第585話 リューの家を襲撃したパガル…
オイレンの仲間の家で意識を取り戻したパガル。
高価な治療薬を買うために金を使ったと事後承諾で聞かされ、減ってしまった巾着の中身を見てショックを受けていたが、殺されて金も全額奪われてもおかしくはなかった状況なのだから仕方がないと諦めた。
だが、その経験が何かおかしなスイッチを入れてしまったのか、アケルが言っていた話のうち、都合が良い部分だけが残っていた。
もともと廃嫡された直後で平常の精神状態ではなかったのもあり、話をちゃんと聞いていなかった部分もあったのだが、パガルの中ではいつのまにか、「手柄を立てればまた貴族に戻してやる」とヒムクラート子爵が言っていたという話にすり替わっていたのだ…。
そこで、トナリ村に行って、なんとかマンドラゴラの場所を探り出し、何本かマンドラゴラを採集して父親に献上すれば許してもらえる、そういう結論に至り、すぐさま行動に移してしまったのだった。
所持金は残り少なかったが、オイレンの部下達に金を払い(前払いを要求されたため)、さらに足の速い馬を何頭も買い、雇った破落戸共とともに、再びトナリ村へと向かったのであった。(お陰でパガルの所持金はほとんどなくなってしまったのだが、使う時はケチらず使うべき、それが商会で学んだ事だろうと自分に言い聞かせていた。)
しかし、やはりパガルは、強盗に襲われた時に頭を殴られておかしくなっていたのかも知れない。
馬に乗りながら、だんだん怒りが湧き上がってきて興奮状態になり、オイレンの部下達が止めるのも聞かず、無茶苦茶に馬を飛ばしまくったのだ。お陰で一日でトナリ村についたのだが、可哀想に馬は泡を吹いてそのまま死んでしまったのであった。
だが、パガルは馬を気にする事もなく、まだ怒り続けていた。そしてその怒りは何故かすべてリュージーンに向かっていた。マンドラゴラを納品しているリュージーンという冒険者が諸悪の根源であると思い込み、そいつを殺せば解決すると思い込んでいたのだ。
村に着いたパガルは、オイレンの仲間達に、オイレン達が冒険者に捕らえられていると嘘をつき、助けに行くと行って全員でリューの家へと向かった。
家の門を叩こうとしたパガル。だが、叩く前に門が開いた。
ランスロット 「何か御用ですかな?」
パガル 「…! …っ、お前がリュージーンか!」
ランスロット 「……」
パガル 「答えろ!」
ランスロット 「…そうだと言ったらどうなさるおつもりで?」
パガル 「死んでもらう!」
パガルが剣を抜く。慌てて連れてきた破落戸達も剣を抜く。
ランスロット 「ええっと、事情を話して頂いても?」
パガル 「問答無用! やっちまえ!
…おい、どうした? はやくやっちまえ……ヒッ?!」
ランスロット 「やれやれ……事情は分かりませんが、剣を抜いたとなると、反撃されても文句は言えませんよ…?」
そうランスロットが言った瞬間には、ランスロットは剣を鞘に納めているところであった。
いつ斬られたのかも分からない早業で身体を縦に横にと分断されて絶命した破落戸達の姿を見て、パガルの顔が恐怖に染まる。
パガル 「ばっ…、そんな…、これが、Sランクの力?」
ランスロット 「さて、確かパガルとか言いましたね? お前は楽には殺しませんよ?」
リュー 「一体何の騒ぎだ、ランスロット?」
そこに、ちょうどエライザを連れて散歩に行っていたリューが戻ってきた。
ランスロット 「いえ、なんでもありませんよ。強盗が襲ってきたので返り討ちにしただけです」
リュー 「…へぇ、そうか。余所者か?」
ランスロット 「はい。この街の人間だったらリューサマの家を襲おうなんて考えるはずがないですからね」
死んだ破落戸達はスケルトン時空へと引き込まれ、あっと言う間に家の前はキレイになっていく。
リューは一人の生き残っていたパガルを見て言った。
リュー 「ソイツか? 一体なんでまたウチを狙ってきたんだ?」
パガルはいつのまにか現れたスケルトン兵士達に体中を掴まれ、小便を漏らしていた。あれほど怒りに燃え上がっていた頭はすっかり冷め、今は恐怖に支配されている。
ランスロット 「それが、実は、カクカクシカジカでして…」
そこで、リューは一連の事件の話を初めて聞かされたのであった…。
リュー 「なるほど、マンドラゴラの植生地が知りたかったわけか。別に、直接尋ねてくれたら教えてやってもよかったんだがな」
パガル 「なん…?!」
リュー 「マンドラゴラなら、裏庭の畑にたくさん植わってるぞ? 見てみるか?」
(裏手に移動する。)
パガル 「そんな…、こんな所にマンドラゴラがたくさん……
おかしいだろう、マンドラゴラはダンジョンの中でしか育たないはずだ、畑で育てるなんてできないはずだろ? どうなってるんだ?」
リュー 「栽培方法を教えてやってもいいが、多分俺以外に育てるのは無理だぞ?」
ランスロット 「リューサマ以外にできない方法ですからね」
※マンドラゴラを育てるには、栄養の変わりに膨大な魔力を注ぎ続ける必要がある。マンドラゴラがダンジョンの中にしか棲息しないのはそのためである。
どれだけでも魔力を使えるリューならばこそ、ダンジョンの外に畑を作って栽培可能なのであって、魔力が有限な人間にはとてもできる真似ではないのだ。
貴族が金に明かして大量の魔法使いを雇い魔力を注がせれば栽培する事も可能かも知れないが、それで作れるマンドラゴラの数はたかが知れている。雇った魔法使いの人件費を考えると、どれだけ利益が出るかは微妙なところであろう。
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次回予告
マンドラゴラのミュージカル?
乞うご期待!
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