第278話 リュー、奴隷商へ行く

始めの掛け声と共にビマレが思い切り力を入れるが、リューの腕は微動だにしない。


ダラダラと汗を流し始めるビマレ。


その時、リューに話し掛けてくる者が居た。先日リューに懲らしめられたヤンであった。


ヤン 「これはこれはリュー様じゃないですか、何事ですかな?」


リュー 「…ヤンとか言ったか? 俺に二度と絡むなと言ったはずだが?」


ヤン 「まぁまぁそんな事おっしゃらないで下さいよ、もう二度とリュー様にご迷惑はお掛けしませんので。で、これは一体何の騒ぎで?」


リュー 「ふん、力試しをしたいという冒険者が居たのでな、ちょっと相手をしてやっているだけだ」


ヤン 「リュー様に挑戦するとか、馬鹿な冒険者が居たようですな。私の息の掛かった連中には言い聞かせておいたのですがね」


リュー 「冒険者なんてのは、身体で分からせないとなかなか理解できないもんらしいな。さて……(腕相撲の相手に向き直って)そろそろ始めていいか?」


ビマレ 「はぁっ……?!」


微動だにしないリューの腕に向かって既に全力を込めていたビマレは青くなった。


ニヤリと笑い、リューは徐々に力を強めていくと、どんどんとビマレの腕が傾いていく。


やがてビマレの手の甲がテーブルに着くまであと少しという時、パキンという乾いた音がした。


リュー 「あ、折れてしまったようだな」


どうやらビマレの上腕の骨が折れてしまったようだ。同時にドスンとテーブルにビマレの手の甲が叩きつけられた。


ビマレ 「う……ぎゃぁぁぁぁ」


リュー 「煩いなぁ、ほれ」


ビマレ 「あぁぁ……あれ?」


光の仮面を装着し、リューはビマレの腕を治してやった。


ビマレ 「あれ、腕が痛くない……折れてない……」


冒険者達 「おお、治癒魔法も使えるのか?」 「おおいあんた、つええなあ!」 「ビマレ! てめぇのせいで損したじゃねぇか!」


周囲の冒険者達が騒いでうるさい。


ヴェラ 「また儲けさせて頂きました」


リュー 「姉貴、賭け事に嵌って身を持ち崩すような性格だったっけ?」


ヴェラ 「勝てる勝負しかしないわよ」


今回の儲け


掛け金総額:254G


リューに賭けられた金額:204G(ヴェラの100G含む)


254÷204で配当は約1.24倍。⇒100G賭けていたヴェラの儲けは24Gであった。


だが、それとは別に、ビマレはリューに金貨百枚=百G払う必要がある。勝負に負けたほうが買ったほうに払うという約束だった。


しかも、骨折の治療代(金貨十枚)もさらに上乗せされた。ビマレは110Gリューに払う必要があるのだ。


ビマレ 「そ、そんな金はねぇっ!」


ヤン 「おいおい、踏み倒して逃げる気ですかあ?」


ヤンの部下達がビマレを取り囲んだ。(その中には先日リューに手足を切り詰められた者も含まれていたが、どうやら冒険者は続けられているようだ。)


実はヤンもリューに100G賭けていたのである。(金の出どころは不明)そのため勝負を “なかった事” になどさせる気はサラサラないのである。


ヤンの部下達が立ち上がろうとするビマレの肩を押さえつける。


ビマレ 「なっ、ないものは払えないだろっ! なぁ、許してくれ、あんたがそんなに強いなんて思わなかったんだよ!」


リュー 「そんな言い訳が通用するわけないだろう? 借金してでも払ってもらうと言ったよな?」


ビマレ 「俺に金貨百枚なんて貸してくれる知り合いは居ねぇよ…」


ヤン 「奴隷商なら出してくれるだろう、自分の身を担保にすればいい」


ビマレ 「俺に借金奴隷になれって事か!」


リュー 「そういう事だ。まぁ金貨百枚程度なら、真面目に稼げばすぐに解放されるだろうさ」


それを聞いてうなだれるビマレであった。



   *  *  *  *



ビマレはランスロットに腕を掴まれ引きずられるように歩いている。


パーシヴァルとエヴァンスは姿を消してしまった。単に透明になっただけで近くには居るそうなので、いつでも呼びかけて命令してくれれば従うという事だった。


なぜかランスロットはまったく姿を消すつもりはないようであったが。


ランスロットが言った。


ランスロット 「やはりスケルトンでは人間の中では抵抗感が強いようですな……」


街の人々がランスロットを見て動揺している。一応従魔の印を首に掛けているし、街ではそれなりに顔の売れているヤンが一緒なので問題は起きていないが。


ヤンには奴隷商まで案内してもらっている。部下はぞろぞろウザイので帰らせたが。


スケルトンを引き連れて街の者達がビビる姿を見てヤンが何故か肩で風を切って歩いている。


リュー 「ランスロット、長いな、ランスにしようか。ランス達は人間に化ける事はできないのか?」


ランス 「そのような能力スキルはスケルトンにはないですな。高位のエルダーリッチロードなどで人間に化ける事ができた者は居ますが……そのような魔法があるかどうか、今度(不死王様に)尋ねてみましょう」


リュー 「……肉体を完全に変化させるのは色々大変そうだが、なるほど、幻術や認識阻害系の魔法という事であれば、それほど難しくはないのかも知れないな」


ランス 「良いですな、そのような(リューの仮面のような)アイテムを我々にも作ってもらいましょう。それと、主よ、闇属性の魔法も練習して頂けますかな? ネクロマンスを使いこなせるようになれば、我々とももっと意思疎通がしやすくなりますぞ」


リュー 「そう言えば闇属性の魔法は使った事がないな。魔法を覚えるためにもいろいろな魔法を使っていかないとなぁ……」



   *  *  *  *



ヤンの口ききでビマレの借金契約はスムーズに済んだ。奴隷商人はヤンの知り合いで、ヤンに頭が上がらないようであった。


ビマレは金貨百枚で買われたわけだが、金額が小さいため、何ヶ月か働けば解放されるだろう。


金を受け取って店を出ようとしたが、その時、リューは聞き覚えのある声が耳に入り立ち止まった。


まさかと思ったが、神眼を発動してみれば、間違いない。


奴隷商 「あお客さん! そちらは関係者以外立入禁止なんですが」


店員の制止を無視してリューはカウンター横の扉を開けた。


廊下の奥に鉄格子の嵌った牢が見えるが、その中に、盗賊の村で保護したはずの兄妹、レスターとアネットが居たのだ。(第250話参照)奴隷から開放されているはずの二人の首には、依然として隷属の首輪が嵌められたままである。一度外されてまた着けられたのか、一度も外されていないのかは不明であるが……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー(ギロリ) 「なぜこの子達がここに居る?!」


乞うご期待!




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