第21話 幼馴染パーティの反省
ダンジョンに潜って獲物を狩るのが日課のリュー。
リューは街の中からダンジョン内にいつでも転移できる。
適当な階層を選び乗り込んでは、獲物を殲滅・収納していた。
リューが訪れた階層に居る魔物はすべて、一瞬にして魔石を抜き取られ即死させられてしまう。そしてその死体もそのまま亜空間に収納される。
その時間、わずか数分である。数分でダンジョンの一つの階層の魔物が全滅してしまうのである。
最強の女神と言われる時空を司る女神、その力を与えられたリューの能力の前に、ダンジョンの魔物は戦いにすらならないのだ。
魔法によって作り出された収納用の亜空間の内部は時間が止まっているため、収納した魔物死体が腐る事はない。また収容量はほぼ無限であるので、どんどん収納しておき、商業ギルドで小出しに売っているのだった。
もはやリューにとってはダンジョンは「狩り」ですらない。日常生活の雑事と同じような簡単な作業に過ぎないのであった。
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その日は、サルという冒険者がリューに絡んできた。もうリューに絡む冒険者はほとんど居なくなっていたが、サルは長期の護衛依頼から帰ってきたところで、リューが別人のように強くなったという噂を信じず、侮って逆に積極的に絡んでいったのだ。
もちろん、サルは、リューの転移魔法によってダンジョン内に拉致されてきた。
その時リューが適当に選んだ場所は、たまたまケイト達が襲われ蜘蛛に捕らえられていた階層だったのである。
リューはダンジョンに着くやいなや、邪魔されないように、その階層のモンスターを全て「収納」した。そのため、ケイト達を捕らえていた蜘蛛のモンスターも消えてしまったのである。
サルは、あまりにリューを舐めていたので、実力を示すために、リューは少し戦闘に付き合ってやる事にした。
最初は善戦していた冒険者であったが、徐々にリューが本気を出していき、最後には実力の違いが明らかになって勝敗が決する。
本当は、リューの力であれば、相手がまったく気づかない間に瞬殺してしまう事もできるのだが……それだと相手が何も認識できないまま終わってしまう。
圧倒的な力で瞬殺するのではなく、相手に合わせて、それを上回る力で倒す。できれば相手の得意な戦い方をさせてやり、それで圧倒してみせる。そうすることで、実力の差をはっきりと分からせる事ができるわけである。
実力の違いを理解らせた後は、リューのお仕置きが始まるのだが……
サルは去年この街に来た冒険者で、レイドに参加しておらず、護衛依頼が中心の冒険者であったため置き去り等にも関与していなかった。それは神眼を使ってサルの心を読んで確認できたため、少し痛めつける程度で済ませることにした。
もちろん、新人や弱い冒険者に絡むような行為は褒められた話ではないので、無罪放免にするつもりはなかったが。
他の冒険者の助言に耳を貸さず、自分からリューに絡んだ愚かしさをサルはたっぷりと反省させられる事となったのであった。
お仕置きを終えて、すっかり従順になったサルを連れて街に戻ろうとしたリューは、魔物がリポップしていないか神眼で確認してみたところ、ダンジョンの中に、魔物ではない生命反応がある事に気づいた。
先程は流れ作業のやっつけ仕事で魔石を持っている魔物だけを収納してしまったので、気づかなかったのだ。
リューは、サル一人だけ街に転送して、生命反応のある場所へ向かうと、そこで、簀巻きにされたケイト達を発見したのであった。
「…た…助けてくれ!」
衰弱していたが、必死で声を上げたのはマークだった。
ケイトも必死でリューに助けを請うた。
だが、リューの答えは冷たいものだった。
当たり前である。ダンジョンに置き去りにされた時、動けないようにリューの足の筋を斬ったのは、他ならぬケイトなのだ。他のメンバーも、リューを置き去りにする計画は知っていて黙っていた。
その事は許してくれるよう、ケイトは必死で謝った。自分もやりたくはなかったが、命令で仕方がなかったのだと。
だが、リューの答えは冷たかった。
「許すわけないだろう?」
だが、どれほど酷い事をされたとしても、かつては好きだった女である。他のメンバーも、同級生だった者達だ。確かに命令されて仕方なかった部分もあったのだろう。
許せはしないが、せめて苦しめずに、ひと思いに楽にしてやろうか?と思ったのだが、ふと、リューは蜘蛛の居た部屋の奥にあるモノに気付いた。どうやら蜘蛛の卵のようだ。内部がうっすら透けてみていて、大量の蜘蛛の子が間もなく孵化してくるだろう事が分かった。
孵化した蜘蛛達には食料が必要だろう。おそらくそのために親蜘蛛は食料を貯蔵していたのかも知れない。
リューは、蜘蛛の子たちの存在をケイトに伝え、置き去りにされる気持ちを味わってみるが良いと言った。
明日、もう一度来る。その時に生きていたら助けてやるというリューの言葉に、ケイト達は絶望的な表情をした。
明日、リューが戻ってくる前に蜘蛛が孵化してしまえば、ケイト達は蜘蛛の餌として、生きながら内臓を吸われる事になるだろう。
ケイト達にできる事は祈る事だけである。
「そろそろか。」
翌朝、リューはダンジョンへと戻った。そこには孵化した蜘蛛の子がたくさんおり、吊るされた餌=ケイト達の体に管を刺して養分を吸っていた。
蜘蛛をすべて退治すると、体液を吸われ萎んだケイト達が居た。
だが、まだ死んではいない。
実は、蜘蛛はすぐには殺さず、ジワジワと餌として消費していくのをリューは知っていたのである。
リューは回復魔法を使い、ケイト達を助けてやった。
リューの回復魔法は、ヒールなどの治癒魔法とは全く違う。時間を巻き戻し、元の状態に戻してしまう時間逆行魔法なのである。死なない限りはどんな怪我も元通りにしてしまうことが可能であった。
生き返ったケイト達。
リューは甘いかなと思ったが―――自分を斬りつけて置き去りにしたのだ、絶対に殺してやると最初は思っていたのだが―――しかし、彼らが元同級生として、パーティに誘ってくれたのは事実である。
クビになったのだって、自分が無能だったからで、彼らのせいとも言い切れない。
腹の中でどう思っていたにせよ、表面上は、ケイトが優しくしてくれた事も事実なのだ。
ケイト達も、蜘蛛に体を吸われながら死んでいくのは恐怖の体験であったろう、十分に置き去りにされる恐怖は理解したのではなかろうか。
その後、リューに救助され、転移で街に戻った「夜明けの星」のメンバーであったが、今回の体験で心が折れてしまい、冒険者は休業して一旦故郷に帰る事にしたようであった。
ケイトは、少しだけリューに未練があるような素振りも見せていたが、クビ宣告の後、ケイトの腹の内の思いを聞かされてしまったリューは、もはやケイトと恋人に戻るという気持ちにはなれないのであった。
ケイトは、実は、本当はリューが好きだった。
だが、リューが奴隷として売られたと聞いた時、自分でも驚くほど動揺してしまい、何もできず、時間だけが過ぎてしまった。その話を聞いたときにはもう手遅れの状態だったのだが。
何もしなかった事に気後れしてしまい、リューがサンダーの奴隷として学校に戻ってきたときも、適当に愛想笑いを浮かべて話を合わせるだけで、その事についてちゃんと話をする事ができなかった。
そして再びリューは別の貴族に買われて去っていった。
リューとは二度と会えないと思っていたが、冒険者としてミムルの街で再会した。それは本当に嬉しかったのだ。だが、その時には既にケイトはマークと付き合っていた。
マークは薄々ケイトのリューへの気持ちに気付いており、嫉妬していたのだった。マークはリューをちゃんと振ってやり、冒険者として諦めさせてやる事が、リューの今後の幸せのためなんだとケイトを唆した。
確かに、リューには才能がないように思えた。だが、心根の優しいリューは、冒険者にならずとも、別の職業について幸せな人生を送れるはずだとケイトも思った。
そのために、酷い女を演じ、リューをフッた。
リューのためだったはずだ。
それが、どこで間違ってしまったのか、リューに酷いことを言った負い目からなのか・・・気がつけば、リューを殺す事に加担していた。
リューが居なくなれば、良心の呵責に苦しまなくて済む。いつの間にか、ケイトの判断は歪んでしまっていた。冒険者として生き残り、成長するために、ケイトも必死だったのだが、それは言い訳でしかない。
すべてが終わった後
原点に戻り、リューへの思いを再確認したケイトだったが、もうすべてが遅い。全ては終わった後である。
きっと、リューには酷い女、アバズレ女だと思われているだろう。
それだけ酷い事をした。
今更、本心じゃなかったと言っても、やってしまった事は許されない。
リューの足を斬ってダンジョンに置き去りにして殺そうとしたのだ。自分がリューの横に居る資格はない、それはケイトには身にしみて分かっていた。
今後、ケイトとリューの人生が交わる事は二度と無いであろう。
ケイトは人知れず涙を落としたのだった。。。
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次回予告
トラウマの元凶と再会
乞うご期待!
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