじゃ、人間の器で持てる魔力程度で実行できるようなものではないのじゃよ。

 

それを可能にするために、お主にはこの世界にはない別の法則で魔法を駆動する能力が与えられている。

 

具体的には、オリジンを魔力に直接変換する能力じゃな」

 

リュー 「オリジン?」

 

不死王 「この世界の全て、物質や生物など、形のあるものも、また形のないモノも、全てが、元はオリジンというものから創り出されているのじゃ。もちろん、魔力もオリジンから創り出されておる。そのオリジンからモノを創造する神の力、それが神力じゃ。

 

お主の場合、時空魔法を駆動するための膨大な魔力を賄うため、神力を直接魔力に変換して使用しているようじゃな。

 

つまり、この世界そのものを動力源にしているので、この世界にお主が居る限り、エネルギーの供給が尽きる事はないわけじゃな」

 

確かに、リューはどれだけ時空魔法を使おうとも、魔力切れのような症状を起こした事はない。


不死王 「まだ自覚がないからじゃろうが、お主は神力を使いこなせておらん。だから現時点ではワシのほうが強い。じゃが、その力を使いこなせるようになれば……」

 

リュー 「……レイスを昇天させた力か」

 

不死王 「左様、お主は、呪いの魔力を分解し、レイスをこの世に顕在させていた魔力も断ち切ってしまったじゃろう? その力を自在に使いこなせるようになれば、例えば、魔法はその全てを消失させる事ができるようになるじゃろう。魔法を駆動している魔力そのものを分解消失させてしまえば良いのじゃからな」

 

リュー 「それは正直、思いつかなかった、今度試してみよう」

 

不死王 「魔力だけじゃない、この世に形のある“物”も、ないモノも、あらゆるモノが分解できるようになるじゃろう。いずれ、“光”さえも分解してしまえるはずじゃ。じゃが……

 

…お主にできるのは分解するだけ。造り出す事はできんじゃろう」

 

リュー 「創り出す?」

 

不死王 「神力は本来、分解するだけでなく生み出す力であるはずなのじゃが、労なく世界を創造する能力プログラムまでは、お主には与えられてはおらんようじゃな。まぁ研究を続ければいずれできるようになるやも知れんが……分解の能力については与えられているようじゃから、すぐにできるようになるじゃろう。

 

よいか、この世の全ては神がオリジンから作り出したものじゃ。形あるものも、形のないものも、この世の法則さえもな。

 

逆に言えば、この世のすべては、神がその気になったら、一瞬にして分解されオリジンに帰してしまうのじゃよ」

 

リュー 「俺がその気になっても同じ事ができる、と……?」

 

不死王 「ま、そういう事じゃ。その力の前では、このワシでさえ無力じゃ」

 

リュー 「そんな事を俺に教えてしまわないほうが良かったんじゃないのか?」

 

不死王 「別に構わん。それでワシを殺せるのなら殺してくれても良い。ワシは自分では死ぬ事ができんのでのう。どれだけ末期的になろうとも、この世界が滅び、すべての生物が死滅しても、ワシは死ぬことができないかも知れんのじゃ。死ねる方法があるのなら、それはありがたい事かも知れん……」

 

リュー 「不死身というのも、不自由なんだな……。

 

しかし、つまり、それじゃぁ俺はこの世界を分解させるために使わされたって事なのだろうか?」

 

不死王 「それはないじゃろう。神がその気なら、そんな余計な手間など掛ける必要はない。そう思った瞬間に世界は消失しているじゃろう」

 

リュー 「では、この世界を消すのではなく、生き返らせるために俺を送り込んだ?」

 

不死王 「それも違うじゃろうの。おそらく……神はそこまでもうこの世界に関心がないのじゃよ。どうでもいい、って奴じゃな。

 

お主の能力は転生時に授かったものじゃろう?」

 

リュー 「ああ。自分の居た世界ではなく、別の世界に転生してもらう代わりに“能力”をくれると言うので、俺はただ自由に生きたい、そのための力が欲しいと要求した」

 

不死王 「その時、神に会ったか?」

 

リュー 「ああ、女神だった」

 

不死王 「それは神ではないぞ?」

 

リュー 「?!」

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

不死王は語りたがり

 

乞うご期待!

 

 

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