第586話 ヒムクラートの末路

呆然と畑を見ているパガルに対し、少し悪戯心が湧いたリューが、指をパチンと鳴らす。すると、畑の手前側に植わっていたマンドラゴラ達が突然動き出し、土の中から這い出てくる。そしてマンドラゴラは一列に並ぶと、指パッチンしながら一歩また一歩とパガルに向かって前進し始めた。


その異様な光景に思わず後退ってしまうパガル。


実は、時々子供たちと遊んでいたマンドラゴラ達がよく踊っているのを見て、リューが面白がってミュージカル調のダンスを仕込んでみたのである。


もう一度リューが指を鳴らすと、マンドラゴラ達は思い思いの決めポーズをしたあと、合体して一体のマンドラゴラの少女(ドラ子)にと変化した。


リュー 「ご挨拶しなさい」


ドラ子 「ハジメマシテ……お客様?」


パガル 「シャベッター!」


リュー 「魔力を過剰に与え過ぎたみたいでな、進化したんだ」


ドラ子はその後もリューが魔力を与え続けたところ成長し、まだ少し片言だが、喋るまでに進化していた。


喋るマンドラゴラ少女を見て、口をパクパクさせているだけだったパガルだが、徐々に落ち着きを取り戻し、まだ多数のマンドラゴラが植わったままの畑を見ながら言った。


パガル 「全部…? 動くのか?」


リュー 「全部じゃない、あっちのは普通のマンドラゴラだ。普段はドラ子に世話してもらってる。マンドラゴラの事はマンドラゴラが一番よく分かるからな」


パガル 「凄い……マンドラゴラが栽培できるなんて……


…おい、お前、ヒムクラートに来い!」


リュー 「あん?」


パガル 「マンドラゴラの栽培はお前にしかできないんだろう? だったらお前が来い。マンドラゴラはこの村より高値で買い取ってやる、どうだ、いい話だろう?」


リュー 「そんないい話、もちろん、即答で…」


パガル 「うんうんそうだろう…」


リュー 「お・こ・と・わ・り・だよ!」


パガル 「なんだと!? 貴様、貴族に逆らってタダで済むと思ってるのか?」


パガルは既に貴族ではないのだが、そんな事をリュー達が知るはずがないので平気で嘘をつくパガル。


だが…


ランスロット 「何か勘違いしているようですが、あなたはもうヒムクラートに帰る事はできませんから、残念!」


パガル 「どういう事だ…? お前たち、貴族に手を出したらどうなるか分かってるのか?」


急に不安になり挙動不審になるパガル。


リュー 「どういう事かと言うとだな……そうだな、マンドラゴラを抜いてみろよ、そしたら教えてやろう。抜いた分はお前にやる。どうだ、いい話・・・ だろ?」


パガル 「何! くれるのか? タダで? そうか、よし!」


パガルは畑に近づくと、一本のマンドラゴラを掴み、力任せに引き抜く。そして…


マンドラゴラの悲鳴(咆哮ロア)をまともに浴び、ショック死してしまったのであった。


ランスロット 「マンドラゴラを抜くのにはそれなりに工夫がいるのですが、それも知らなかったようですね」


リュー 「間抜けそうだから、やるんじゃないかと思ったら、本当にやったな…。


ところで、もちろんこの程度で済ませるつもりじゃないんだろう?」


ランスロット 「もちろんです」


見ると、既にスケルトンがパガルに電撃の魔法を加えていた。電気ショックで止まっていたパガルの心臓が再び動き始める。蘇生したパガルは、しかしまだ意識が朦朧とした状態のまま、スケルトン達の亜空間に引きずり込まれて消えていったのであった。


ランスロット 「楽に死なせてやる気はありませんよ。色々とやらかしてくれた、その首謀者ですからねぇ」


リュー 「ああ、それそれ。もう少し詳しく話を聞かせてもらおうか? なぜ俺に報告が何もなかったんだ?」


ランスロット 「ありゃ、これは、お説教タイムですかな?」


リュー 「レスターとアリサも呼んでキナサイ」


こうしてリューはやっと、ランスロットとレスター、アリサに何があったのか、事情を聞いたのであった。


(レスターとアリサも、実はランスロット達が全て知っていたと聞いて驚いていたのだが。)


報告も無く勝手な事をしていた事を怒っていたリューであったが、三人に話を聞き、自立のために必要であったと言われ、渋々納得した。


リューがずっとこの村に居て、子供達が大人になりさらに歳老いても、ずっと面倒を見続けてくれるのか? と問われると、リューも反論できなかったのだ。


実は、人間とは違う、長い寿命のあるリューならば、ずっと面倒を見てやると言うのは不可能ではなかったのだが…、やはり、人間は、成長したら独り立ちし、自分の人生を生き、死んで行くべきだと、それを自分が阻害すべきではないとリューも思っていたのだ。




  * * * * *




その日の夜。


ヒムクラート子爵の寝室に再び現れたアリサ。(ランスロットに送ってもらった。)


約束を違えたヒムクラートを殺しに来たのだ。


クズの貴族は俺が潰してやるとリューは言ったのだが、アリサが最後まで自分で始末をつけると言ったので手を出さないことにした。


アリサの顔を見ただけで事態を察したヒムクラート子爵は慌てて弁明を始めた。(アケルからパガルがトナリ村に向かったらしいという報告を既に受けていたのだ。)


ヒムクラート 「待て! 頼む、殺すな! おそらくパガルの奴が何かやらかしたのだろうが、奴は廃嫡しヒムクラート家から追い出したのだ。もう奴はヒムクラート家の人間ではない!」


ランスロット 「そんな言い訳は通用しませんよ?」


いつの間にかアリサの横に立っていたランスロットが、パガルの生首をヒムクラートに見せるように掲げていた。そのパガルがヒムクラートを見て、タスケテと喋る…。


実は首から下は亜空間の中にありまだ生きているのだが、ヒムクラートには死体の首が喋ったように見えただろう。


ランスロット 「廃嫡しようが家から追い出そうが、その後やらかす・・・・可能性があったのは分かっていたはず。それを放置して知らん顔は、あまりに無責任というものでしょう。しっぽを切り離しても、それで本体の責任がなくなるわけではありませんよ?」


アリサ 「言ったはず。三度目はないと…」


既にアリサの短剣に心臓を貫かれていたヒムクラート子爵は、アリサの言葉を聞きながら人生を終えたのであった。


ちなみに、アケルの商会にもスケルトンの兵士達が現れ、アケルを亜空間へと連れ去って行った。


ランスロットは、アケルがオイレン達にレスター暴行を命じた事を知っていたので、アケルももちろん許すつもりはなかったのである。


アケルもまた、パガルやオイレン達とともに、骸骨しか居ない世界で長い地獄を味わう仲間となったのであった。普通に殺してもらえたヒムクラート子爵は、ラッキーであったと言えるかも知れない。いや、軍団レギオンのスケルトン達は、スケルトンになれずに可哀想に、などと言うかも知れないが。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ヒムクラート暗殺後記~トナリ村開発記


乞うご期待!


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