第404話 再会 ミィとデボラ

リズ 「…はい? 謹慎……ですか?」


G 「ああ。謹慎が解けるまで出勤しなくていいぞ」


リズ 「…っ、理由は? 何なんですか?」


G 「理由は、代官(の娘)についての悪評を垂れ流した件だそうだよ。早朝から、代官の邸から使いが来た」


リズ 「なるほど、昨晩のオックスの捨て台詞は、そういう事だったのね……」


G 「だが、条件付きで許してやってもいいとも言ってる。条件は、代官の屋敷に謝罪に来る事だとさ。お前が居ないと業務が滞るから、早く行って謝ってこい」


リズ 「…デボラですよね? 昨晩の事、さっそくオックスの奴がチクリに行ったってわけ? 情けないヤツね!」


G 「一体何があったんだ?」


リズ 「実は、カクカクシカジカで……」


G 「……やれやれ。噂くらいで代官が冒険者ギルドに圧力掛けてくるとかおかしいと思ったら。……だが、そうか、デボラもミィが生きていた事を知って、かなり焦っているのかもしれんなぁ」


リズ 「でしょう、黒ですよ、奴は。訴えましょうよ」


G 「ダメだな、証拠が弱すぎると言ったろ。お前はもともとこの件には関係ないんだ。素直に謝って謹慎を解いてもらって、後は黙っていたほうがいい」


リズ 「関係ない? 関係はあります、ミィは私の友達ですから。友達が酷い目に合わされて、黙ってられません」


G 「だが、代官に睨まれてもメリットは何もないどころか、逆らったらこの街では生きていけなくなるぞ?」


リズ 「じゃぁミィは? ミィの気持ちはどうなるんですか?」


G 「…ミィはなんと言ってるんだ?」


リズ 「ミィは…もういいって言ってますけど……。過去にこだわるよりこれからの事を考えたいって」


G 「そうか! うん、それがいいと思うぞ。さぁ、お前もさっさと謝りに行って来い。それともずっと謹慎したままで居るつもりか? この間、服を買っちゃって金欠だとか言ってなかったか?」


リズ 「……チックショー!」


G 「ま、諦めろ……。庶民は理不尽に耐えながら、悔しさをバネに生きて行くしかないんだよ……」


   ・

   ・

   ・


ミィ 「リズ!」


ギルマス執務室から出てきたリズにミィが声を掛けた。


ちなみにリューとヴェラ、それにランスロットも一緒である。ちょっと冒険者としてダンジョンにでも潜ってみようかという事で、ギルドに情報収集ついでにリズの様子を見に来ていたのだ。


ミィ 「謹慎になったって、なんで? もしかして、アタシのせい?」


リズ 「ええ。デボラの悪評を流した件だってさ。しかも、代官の屋敷に謝りに来れば許してやるなんて条件付きよ。仕方がない、謝りに行くしか無いか……今月、金欠だから謹慎で収入がなくなるとキツイのよね」


ミィ 「私も行くわ!」


リズ 「え? ミィも? 大丈夫なの? もう諦めたんじゃないの?」


ミィ 「……デボラには、会って話を聞いてみたい。できればハンスにも…」


リズ 「そうね、そうよね。ひとことくらい言ってやらないとね! じゃぁ一緒に行きましょう」


ミィ 「すみません、リューさん、ヴェラさん、ランスロットさん。私は代官の邸に行きます。ダンジョンへは私抜きで行ってもらえますか?」


ヴェラ 「何言ってるの、私達も行くわよ」


リズ 「…そういえば、こちらの方は?」


ランスロット 「はじめまして、ランスロットと申します。ミィさんとはパーティを組ませて頂いております」


ミィ 「あの、全員一緒に来るんですか?」


リュー 「パーティの仲間だからな」


そう言われて、ちょっと嬉しそうな顔をするミィであった。




  * * * * *




代官の屋敷。


リズが謝罪に来たと伝えると、応接間に通されたが、その後、随分と待たされてから、デボラがやってきた。


デボラ 「待たせたわね。ってか、急に来られたって困るじゃないの、私だって忙しいのよ」


ミィ 「デボラ……」


デボラ 「! ミィ……。


あなた、生きてたって本当だったのね…。


久しぶりね、元気そうで嬉しいわ」


ミィ 「デボラも元気そうで。あの時、ダンジョンで死んだんじゃないかと思ってたから、生きててくれて嬉しいわ」


デボラ 「…あ、あなたもね。よく助かったわね。ミノタウロスを斃せたの?」


ミィ 「ええ。ただ、重症を負ってしまって……通りすがりの奴隷商人に助けられたのよ。そのまま奴隷にされちゃったんだけどね」


デボラ 「そ、そう、大変だったわね…」


リズ 「あなたのせいでしょう? とぼけないで下さい!」


デボラ 「何なの? てかあなたでしょ? 私が殺人犯だとか悪評を流してたというギルド職員てのは? どういうつもりなの?」


リズ 「自分は殺人などしていないと、はっきりと言えるのですか? …ミィの前で!」


デボラ 「あ、当たり前でしょう、どうして私がミィ達を殺す必要があるのよ」


ミィ 「デボラ、あなたはあの時、ハンスがダンジョンに入ったって言ったわよね? でもそれは嘘だったのよね? どうして…」


デボラ 「なんの事だか分からないわ、そんな事言った記憶はないわよ」


リズ 「とぼけてもダメですよ、ちゃんとギルドの記録にはあなた達の報告が記録に残ってるのよ? それによると、ミィはハンスにプロポーズするために素材を採りにダンジョンに入った事になってる。でも、ミィはそんな事知らないって!」


デボラ 「知らない? 憶えてないだけでしょ。奴隷にされてたせいで、頭おかしくなってるんじゃないの? だいたいアンタ(リズ)、謝りに来たんじゃないの?」


ミィ 「デボラ、お願い、正直に言って。私は事を荒立てる気はないのよ」


デボラ 「!?」


ミィ 「本当よ、ただ、本当の事が知りたいだけ…」


デボラ 「う…うるさいわね、憶えてないってば! それ以上言うなら侮辱罪で処刑よ! 私は貴族なんだから。昔ちょっと冒険者をやってたよしみで相手してあげたけど、本来はあんた達平民が対等に口をきけるような相手じゃないのよ? だいたいアンタ(リズの事)、謹慎を解いてもらうために謝罪に来たんじゃなかったの? そんな態度なら、永遠に謹慎は解けないわよ?」


ミィ 「デボラ……」


デボラの目をまっすぐ見つめるミィ。


デボラ 「う……」


心の底まで貫くようなミィの真っ直ぐな視線に何も言えなくなってしまうデボラ。


ミィ 「……分かった。もう昔の事ですものね。もういいわ。私も忘れる」


デボラ 「…そう! そうね、それがいいと思うわよ! せっかく助かったんだし、これからは自分の幸せを~」


ミィ 「ハンスは?」


デボラ 「!」


ミィ 「生きてるんでしょう? 元気にしてる?」


デボラ 「げ、元気よ。子供だって居る、私とハンスの子よ」


ミィ 「結婚したんだってね、おめでとう。それで……、できたらハンスと会って話がしたいんだけど…?」


デボラ 「は、話なんてさせるわけないでしょ、今はハンスは私の夫なのよ? 昔の恋人になんて会わせられるわけないじゃない」


ミィ 「お願い、デボラ。安心して、ダンジョンの事は何も言うつもりはないわ。別にハンスと縒りを戻したいわけじゃないの。会う時はアナタも一緒でいいわ。ただ、最後に、顔を見て、声が聞きたいだけ。ハンスが生きてて、幸せだって確認できればそれでいいの」


デボラ 「……ハンスは今は居ないわよ。今朝早く、隣町の視察に行った。……ハンスも今は代官の補佐として忙しいのよ。余計な事を知らせてハンスを動揺させないで。ハンスの中ではミィは死んだ事になってるんだから、そのままにしておいてほしいわ」


リズ 「ちょっ、そんな、酷い!」


ミィ 「……分かりました」


リズ 「ちょ、ミィ!」


デボラ 「やけに物分りがいいわね。何を企んでるの?」


ミィ 「代わりに、リズの謹慎を解いて貰えませんか?」


デボラ 「なるほど、そういう事ね。いいわ。お父様に言っておいてあげる」


リズ 「ちょミィ! だめよ、そんな交換条件は」


ミィ 「いいのよリズ。ありがとうデボラ。それじゃぁ元気で~」


『おかしくないか?』


その時、後ろに下がって窓際で話を聞いていたリューが声を発した。


リュー 「冒険者ギルドってのは、国や領主とは独立した組織だったんじゃないのか? なんで代官の娘ごときがギルドの職員を処罰できるんだ?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ちょっとダンジョン行っとく?


乞うご期待!



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