第463話 初依頼は

リュー 「初っ端は、ペット探しかぁ…」


殺人犯を暴き出し難事件を解決する。探偵がそんな仕事をするのは映画や小説の中だけである。現実の探偵の業務のほとんどは浮気調査かペット探しである、という知識はリューも知っていた。(日本で生きていた時に、幸いにも? 実際の探偵と接点はなかったリューなので、その知識が本当の事なのかは分からなかったが。)


探偵を始めるからには、もちろん、そういう仕事の依頼が来るのも覚悟はしていたが……ただ、正直なところ、ペット探しはちょっと敬遠したかったリューであった。


神眼を使っても、逃げたペットの行方など探せないからである。心を読める能力というのは、人間相手ならばかなり有効だろうが、動物相手ではそうは行かないだろう事は想像に難くない。


もちろん、その姿形や魔力の特徴などをよく知っている動物であれば、神眼で街中を虱潰しにサーチすれば見つけられる可能性もある。


だが、見た事もない他人のペットを探すというのは、なかなか難易度が高い。


少女 「駄目……ですか? マロンは私の妹みたいなものなんです、それが一週間前から居なくなってしまって、心配で……」


ランスロット 「お嬢サマ? 仕事を依頼するにはお金が掛かりますが、用意できますか? あ、これが料金表です」


少女 「貯めてたお金持ってきました。これで足りますか…?」


少女は依頼表も見ないで、持ってきた木の貯金箱をひっくり返す。テーブルの上に転がったのは銅貨が十枚ほどだけであった。


リュー 「…少し、足りないようだな…」


ランスロット 「少しじゃない、かなり足りないようですが」


少女 「足りない分は、あとで働いて返します! だから、お願いします…」


ランスロット 「そう言われましてもねぇ」


リュー 「いや、ま、いいだろ。お客様第一号だ、開店サービスで特別に格安で引き受けてやろう。暇だしな」




  * * * * *




ランスロット 「手がかりが少なすぎますねぇ、どうしますか?」


少女は名をジルと名乗った。リューはジルから猫の情報を聞き出したが、結局得られた情報は、猫の特徴(曖昧)と名前だけなのである。


この世界には写真というものはない。猫の似顔絵も少女に描かせて見たが、芸術的?過ぎて猫なのかどうかすら分からず、使い物にはならなかった。


名前はマロン

三毛猫

メス

年齢は(猫としては)割と高め


以上である。


リュー 「まぁ、せっかくランスロットが居るんだし? 手伝ってくれるんだろう?」


ランスロット 「もちろん、喜んで……部下達がやるでしょう」


リュー 「軍団レギオンを使えば、すぐに見つかるだろう、人海戦術だな。


兵士は百万人でも動員できると言ってたよな? ならば、王都を十メーターずつに区切って、それぞれに兵士を配置して、担当の十メーター四方の中をくまなく調べてもらえばいい。


二~三十万人くらい配置すれば、王都をカバーできるだろ。そして、自分の担当範囲内に特徴と一致する猫が居たら報告してくれ」


スケルトン兵士は亜空間から “見る” 事ができるのだから、誰にも気づかれずに調査できるのである。調べ物にはもってこいである。リューの目論見通り、猫の情報はすぐに集まった。


ただ……


スケルトン達の報告によると、同じような特徴の猫は王都内で数十匹は居る事が判明したのだった。


リューは報告にあった数十匹の猫について、さらに詳しく追跡調査させた。


そして上がってきた報告内容を精査し、明らかに違うだろうという猫を除外していく。例えば子猫であったり、明らかに長く飼われていた様子のある飼い猫などは違うと判断した。


それでも、十匹程度が残ってしまった。


残ったのは全て野良猫であったので、そのままスケルトン兵士に捕獲させて事務所に連れてこさせた。


捕まえてきた猫達を事務所として買った一軒家の一室に閉じ込め、依頼人の少女ジルを呼び、その中から飼い猫を見つけてもらえば解決であろう。同じような特徴の猫が十匹。正直言ってリューには見分けが付かないのであったが、飼い主の少女なら大丈夫だろう。


だが……


リュー 「どうだ? どの子だ?」


しかし返事がない。ジルの顔を見ると、なんだか困惑した顔をしていた……


リュー 「ワカランのカーイ」


ジル 「マロン? マロン?」


ジルが慌てて呼びかけてみる。しかし、反応する猫は居ない。


だが、しばらくして、ジルの足に擦り寄ってくる猫が居た。抱き上げてみるジル。


リュー 「その子か?」


しかし、ジルは首を振った。


ジル 「違うと思います……マロンには、お尻のところにハート型の模様があったんですが、この子にはないですから」


リュー 「そんな特徴があったなら最初から言ってくれ~」


ジル 「す、すみません、今思い出したので……ハート型と言っても、強いて言えばという程度で、完全なハートではないんです」


だが、再度三毛猫達を調査・確認させたところ、今度はおかしな結果になってしまった。


該当の模様がある猫は一匹だけ見つかった。最初に除外した猫の一匹であったのだが、それは王都内にある、とある貴族の屋敷の飼い猫だったのだ。


報告された屋敷の中をリューが神眼で観察してみると、部屋の中に首輪をした猫が居た。


首輪をしているという事は、勝手に入り込んだわけではなさそうだが……


いや、勝手に入り込んだのを、捕獲してペットにしたのかも知れない。猫の心を読んでみても、目の前にある餌の事しか頭にないようであった。




  * * * * *




リュー 「さて、どうするかね」


リューはその貴族の家の前に居た。眼前には門番をしている厳つい兵士が立ちふさがっている。


門番 「誰だキサマ? 何か用か?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


猫を攫ってさらっと初依頼解決!

しかし、次の依頼者は……


貴族 「飼い猫がいなくなったので探して欲しいんだが…」

リュー 「モシカシテ三毛猫デスカ?」


乞うご期待!



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