第28話 ダニエル、降格され借金まみれになる

翌日、ギルドマスターのダニエルは、リューの処分を全面的に解除すると発表した。

 

だが……

 

もはや、色々と手遅れであった。

 

 

 

 

冒険者達は商業ギルドで依頼を受けるようになり、冒険者ギルドには寄り付かなくなっていた。

 

商人からの依頼、そして領主からの依頼さえも商業ギルドに出されるようになた。

 

ついにはその他の一般の人からの雑用的な依頼も商業ギルドに出されるようになり、冒険者ギルドに依頼を持ってくる者は僅かとなってしまっていたのだ。

 

ダニエルは、ダンジョン目当てに冒険者が集まる事を期待していたが、そのダンジョンはリューによって踏破されてしまった。

 

Aランクパーティ「赤い流星」が逗留していた事で、何かが変わるのではないかとダニエルは漠然と期待していたのだが、その赤い流星はダンジョンで死亡してしまったというリューの報告であった。

 

核は破壊したとリューは言っていた。そうなると、ダンジョンのあった場所はもはやただの洞窟である。

 

モンスターに襲われることがあった街の人々は安堵したが、ダンジョンの素材を期待していた冒険者や商人には落胆した者も多い。

 

※リューは、ダニエルには、「ダンジョンの核は破壊した」と報告したが、それは嘘で、実際にはリューは核を持ち帰っているのだが。

 

核を持ち去られた事でダンジョンは死んだが、また核を設置すれば生き返る。あるいは、別の場所に核を設置する事で、新たにダンジョンを誕生させることも可能となるのである。

 

リューは、現在は冒険者ギルドを追い込み中だが、ダニエルを懲らしめる事が成功したら、また後でダンジョンを復活させてもよいと考えていた。ダンジョンは、やはり資源としては美味しいのである。

 

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処分撤回のあと、ダニエルは、リューにランクアップの打診をしてきた。

 

Eランクに、いや、なんならDやCにでもしてやると今更言い出したのだ。

 

だが、

 

「試験もなしにランクアップなどルール違反だろ?」

 

とリューは拒否。

 

そこはギルドマスターの裁量で大丈夫だとダニエルは言ったが、

 

「“これからはルールを厳格に守る”と言ったのはダニエル自身だろう?」

 

と嫌味を返されてしまう。

 

では試験を受けてくれとダニエルは言うが、リューは「もうランクアップに興味はない、試験を受ける気はない。」と相手にしないのであった。

 

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― ― ― ― ― ― ― ― 

ギルド本部から監査員が派遣されてきたのは、それからしばらくしての事であった。

 

かねてから報告されていたダニエルの不適切行動について、本部がやっと重い腰をあげたのである。

 

監査員がやってきて、ダニエルの過去の種々のやらかしは簡単に暴かれた。ギルド職員達が包み隠さずダニエルの過去の悪事について証言したからである。


職員の意見に一切耳を貸さず、冒険者ギルドは既に倒産寸前である。職員とダニエルとの信頼関係は完全に失われており、当然の結果であった。

 

その結果、ダニエルはギルドマスターを降ろされ、冒険者ランクも降格される処分が決まったが、それだけでは済まなかった。ギルドに与えた莫大な損害の賠償請求をされる事となったのだ。払えなければ借金奴隷に落ちる事になる。

 

だが、現役時代、それなりに優秀な冒険者であり、またギルドマスターになってからも賄賂や利権によって “溜め込んでいた” ダニエルは、その財産を全て支払いに当てる事でなんとか奴隷落ちを免れたのであった。

 

それでもまだ多額の借金が残ったのだが、それは追々、働きながら返していく事で許される程度の額であった。

 

ギルドは残りの借金を返し終えるまで、ダニエルをギルド専属の冒険者(兼雑用係)として働かせる事にした。ダニエルはこれから、冒険者ギルドの最底辺の雑用係をしながら借金を返し続ける極貧生活となったのである。

 

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ギルドマスターが不在になってしまったため、監査員として本部から派遣されたキャサリンが、一時的にマスター代理を務めることになった。

 

だが、どうにも、冒険者ギルドを取り巻く状況は芳しくない。

 

キャサリンは頭を抱えてしまった。

 

商業ギルドの台頭による冒険者ギルドの衰退。

 

……このままでは、この流れはこの街のみならず、他の街・他の国にも広がっていく可能性がある。商業ギルドは既にそのように動き出していると聞く。

 

キャサリンは急ぎ本部に報告を上げた。それに対し、ギルド本部としても対応は検討していくが、キャサリンはそのままミムルに留まり、冒険者ギルドを何とか盛り返せ、との指示が来たのであった。

 

「この状態から尻拭いか……せめてもう少し早い段階で派遣してくれてればなぁ……。」

 

 

 

嘆いていても仕方がない。まずは、冒険者ギルドと商業ギルドの仕事の棲み分けをキチンと復旧する必要がある。

 

だが、問題は領主である。

 

この世界では、国によって「原則的な法律」は定められているものの、各地の自治に関する法律は、かなりの部分がその地を治める領主の裁量に任されている。

 

この世界には三権分立という考え方はなく、領地を治める領主が、司法・立法・行政をすべて取り決めるのである。

 

本来であれば、商業ギルドが冒険者ギルドの仕事を奪うのは領主が禁じるべきなのであるが、現状ではその領主が商業ギルドを後押ししているような状況である。

 

商業ギルドは、町の外の魔物討伐の報酬の一部を負担するなど、街の運営費について便宜を図る事で領主の懐柔に成功したのである。

 

もともとミムルの街は国境に接しているわけでもなく、田舎ではあるが凶暴な魔物が跋扈するような山奥というわけでもなく、地方の農業地帯というような街であったため、領主も街の防衛という意識はそれほど強くはなかった。

 

領主としては、金が出ていくだけの魔物の討伐依頼にはあまり積極的ではなかったのである。それを何割かでも商業ギルドが負担してくれるというのは、領主にとってはありがたい話なのであった。

 

商業ギルドとしてもメリットがあった。商人が通る交易ルート上に現れた魔物について、迅速に討伐依頼を出すことが可能になったためである。

 

だが、その代わり、商人が通らない場所の討伐依頼はあまり出されなくなるという弊害もあるのだが……。

 

 

 

冒険者ギルドは、資金力では商業ギルドには太刀打ちできない。

 

金ではなく、商業ギルドに頼り切る事の危険性を領主に理解させるしかない。

 

商人というのは、あくまで利益を追求する事しか考えていないのである。利益のためにはモラルもプライドもなく、平気で裏切るものなのである。

 

仮に、冒険者がすべて商業ギルドに囲い込まれ、商売の原則のみで行動するようになったら、いざという時、困った事になる。

 

例えば隣国が経済的侵略戦争を仕掛けてきた時、冒険者が“商業的な利害関係”でそれに乗り、国が乗っ取られるというような事態も考えられるのだ。

 

それに、いざ、武力を伴う戦争となったときにも、強い冒険者は当然戦力として戦争に参加する事が義務付けられるが、愛国心を失い利益優先の考え方をするようになった冒険者は、国を見捨てて逃げ出してしまうかもしれない。

 

商人というのは、商売をするにあたって、国境も税金もないほうが良いと考えている者は多いのである。そのような考え方を冒険者に浸透させてしまうのは、支配者層にとっては大変危険なことであろう。

 

冒険者というのは、確かに、商売人の側面を持っている。危険を冒して一攫千金を狙う、いわばリスクを商品とする職業なのである。基本的には自己の利益を追求している存在である。

 

だが、冒険者の矜持は、商売人というよりは職人のそれに近く、必ずしも金銭の利益のためだけに働いているわけではないはずである。

 

冒険者とは、国と人々を守る戦力でもあるのである。

 

人間同士の犯罪を取り締まり、侵略に対抗するのが軍隊(騎士隊)や警備隊であるのに対して、闊歩する魔物に対処するための防衛力が冒険者ギルドなのである。

 

それに、いざ有事となれば、当然冒険者は魔物相手だけではなく、盗賊や、時には外国から攻め込んできた兵士とも戦う。冒険者ギルドは、治安維持の一端を担う組織であるのだ。誇りを持って仕事をしている冒険者も多いのである。

 

特に、高ランク冒険者ともなれば、誇り高く愛国心を持つ事が求められる。いざと言う時には、利益度外視で国を守り戦う意志を持たねばならないのである。(そのような精神を持つ者でなければ、Bランク以上のランクが与えられないようになっている。)

 

だが、商業ギルドにはそのような崇高な精神はない。商業ギルドに登録している者にもランクがあるのだが、それは商売の実績のみで決まっていくのである。

 

そういう者たちには、利益を度外視して国や領地を守るという矜持は期待できない。

 

冒険者ギルドと商業ギルド両方に登録している冒険者も居るが、冒険者があまりに商売人とベッタリくっついて活動し、商売人の考え方に染まってしまうと、治安維持のために活動する冒険者がいなくなってしまう可能性があるのである。

 

いざという時、「赤字になるから」という理由で撤退してしまう軍隊では、街は守れないのである。

 

それを領主に理解させる必要がある。

 

(※これらはあくまでキャサリン個人の考えである。)

 

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とりあえず、キャサリンは、この一連の騒動の原因について調べるところから始めた。

 

もちろん、根本的な原因は前ギルドマスター・ダニエルよる杜撰な運営なのだが、それが発覚する事になったキッカケは、とあるFランク冒険者をダンジョンに置き去りにしてきたという事件だったようだ。

 

ダニエルから聴取した情報によると、件のリュージーンというFランク冒険者は“要注意人物”であるらしい。

 

だが、ダニエルの情報はそもそも信用できない部分がある。

 

このリュージーンという冒険者は、危険人物かも知れないが、逆に、この男をうまく利用すれば、状況を巻き返す事に繋がるのではないかとキャサリンの勘が囁いていた。

 

先入観を捨て、このリュージーンという冒険者を見極める必要がある。

 

とりあえず、リュージーンに会ってみたいと思い、職員に、リュージーンが現れたら執務室に連れてくるように指示を出した。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

Side ダニエル

 

乞うご期待!

 

 

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