学園編

第462話 リューの新しい仕事とは…

ランスロット 「全然、客が来ませんね」


リュー 「まぁ、開店したばかりだからな。


って、それよりランスロット、お前はなんでここに居るんだ?」


ランスロット 「そんな、コンビで世界を狙おうって約束したじゃないですかぁ。それなのに、私に相談もなく一人で新しい仕事を始めてしまうなんて。そして、独りだけ売れたら、落ちぶれた相方は捨てられる運命なのですね?」


リュー 「ああ~大分高度なボケを憶えたようだが、それは今は置いといて。


お前はエド王のところで軍団レギオンを指揮する仕事があるんじゃないのか? 結構あちこちの国境線で小競り合いが起きていて忙しいって聞いたぞ?」


ランスロット 「ああ、それはパーシヴァルとエヴァンスに押し付けてきましたので大丈夫です」


リュー 「そ、そうか」


ランスロット 「あの二人も私に負けず劣らず優秀ですから。ま、無口なのが欠点ですがね」


リュー 「お前は喋りすぎるのが欠点だけどな」


ランスロット 「それに、あの二人以外にも、任せられる部下はたくさんおりますので」


リュー 「まあ、独りで全部やる必要はないか…」


ランスロット 「なんでも一人で全部やってしまうのがリューサマの欠点ですよね」


リュー 「む…」


ランスロット 「しかし客が来ませんね。ちゃんと宣伝しましたか?」


リュー 「ああ、もちろん。ユーセイに客が居たら紹介してくれって言っておいた」


ランスロット 「ユーセイ? ああ、王都の冒険者ギルドのマスターの」


リュー 「ああ、王都支部のマスターな。あと、東支部だけだが、ギルドの中に広告も貼らせてもらった」


ランスロット 「冒険者からの依頼は…あまり期待できないような気がしますが?」


リュー 「まぁな。冒険者ギルドは依頼を受ける側だからな、本末転倒といえばそうかも知れん」


その時、扉が開き、始めての客が訪ねてきた。


少女 「あの…探しものしてくれるって聞いて……お願いします、マロンを探して下さい!」


    ・

    ・

    ・


リューが王都で新しく始めた仕事、それは……


「探偵事務所」


であった。






正直、トナリ村でのスローライフに、リューは思ったよりも早く退屈してしまったのだ。地球の暮らしとは違う。なにせ、この世界には娯楽が一切ないのだから。


テレビもラジオもない、もちろんパソコンもスマホもないし、インターネットなどない。本はあるにはあるが、非常に高価で庶民の間にはそれほど普及していないし、そもそも種類も少ない。


(この世界にもかつては高度な印刷技術を持つ文明があった事もあるようなのだが、それは既に滅亡してしまっている。この世界の人類の文明は、何度も滅亡と再生を繰り返し、現在は地球の中世程度の生活水準というところなのである。)


地球であれば、暇と金があるなら、繁華街などを遊び回るなどもあるかも知れないが、そもそも、トナリ村に繁華街などはない。映画館もないし、ハンバーガーショップもない。


王都に行けば飲み屋街くらいはあるが、リューは酒も飲まない(飲んでも体質的に一切酔わない)し、性欲もあまりない。演劇などの劇場もない、旅の吟遊詩人や、貴族相手の旅の劇団一座などが稀に居るが、多くはない。なにせ、魔物が闊歩する世界なので、旅をするのにも護衛が必要になる世界なのだから。


刺激が少ない。この世界の田舎暮らしのスローライフは、思いのほか、刺激が少ないのだ。


こうなると、貴族達が覇権争い、権力争いなどをしたり、平民を見下し悦に入ったりする行為も、他に楽しい事がないからなのかも知れない、などとも思うリューであった。


そうなると、なにかしたくなるが……


ふと、以前、ヴェラに言われた事を思い出す。それは、ずっと心の中に引っかかっていた事だった。


たしか…


「その力を世界のため、人々のために返そう、貢献しようとは思わないのか?」


…というような事を言っていた。


ヴェラは、治療院を開いて人々のために働きたいと言っていて、実際に今トナリ村でそうしている。意外と評判で、他の町や村からも治療してほしいと訪れる者が現れ始めているらしい。


「誰かのため、世のため人のために働いて、喜んでもらえる事が、人としての幸せなんだよ。みんな、人の役に立ちたい、人の喜ばれたいと、心の奥では思ってるんだよ」


日本でも看護師をしていたヴェラらしい考え方である。


リューは、その考えに百%同意したわけでもないのだが、否定するほどの理由もない。まだリューにはよく分からないが、もしかしたら、人間が最後に行きつく幸せというのは、ヴェラの言う通り、人のために働く事なのかも知れないな、と、なんとなくだが、リューも思うのであった。


とはいえ、まだリュー自身はそこまで達観できているわけでもないのであるが。


まぁ、どうせ何かやるなら、自分の能力を生かして、人の役に立つ、人に喜ばれるような仕事を試しにしてみようかと考えたのだ。


だが、誰か、特定の権力者に協力して私腹を肥やす手伝いをする気はない。ではどうするか。


リューの能力であれば、色々な事ができるだろうが、ありきたりな事をする気はなかった。


リューの能力の中でも、一番重要なのは神眼の能力である。これなくしては、転移も自由にできないのだから。


これは、おそらくこの世界で誰も持っていないリューだけの特殊能力であろう。これを活かす方法を考えて、リューは探偵業を思いついたのである。


この世界の犯罪捜査は、かなり稚拙で杜撰である。だが、リューなら犯人の心の中が読めるので、犯人が誰か分かる。動かぬ証拠を揃えるのは難しいかも知れないが、それも神眼のアドバンテージがあればかなり違うだろう。


エド王には事前に話をした。それを聞いた王は、王都の警備隊に解決できない難事件があったらリューに相談するようにと指示を出してくれた。


だが、警備隊は、仮に解決できないような事件があっても、わざわざ金を払って冒険者に頼むなどプライドが許さなかったのである。事件は自分達だけで解決すると意地になってしまい、結局リューに依頼してくる事はなかったのだ。


そもそも、この世界には探偵という職業はなかったようなので、いまひとつピンと来ない人のほうが多かったようだ。


もちろん、情報屋のような仕事をしている者は居る。警備隊も、町の情報やと懇意にして、情報を買ったりする事もある。


だが、探偵は情報屋とは違う。金を払ってなにがしかの事件の解決を依頼するような相手ではない。


あるいは、調査依頼でも雑用に近いような簡単なものなら、低ランクの冒険者に依頼する事が普通である。


そんなわけで、探偵事務所を開いても開店休業になるのは当然であった。


そんな時、やっと来た初めての客、記念すべきひとつ目の依頼は「猫探し」であった……。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


王都内大捜索!


リュー 「こんだけいりゃ、どれか正解だろ。どうだ? なぁにぃ~? 全部違うだとぉ?!」


乞うご期待!



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