第373話 骸骨達と一緒に生きて行く

リリィ 「ちょまってちょまって、ヴェラよ、お前もか! 意外と過激な性格だったんだね」


ヴェラ 「リューは奴隷制度を廃止させる気はないって言ってたけど、私は違うわ。ミィちゃんに酷い事した連中は許せない。同じように、違法に奴隷にされて苦しんでる女性がたくさん居るんじゃないの? 奴隷制度なんて、ないほうがいいに決まってる」


モリー 「私もそう思います」


リリィ 「でも、さっきも言った通り、法的に制度を規制したって隷属の魔法はなくなりはしないんだよ? だったら、規制するにしても、既存の組織・制度を残して掌握して、違法奴隷を絶対に許さないように監視したほうがいいんだよ」


ヴェラ 「そう…なのかしら?」


リリィ 「そうだよ。現状で、違法行為は既に法律で決められているんだし。できたら証拠をちゃんと挙げて、ギルドや王族・貴族が奴隷ギルドに介入できるようにしてくれると助かる。


それに、現段階では、情報を探るだけなら違法行為ってわけじゃないからね。先に手を出せば、リューがお尋ね者になってしまうよ?」


リュー 「ならんさ。証拠なんか残さない」


ランスロット 「そうですね、なんなら、奴隷ギルドの上層部の人間を全員、一切証拠など残さず、跡形もなくこの世から消してごらんに入れましょう」


リリィ 「う~ん、奴隷ギルドよりこっちのほうがヤバイ人達だった……」


リュー 「仮に指名手配されたところで、俺やランスロット達を捕らえる事などできはしないしな。何も問題ないな」


ランスロット 「御意」


ヴェラ 「…指名手配って言えば……ちょっと気になってたんだけど、もうされてるんじゃないの?」


リュー 「?」


ヴェラ 「国からじゃなくて、途中で潰して来た貴族とか…」


リュー 「ああ…」


ヴェラ 「ジャールの街で代官の屋敷を潰した件もあるし、騎士も随分殺してるし。いくら王が敵対する貴族を殺すのを許可したとしても、恨みに思って復讐したいという貴族の親類縁者はいるかも知れない。


そういう連中が…、奴隷ギルドみたいに狙ってくる組織がいるとしたら……


私やリュー、ランスロット達は大丈夫でも、レスターやアネット、モリーには危険かもしれないわね」


リュー 「……そうだな。じゃぁモリー達とは別れて別行動としようか。別に彼らは俺とは何の関係もないのだから。俺達とは離れて他人として生きていけば危険はなくなるだろう」


モリー 「そんな、リュー様…」


ヴェラ 「そんな言葉を聞いたら、アネット達も悲しむわよ」


リュー 「…もともと、あの二人はモリーと一緒にトナリ村に住んでもらう予定なんだが。一緒に旅などしないで、さっさと送り届けてしまえばよかったか」


ヴェラ 「もう遅いでしょ。あなたが『彼らは自分とは関係ない他人だ』と言っても、相手がそう判断しなければ同じ事なんだから」


リュー 「う…確かに」


ヴェラ 「それに、今後もずっと、あなたは独りで生きて行くつもりなの? 骸骨達と一緒に? 家族を作りたいとか思わないの?」


リュー 「……この世界で、そういう事は、あまり考えてなかったな…」


ランスロット 「リューサマの関係者に手を出してくるような奴は、片端から抹殺してごらんに入れますよ」


リュー 「だがな、片っ端から消したりすれば、ヴェラが言ったように、敵をどんどん増やすことにはなりそうだな。敵が多過ぎてどこから狙われているのか分からない、みたいな状況になると確かに厄介だ。国ごと全部消してしまってもいいが、それじゃぁレスター達は生きていけないだろうしな」


リリィ 「ちょ国ごとって」


ヴェラ 「恨みを持って狙って来る連中が、リューに直接攻撃しても無理だと分かったら、復讐の手段がどんどん陰湿になっていくだけでしょうしね」


リュー 「今までも護衛はつけてはいたが、正直そこまでは……少し想像力が足りなかったかな」


ランスロット 「ご安心下さい、私はちゃんとそこまで想定して指示を出しておりましたから。子供たちやモリーさんに手出しはさせません」


リュー 「そうなのか、助かる。だが、敵は思ったより多いかもしれないな、念のためさらに護衛を強化しておいてくれるか」


ランスロット 「それも既に指示済みです。現在着いている護衛の他に、周囲を索敵する班を追加で展開しております」


リリィ 「……悪いけど、彼ら・・が本気で来たら、いくら護衛を強化しても難しいかも知れないよ?


言っただろ、外から奴隷だと分からない工作員がそこら中に居るんだ。その気になったら、いくらでも一般人と全く見分けのつかない鉄砲玉を用意できる」


ランスロット 「そうであっても問題ないでしょう、攻撃してくるものは全て排除すればよい事ですから」


リリィ 「言うのは簡単だけどねぇ。相手は完全奴隷ノーリミットである可能性が高い。そういう奴隷は命令されれば命だって迷わず捨てるんだ。例えば、社会的に立場のある温厚で立派な人物が、突然、殺人犯や誘拐犯に変わるかも知れない。食堂の料理人だって…食べ物に薬物を入れられる可能性だってある。毎回毒味をさせるかい、王様みたいに? どんな完璧な護衛だって、街の中で普通に過ごしながら、一日中、一年中、すきなく護衛し続けるなんて事は無理だと思うんだけど……」


リュー 「寝る必要もないランスロットの部下なら完璧にできるだろ?」


ランスロット 「…いや、私の部下も完璧ではないですね、時にはミスをする事もあるのです、残念ながら…」


リュー 「そこは胸張って大丈夫だって言ってほしかったんだが…。


んー、そうなると、敵対する者、片端から皆殺しってのは、恨みを買うばかりで良くなかったって事になってしまうが」


ヴェラ 「そう言えば、リューは人を殺すの、あんまり抵抗感ないわよね?」


リュー 「相手がこちらを殺しに来てるのなら当然、相手も殺されても文句は言えまい? それに…


…死が終わりじゃない事を知ってしまったしな」


ヴェラ 「そうね。ただ…、殺してしまえば後腐れなし、だったら良かったんだけど。殺せば恨みを抱く遺族が居る。恨みを持つものが増えれば、敵も増え続ける事になる…。リューや私、ランスロット達は平気でも、レスター達は生きづらくなるかもしれないわね」


リュー 「……」


モリー 「その、今回の相手は、世界規模の巨大組織なんですよね? だとしたら、他国に逃げても無駄って事ですよね。できたら、手を引かせる方向に持っていく事はできないものでしょうか…」


ランスロット 「頭を潰してしまえばいいでしょう」


リリィ 「トップを殺しても、また次のトップが悪い事をするかも知れないよ? むしろ、生かしていおいたほうが、長期間手を引かせる事ができる」


リュー 「そうだなぁ、じゃぁなるべくリリィが言うような方向で行ってみるか? まぁ、できるだけ・・・・・、な。もし、やり過ぎてしまった時は、まぁしょうがない」


ランスロット 「たとえ世界規模の組織でも、我が軍ならば潰してしまう事も可能です、必要になったらいつでもご命令下さい。優秀なスケルトン兵士達が世界中を駆け巡り、奴隷ギルドの人間を根絶やしにいたします」


言葉使いは丁寧なのに内容が過激なランスロットに、リリィの顔が少し引き攣っていた。


リュー 「ところで…


“隷属の魔法がなくならない限り”  とさっき言ってたが、隷属の魔法が使える者というのは多いのか?」


リリィ 「闇属性の適性を持つ者なら…、隷属の首輪が操作ができるくらいの者は多いね。でも、自分で魔道具クビワを作ったり、ましてや奴隷紋を刻む事ができる者は稀有だね。そういう能力を持つ者は、奴隷ギルドの中でも高待遇で幹部に迎えられて囲い込まれてる。

リューも仲間になれって言われたらしいけど、かなりの高待遇を提示されたんじゃないのか?」


リュー 「いやぁ、なんか上から目線で文句言われただけだったなぁ、報酬の話とかなかったぞ?」


リリィ 「それは、相当駄目なエージェントね…」


リュー 「なるほど、あれが “エージェント” だったのか」


リリィ 「ミィ、アンタに直接命令を下してたのは、王都に来る途中で会ったあの男かい? ゴードンって言ったっけ?」


ミィ 「そうです」


リュー 「じゃぁ次は、ソイツから “事情聴取” するか? リリィは証拠が欲しいんだろう?」


リリィ 「そうだけど、仮にもエージェントが、簡単に証言するとは思えないんだけど」


リュー 「そこは大丈夫だろう、ランスロットも居るし」


ランスロット 「御意」


リリィ 「大丈夫なんだろうか……」


顔が引き攣りっぱなしのリリィであった……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


時間を巻き戻すテーブルクロス?


乞うご期待!



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