第174話 紹介状? そんなのカンケーねぇ!

小屋の前に立っていた男は、出てきたリューを警戒するように後退って行った。

 

リュー 「ああすまない、邪魔だったか? すぐに居なくなるので気にしないでくれ」

 

そう言うとリューは小屋を亜空間に収納してしまう。

 

突然目の前にあった小屋が消えた事に騎士達はどよめくが、前に立っていた男はすぐに我に返って言った。

 

男 「怪しい奴め! 何者だ?」

 

リュー 「旅の冒険者だが」

 

男 「冒険者だとぉ? 名は?! どこから来た?! 何が目的だ?!」

 

リュー 「お前こそ誰だ? 人に名前を尋ねるなら自分も名乗ったらどうだ?」

 

男 「生意気な! お前などに名乗る名はない!」

 

リュー 「なんだ、強盗団か」

 

男 「ごっ、無礼者! 我々は領主の命でこの街を警備している街衛騎士隊だ!」

 

リュー 「だったら最初からそう言えばいいものを。名乗りもしないで取り囲まれたら強盗かと思うだろう」

 

男 「…っ、こちらは名乗ったぞ、貴様は誰だ?」

 

リュー 「さっき答えたろう? 冒険者だ」

 

男 「名は?」

 

リュー 「お前こそ名は? 街衛騎士隊は了解したが、騎士なのに、人に名を尋ねる時は自分からって教わらなかったか?」

 

男 「きっさま、どこまでも生意気な奴だな、そんな態度をとって後悔する事になるぞ? 俺は街衛騎士隊第二小隊隊長のブオンだ!」

 

リュー 「俺はリュージーンだ。依頼を受けてこの街の領主に会いに来た。宿が空いていなかったので勝手に空き地に泊まらせてもらったんだが、まずかったか?」

 

ブオン 「領主様に会いに来ただとぉ? お前のような者が何の用だ? 領主様は冒険者などにお会いにはならんぞ!」

 

リュー 「いや、バイマークの…シンドラル領の領主の紹介で来たんだが?」

 

ブオン 「嘘をつけ! お前のようなみすぼらしい男が領主の紹介などと!」

 

リュー 「シンドラル伯爵の紹介状も持っているぞ?」

 

リューは紹介状を出してみせた。

 

ブオン 「見せてみろ!」

 

リューの出した紹介状を乱暴に毟り取るブオン。

 

リュー 「乱暴だな、破れるだろ…」

 

紹介状は蝋封がされていて中は見えない。

 

リュー 「蝋封にシンドラル家の家紋が押されているだろう?」

 

ブオン 「ふん、紋章だけで本当に伯爵の書状だという確証などない、適当にそれっぽい紋章を押しただけだろう!」

 

そう言うと、ブオンは何と封書を開封してしまった。

 

リュー 「おい!!」

 

さすがにそんな暴挙に出るとは思わず驚いたリュー。簡単に書類を渡すべきではなかったかと後悔するがもう遅い。

 

こうなったら中を見て納得させるしかなかろう、その後で然るべき責任をとってもらう事になるだろうが。

 

ブオン 「どうせ中身は空なんじゃないのか? あるいは白紙でも入れてあるんだろう!」

 

当然、書状は本物なので、当然中にはシンドラル伯爵のしたためた手紙が入っている。それを見たブオンは少し困惑していたが……

 

ブオン 「ふん、ぎ、偽造にしては手が混んでるな。だが、こんなもの……!」

 

そう言うとブオンは、なんと伯爵の書いた手紙を破り捨ててしまった。

 

リュー 「いやいやいやいや。

 

さすがにありえんだろう……

 

もしかして、馬鹿なのか?」

 

ブオン 「偽装書類を破って何が悪い?! 貴様のほうこそ、領主の名前を騙るのは重罪だぞ、分かっているのか!」

 

リュー 「いや仮に偽造だったとしても、証拠を破いて捨ててしまったらマズイんじゃないのか?」

 

騎士 「隊長~、ホントにダイジョブっすかぁ……?」

 

騎士が一人、恐る恐るという感じでブオンに近づいてきた。その騎士にブオンが小声で尋ねる。

 

ブオン 「おいキッド、それ…その家紋、その、本物か? シンなんとか家の?」

 

キッドと呼ばれた騎士は捨てられた書状を拾い上げて眺める。

 

キッド 「……シンドラル伯爵の紋は見た事あるっすけど……、似てる気がしますねぇ…」

 

顔色が悪くなるブオン。

 

ブオン 「間違いないのか? 似てるってだけじゃねぇのか? お前だって空覚えうろおぼえなんだろう? 絶対に偽造じゃないって確信を持って言えるのか!」

 

キッド 「そ、そうまで言われると、確認してみないと分からないっすよ…」

 

ブオン 「それに、家紋が仮に本物であったとしても、同じものを偽造する事は可能だろう?」

 

キッド 「それは……まぁそうかも知れないっすけどね」

 

ブオン 「つまり、偽物の可能性もあるって事だ! つまり、こいつは領主の名を騙った犯罪者である可能性がある、容疑者だ!」

 

キッド 「ホントにダイジョブっすかぁ? もし間違ってたら…」

 

ブオン 「あくまで容疑だ! 我々には怪しい奴を捕らえて取り調べる権限が与えられている! 調べて問題なければ放免すればいいだけだ! それが街を守る騎士隊の仕事だ! なに大丈夫だ、捕らえてしまえば後はどうとでも……」

 

リュー 「最後本音が漏れてしまってるぞ? 取り調べと称して拷問に掛けて偽造したって自供させれば問題ないってか?」

 

ブオン 「その通りだっ、って何を言わせる。ええいお前達何をしている、さっさとコイツを捕らえろ!」

 

キッド 「へいへい……」

 

キッドの合図で騎士達が全員抜刀した。実質的なリーダーはこのキッドという騎士のようだ。

 

ブオン 「大人しく捕まるならよし、だが抵抗するなら腕の一本や二本は覚悟するがいい」

 

リュー 「そんな理不尽な理由で、大人しく従うわけないだろ」

 

ブオン 「これだけ囲まれてて、逃げられると思っているのか?」

 

リュー 「逃げる事など造作もないが……逃げる気はないよ。手荒な歓迎にはこちらも手荒に応えてやろう」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


書状は本物だったわけですが…


乞うご期待!



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