第374話 お腹にポケット付けてみた

リリィ 「ああ、ええっと、証言が得られるのはありがたいんだけど、ただ、エージェントの証言ひとつだけじゃちょっと弱いかもね。雲の上のランドマスタークラスだと、“下の者が勝手にやった事だ” って惚けられて逃げられてしまう可能性が高い」


リュー 「下の者がしでかした事の責任は、上が取るんじゃないのか?」


ヴェラ 「まぁ、下の者に責任を取らせて切り捨てて終わりっていうのは、どこの世界・・でも一緒よね。特にこの世界・・・・は…」


リリィ 「奴隷ギルドは貴族もたくさん抱き込んでるからね。証拠が弱いと、そいつらが圧力を掛けて大した処分はできず、有耶無耶にされて終わるかも知れない」


リュー 「証人が足りないなら、ミィが証言してくれればいいんじゃないか?」


リリィ 「それも決定的とは言えないね。ミィは既に解放済みだから、どんな隷属契約だったか確認する術もないし。おそらく奴隷ギルドも違法奴隷について記録なんか残してないだろうからね。ミィが嘘をついていると強弁するだろうね。


まぁ、いざとなったら嘘をついていないと証明する方法もあるけど。教会から【嘘看破ライクラック】のスキルを持っている人間を連れてくるとかね。ただ、教会の中にも奴隷ギルドの隠れ奴隷の工作員が入り込んでいる可能性がかなり高いって話もあってね。もはやそうなると、証言者が偽証罪に問われる事になってしまう」


リュー 「俺は王から公認鑑定士として認定されているから、俺が鑑定して証言すれば、それだけでも証拠能力があると認められると思うが?」


リリィ 「うーん、この国の王が認定した資格はこの国の中だけでしか通用しない。奴隷ギルドは国をまたいで各国に存在する組織だから、そんな資格は認めないとゴネるかも知れない。

最悪、ガレリア国内ではガレリアの法に従うだろうけど。


国としてはそれで十分な決着かもしれないけど、アタイとしてはそこで終わりたくないんだよね…」


リュー 「?」


リリィ 「それじゃぁ、奴隷ギルドの世界を裏から支配する目論見は変わらないだろう? この国だけ支配を逃れたとしても、それ以外の国では奴隷ギルドがやりたい放題で、気がつけば全世界が奴隷ギルドに影から支配されてるって事になるかもしれない。いや、もう、その一歩手前まで来てるんだと思う。


だから、最終目標は、この国の奴隷ギルドのランドマスターじゃなく、全世界の奴隷ギルドを統括している “ワールドマスター” を捕らえたいんだ」


リュー 「……悪いが、俺は世界征服を目論む悪の組織を止めるとか、興味ないぞ? 俺は正義の味方はやる気はないよ。ただ、降り掛かってくる火の粉を振り払うだけ…


…というか、二度と火の手が上がらないように火元を締めに行くって感じか?


ワールドマスターってのが俺達に手を出してくるなら元栓締めに行くが、俺達に手を出さないと約束するなら、それ以上、組織がどうとか法律がどうかまでは興味ないよ。そういうの考えるのは為政者の仕事だからな」


リリィ 「分かってる、それはアタイの個人的な目標だから。アンタ達は、降りかかる火の粉を払ってくれればいいのさ。


ただ、多分、リューは締めに行く事になると思うよ。間違いなく、ワールドマスターはアンタ達を放っておかない。


アタイは、それに便乗させてもらうさ。都合がいい話だけど、その分、情報提供や協力もするし、報酬も払うからさ。力を貸してくれるとありがたい」


リュー 「…まぁ、向こうが俺を狙う気があるのかどうか、確認する必要はあるな。このままでは落ち着いて寝られないだろうからな……レスター達が。


で、どこにいるんだ、その、奴隷ギルドの世界のトップは?」


リリィ 「…残念ながら、ワールドマスターの居場所は分からない。奴隷ギルドのワールドマスターは二百年ほど前に代替わりしたんだけど、その後、行方を晦ましたままほとんど表に出てこないんだよ。


ただ、各国のランドマスターには裏から指示を出してるらしいから、ランドマスターを問い詰めれば……まぁランドマスターも居場所までは知らないかもしれないんだけどね」


リュー 「とにかく、ランドマスターとやらに会って確認するしかないってわけだな」


ヴェラ 「トップ交渉・・に行くのはいいけどね、ミィちゃんに酷い事した連中も、私は許したくないわ」


リュー 「ミィが性奴隷として弄ばれていた件か?」


ヴェラ 「リューも知ってたんだ…」


リュー 「【鑑定】したからな」


ヴェラ 「知ってるなら話は早い、リュー、お願い、あなたなら治せる、戻せる・・・わよね? ミィちゃんの身体には、酷い傷痕がたくさん残ってるのよ……奴隷になってから、弄ばれてつけられた傷が……」


リュー 「そうなのか。いいよ、やってみよう」


リリィ 「どういう事?」


リュー 「ここだけの秘密だが…俺は……


…時間を巻き戻せる魔道具を持ってるんだ」


リリィ 「! そんな魔道具、聞いた事ないんだけど?!」


リュー 「極秘情報だ。喋るなよ?」


リリィ 「言いません、言えませんて。もし本当なら、国宝級をはるかに超えてる、誰にも言えないって」


リュー 「ミィ、奴隷になったのは何年前だ?」


ミィ 「二年以上前ですが……」


リュー 「じゃぁ三年、いや四年分くらい巻き戻せばいいか? じゃぁ…… “タイムブランケット~” 」


リューは妙な言い方・・・・・をしながらテーブルクロスを取り出した。


ヴェラ 「なんか、いつの間にか服のお腹にポケット着けてると思ったら、それがやりたかったのね……」


リュー 「モリーに頼んで縫ってもらったんだ。収納の魔道具マジックバッグって事にしておけば、モノを出し入れしても怪しまれないだろ?」


ヴェラ 「却って怪しまれそうだけどね…」


リューは、取り出した布をミィにばっさりと被せると時間を巻き戻し始める。


もちろん布は魔道具などではなく、ただのテーブルクロスであり、リューが時空魔法で時間を巻き戻しているだけであるが。


ミィは、一瞬目眩を感じたが、何が起きているのか分からない。


十数秒後、掛けられた布が取られる。


リュー 「終わったぞ。肉体の時間を四年前まで巻き戻した。奴隷だった “記憶” と “事実” はなくならんだろうが、肉体は四年前の状態に戻っている」


ミィ 「?!」


慌ててミィは袖を捲くった。ミィの右上腕には、一度切断され、接合治療を受けた傷跡が残っていたはず。それを確認したのである。


ミィ 「傷が……ない! じゃぁ、本当に……?」


ミィはリュー達の前であるのも忘れて、服をあちこち捲くりあげて自分の体を確認し始めた。

服の下から下着や肌が見え隠れする。ついには服を脱ぎ、胸を出して確認した。胸にも傷があったはずが、露出された乳房に傷は一切残っていなかった。


美しい形の乳房に「お」という顔をしたリュー。はっとしたヴェラが慌ててリューの肩を掴み後ろを向かせた。


ヴェラ 「アンタ達もよ! 回れ右!」


ランスロット 「我々は別に人間の肉体など気にしませんが?」


ヴェラ 「アンタ達が気にしなくてもミィが気にするでしょ」


ランスロット達も仕方なく背を向けた。正直、ヴェラも、スケルトンに対して意味があるのか分からなかったのだが、気持ちの問題である。


ミィ 「…治療しても消せなかった傷跡も、全部、完全に消えてる……本当に……体が、戻ってる?」


リリィ 「いやいやいやいや……


…凄いわね、その魔道具。なんか、見た目はただのテーブルクロスにしか見えないけど…」


布をよく見ようとリリィが近づいたが、その前にリューが布をポケットに収納してしまった。


リリィ 「…うん、分かったよ、深くは追求しない…」


   ・

   ・

   ・


ヴェラ 「そう言えば、ミィはリューに一目惚れしたって言ってたけど、あれは命令されて言ってただけなのね?」


ミィ 「……はい、そうです」


ヴェラ 「そうかぁ、残念だったわね、リュー! せっかくモテてると思ってたのに」


リュー 「べっ、別に、どうでもいいし」


ミィ 「その……ごめんなさい」


リュー 「謝るなよ、なんか俺がフラれたみたいになるだろ」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ミィを弄んだ非道なエージェントは、リューにダンジョンへと拉致される


乞うご期待!


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