第206話 力づくでやって構わないんなら、まぁ…

ネリナと共にバイマークの街に向かうリューとヴェラ、その道中の会話。


リュー「俺しか対応できないって言ってたが、俺には勇者の性格の矯正なんかできないぞ?」


ネリナ「そんな事は期待してないわ。無理でしょ、アレを矯正するなんて。そもそもそれは冒険者ギルドでやる事じゃないし。勇者は冒険者ギルドに所属していないからね。そのせいで、指導も処分も何もできないのだけど」


ヴェラ「(勇者の性格は)確かに、ちょっと見ただけだけど、あれは酷かった……」


ネリナ「一言で言えば傍若無人? 我が侭、傲慢、好き勝手し放題。


自分は勇者なんだから何をしても許されると自分で言っちゃう系?


特に迷惑なのが、冒険者相手にはすぐ喧嘩を売ってくるのよね。一般人には問題になるのが分かってるのか多少は抑えているらしいんだけど。気に入らない事があると、鬱憤晴らしにわざと冒険者に絡んだりしてるみたい。


冒険者達も腕っぷしの強さで売っている商売みたいな者達だから、喧嘩で負けましたって宣伝する事になるので訴えたりしないのを分かってるのね。


だけど、それで勇者に大怪我させられた冒険者も少なくないのよ。性格が最悪でも、勇者は勇者、実力ちからはあるのが厄介なのよね……」


リュー「ああ、厄介なのは知ってる、妙なスキルを持っているようだな」


ネリナ「勇者の能力も知ってるのね? どう? あなたなら勝てそう?」


リュー「俺の本気の攻撃でも傷一つつけられなかったよ」


ネリナ「既に戦った事があるのね! そう……リューでも勝てないとなると、本当に厄介ね」


ヴェラ「いえ、リューは勝ちましたよ?」


ネリナ「え? でもさっき傷一つ付けられなかったって」


リュー「ちょっと裏技を使ってな」


ヴェラ「それはもう、ケチョンケチョンに……最後は勇者パーティのメンバーに土下座で庇われて、見逃してやった感じ?」


ネリナ「あら、それは痛快な話ね」(笑)


リューは勇者が管理ダンジョンを破壊しようとした顛末を話した。


ネリナ「そうだったの。まさか依頼されてもいないのに勝手にダンジョンに潜ってコアを破壊しようとするとは思わなかったわ。普段は王宮からの指示でもなかなか腰を上げない怠け者のくせに」


ヴェラ「普段仕事しないのに、余計な事ばかりする人間……どこにでも居ますねぇ」


ネリナ「勇者は、冒険者に喧嘩売るだけならまだいいのだけど、一般人にも相当被害が出ているのが問題でね。


実は勇者…ユサークはかなりの女好きで、行く先々の街で気に入った女が居たら片端からちょっかい出すらしいわ。勇者にレイプされて泣き寝入りした街の娘は数知れず。泣き寝入りせずに訴えようとした娘は証拠隠滅に何人も殺されているって噂」


リュー「それはただの犯罪者じゃないのか? 憲兵に逮捕させればいいだけだろう?」


ネリナ「国にも随分苦情が上がってるはずなんだけどね、なかなか対応はされないようね。お役所仕事で、王に報告が届いているかも怪しいわね。


それと、勇者は国王の権威を笠に着て、何をしても逮捕できないって豪語してるもんだから、王の名前を出して強気で言われると、各地の領主や貴族も国王への忖度で及び腰になってしまうところがあってね。


まぁ、それも仕方ないところもあるんだけど。なにせ、貴族の抱えている騎士では勇者には歯が立たないだろうから、捕らえる事なんてできないでしょうしね。目に余る行動に、ついに捕らえようとした貴族も居たらしいけど、手酷くやられただけで終わってしまったらしいわ。


あとはどうにかしてくれるよう王宮に訴えるしかないわけだけど、いくら報告を上げても返事もないとなると……。


結論から言えば、どれだけ平民に被害が出ようとも、目を瞑って出ていってくれるのを待つのが一番被害を少なく抑える正解って事になってしまう」


リュー「だとすると、俺にどうしろっていうんだ? 俺が奴をブチのめしたところで、ただの喧嘩では何も解決せんだろう、それどころか、下手したらこっちが悪者にされて逮捕されそうだな」


ネリナ「それは大丈夫、多分。冒険者も喧嘩で負けたなんて言いふらせないけど、勇者も冒険者に喧嘩で負けたなんて言い振らせないのは同じだから」


リュー「なるほどね。手加減無用ってか。ところでそれは、正式な依頼クエストなんだよな? ただ喧嘩してくれっていうだけでは、面倒なだけで俺がやるメリットが何もないぞ」


ネリナ「もちろんよ。勇者対応という正式な使命依頼クエストを出すわ。報酬もちゃんと払う。問題になっても冒険者ギルドが全力でフォローするわ」


リュー「アレの対応係なんて、やりたい仕事じゃないけどな。力づくでやって構わないんなら、まぁ…」


ネリナ「是非お願い。勇者を相手に渡り合える者なんて他に居ないのよ……」



   ** ** ** **



バイマークの街に帰ってきたリュー。


冒険者ギルドの扉を開けると、いつもの雰囲気……ではなく、なんだか酷い様が広がっていた。


冒険者はほとんどが魔物の駆除に駆り出されていたのだが、完全に留守にするわけにも行かないので、数人は残されていた。その数人の冒険者達が、全員床に倒れている状況である。


うち一人は、部屋の中央で、金色の鎧を着た男に踏みつけられていた。


ネリナ「これは一体何の騒ぎ?」


振り返った金色の鎧の男は、やはり、ダンジョン最下層で会った勇者ユサークである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


魔王だよ、あんな奴が居るなんて知らなかった! これはちゃんと情報を教えなかったギルドの責任だろ?!


乞うご期待!



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