第175話 ほん…もの…?

ブオン 「どうやら痛い目見たいようだな、やっちまえ!」

 

まるで盗賊の親玉のような掛け声だが、その号令によって騎士達がリューに襲いかかろうとする。

 

だがその時、リューの一声が放たれた。

 

リュー 「ごるあっ!!」

 

ごく軽い竜の咆哮ドラゴンロアーである。騎士達の足が一瞬にして止まる。全員咆哮の威圧で身体が硬直し動けなくなったのだ。

 

リュー 「ひとつ言っておく……。

 

俺はシンドラル伯爵の依頼を受けてこの街に来た。何も嘘はついていない。

 

よく考える事だ。愚かな指揮官の命令に従って、後で後悔しないようにな……」

 

そう言われて、騎士達は躊躇する。硬直は既に解けつつあったが動けない。

 

キッド 「そうは言ってもねぇ……、上司の命令に逆らえないのが騎士って奴なんでねぇ。まぁ、間違ってた時は、全てブオン隊長の責任って事で」

 

ブオン 「な、キッド、お前、裏切るのか?」

 

キッド 「裏切る? 逆ですよ逆、命令に忠実にやるだけっす。命令に従うのが俺らの仕事、責任を取るのはたいちょの仕事!」

 

ブオン 「捕らえてしまえば責任も取る必要はないさ! さっさとやってしまえ!」

 

リュー 「もう一つ言っておくが、命令だからと言い訳しても、攻撃してくる者には手加減はせんぞ?」

 

ブオン 「いいからやれっ! 一斉に掛かれ! この人数なら負けはせん!」

 

そしてついに、意を決してリューに襲いかかってくる騎士達……

 

…だが結局、騎士は次々と血反吐を吐きながら地面に転がっていく事になるのであったが。

 

リューが振り回しているのは素振り用の模擬剣である。バイマークの研修場にあった鍛錬用に置いてあったのを貰っておいたのだ。(もちろん許可は貰った。)その刀身部分は剣というよりただの丸い棒であり、芯には鉛が仕込まれている。かなりの重量があるその素振り棒を、軽々と目にも留まらぬ速さで振るリュー。そんなモノで殴られた騎士は血反吐を吐いて倒れるしかない。剣は折れ、鎧もひしゃげ、骨折は確実、なかなかの惨状である。

 

だが、リューは容赦しない。警告はした。それに、命令に従っているだけとは言え、真剣でリューに斬りかかってきているのだ、返り討ちで殺されないだけありがたいと思うべきであろう。

 

キッド 「うへぇ、やめやめやめ! 攻撃中止!」

 

ブオン 「おい、なぜ止める? 続けろ! 捕らえろ!」

 

キッド 「いや、無理でしょ、ケガ人が増えていくだけっすよ。自信アリゲだとは思ったけど、ここまでとはねぇ……」

 

リュー 「部下にばかりやらせてないで、お前が見本を見せたらどうだ?」

 

キッド 「ナイスアイデア。隊長、是非ともお手本をお願いしますっ」

 

ブオン 「ぐぬぬぬぬ、よかろう、このブオン・マルコン、幼少時に神童とまで言われた剣の才能、みせてやろうじゃないか!」

 

だが、剣を抜くも、なかなか掛かってこないブオン。周囲の騎士達の惨状を見れば、迂闊に攻撃に入れないのであった。

 

リュー 「どうした? 早く掛かってこい」

 

リューが一歩、また一歩とブオンに近づいていく。どんどん後退っていくブオン、ついに、隣地境界の塀際まで追い詰められ逃げ場を失ってしまった。

 

にじり寄るリューがついに棍棒の届く間合いに入り、焦ったブオンは破れかぶれでリューに斬りかかる。

 

ブオン 「かくご~っ! ……ぶぇぇぇっ!」

 

リューの棍棒に胴体を薙ぎ払われ、結局ブオンは血反吐を吐いて地面に転がる事になるのだった。

 

その時、別の騎士数騎が駆けつけてきた。

 

『何事だ?!』

 

キッド 「これは、騎士団長閣下じゃありませんか。いえね、隊長に不審人物を捕らえよと命令されまして。ええ、隊長の命令でね。その結果がコレでして……やめたほうがいいって言ったんですけどね、我々は隊長の命令には従うしかありませんから」

 

騎士団長と言われた男は周囲を見渡す。リューを取り囲んでいた騎士達は40名ほど、うち20名が血反吐を吐いて倒れている。その中には隊長ブオンの姿もあった。

 

隊長から事情を聞きたいところだが、血反吐を吐いて倒れているブオンはとても話を聞ける状態ではなさそうである。

 

騎士団長 「おい、治療してやれ」

 

騎士団長が連れていた騎士がブオンに駆け寄りポーションを飲ませる。それを見て周囲に居た騎士達も倒れている仲間に駆け寄り治療しはじめた。

 

騎士団長がリューに近づいてきた。

  

騎士団長 「これは、お前がやったのか?」

 

リュー 「あんたは?」

 

騎士団長 「私はロンダリア近衛騎士団の団長、ホイス・キリングだ」

 

リュー 「俺はリュージーン、旅の冒険者だ。突然、騎士を装った強盗に襲われたのでな、身を守っただけだ」

 

ブオン 「街衛騎士団だと名乗っただろうが!」

 

リュー 「最初は名乗らなかっただろう? しかも、伯爵からの書状を奪われ破り捨てられたんでね。まさか本物の騎士団がそんな事をするわけがない、だから、騎士団を騙る強盗かと思ったんだ」

 

ホイス 「伯爵からの書状とはなんだ?」

 

リュー 「俺はシンドラル伯爵の依頼でこの街の領主を訪ねてきたんだ」

 

ブオン 「騙されてはいけません、ソイツは伯爵の名を騙る悪人に違いありません!」

 

ポーションで回復したブオンが口を挟んできた。

 

リュー 「という具合に、いくら言っても信じてもらえないもんでね」

 

ブオン 「信じられるか! 紹介状もなしに領主様が冒険者風情に会うわけがなかろうが!」

 

リュー 「その紹介状を破り捨てたのはお前だろうが…」

 

『あの…』

 

その時、一人の女が進み出てきた。徒歩で遅れて駆けつけてきたようであった。

 

女 「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

リュー 「…リュージーンだ」

 

女 「やはり! 領主の命によりお迎えに上がりました、領主の補佐官をしておりますヴェラと申します。リュージーン様が来られることはシンドラル伯爵から連絡を頂いております」

 

ブオン 「え……そんな、まさか……じっ、じゃぁ、紹介状も…? ほん…もの……?」

 

キッドが破れた書状をそっと差し出す。それを受け取ったホイスは思わず叫んだ。

 

ホイス 「ブオン、貴様は一体何をしているんだぁ~~~!」

 

ブオン 「いや、その、まだソイツが本物だって決まったわけでは有りません、領主の紋章など偽造したものかも……」

 

ヴェラ 「貴族が使う封蝋の紋印には魔力が込められています、その魔力紋を識別する事で、誰が封蝋をしたのか確認できるようになっています」

 

ブオン 「へ……」

 

ホイス 「そんな事も知らんのか…、これだからエセ貴族は……」

 

破られた封蝋部分に手を翳しヴェラが言う。

 

ヴェラ 「間違いありません、既に損壊してしまっていますが、残留する魔力紋はシンドラル伯爵を示しています」

 

ホイス 「ブオン以下第二小隊の騎士は全員謹慎しておれっ! 後で厳しい処分が下るのは覚悟しておくがいい」

 

キッド 「え~俺たちは命令に従っただけですぜ?」

 

ホイス 「黙れ、貴様は書状が本物だって気づいておったのだろう? 何故止めなかった!」

 

キッド 「いや止めたんですけどね、聞く耳持たないんで、うちの隊長殿は。正直、上にコンナノ据えられたらまともに仕事なんてできやしませんて!」

 

ホイス 「それは…

 

…済まない事をしたと思っている。ブオンは解任される事になるだろう、しばし待て」

 

ブオン 「そんなぁ! 俺は、熱心に、仕事を、しただけで」

 

叫ぶブオンはキッド達に拉致されていったのだった。

 

ヴェラ 「どうぞお屋敷においでください、領主様がお待ちです」

 

 

― ― ― ― ― ― ―


次回予告


領主と謁見、リュー、呪いを視る


乞うご期待!



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