第213話 勇者糾弾会始めましょうか

リュー「シンドラル伯爵!」


その頃リュージーンは、バシマと入れ違いに伯爵と宰相の前に姿を現していた。


伯爵「おお、リュージーン、到着したようだな」


宰相「む…どこから現れた? 牢に入れられていたと聞いたが? なるほど、実力は噂通りのようじゃな」


伯爵「リュージーンを牢に捕らえておくことなど出来はしないでしょうから仕方ありません」


リュー「あ、ヴェラの事を忘れていた」


宰相「仲間が居るのか? 済まない事をした、すぐに牢から出すように指示してある、今バシマが向かっているはずだから少し待ってくれるか?」


だがその時、バシマが開けっ放しで飛び出した扉からヴェラが顔を出した。


ヴェラ「あ、ここに居た」


リュー「お前牢から出られたのか?」


ヴェラ「あの程度の牢、脱出するのは簡単な事よ」


宰相「ううむ、警護の騎士達も巡回していたはずだが……そう簡単に王宮内を闊歩されると、警備体制を見直す必要がありそうじゃな。これがもし敵であったらどうなる事か」


伯爵「味方であれば頼もしいだろう?」


伯爵をちらりと見た後、宰相はリュージーンとヴェラに向き直った。


宰相「改めて、ワシはレオポール・フェイドマン、フェルマー王国の宰相じゃ。二人にはワシの部下が失礼な対応をしたようじゃ、この通り、申し訳なかった」


深々と頭を下げる宰相。


名宰相と言われたフェイドマンとはこの人物の事であった。一国の宰相が平民の冒険者に頭を下げるのは珍しい、というか階級社会であるこの世界ではありえない事と言っても良いのであるが、それが素直にできる。シンドラル伯爵の友人だそうなので好人物であるのは予想していたが、この国の貴族は思ったより悪くないのかも知れないとリューは少し見直したのであった。


リューが到着した事で、さっそく明日にでも勇者裁判が開かれる事となった。



   *  *  *  *



数日前。


王都についた勇者は、さっそく王城に乗り込み、王への謁見を要求したのであった。もちろん、バイマークでの出来事を王に報告し、バイマークで逆らった冒険者達を反逆者として逮捕させるためである。


ユサークは魔王が出現したと王に報告するつもりであった。バイマークの冒険者達は魔王の部下となって、王国を陥れようとしている、と。そうすれば、反逆者として騎士団がバイマークの冒険者達を討伐に向かうはずである。


だが、王への謁見はすぐには叶わなかった。王は忙しい身であり、予定を調整するからと、王城内で数日間待たされる事になったのである。


一応貴賓待遇で王宮内に宿泊していたが、いつ王からお呼びが掛かるか分からないので外出は禁じられてしまった。


あまり長期間待たせると勇者が暴れだす懸念があったが、宰相の機転で、豪華な食事と強い酒を振る舞い、さらに城下の高級娼館を通じプロの接客業の美女達を紹介してもらい、勇者に酒を勧めて酔い潰してしまう事で軟禁状態を維持する事ができた。


毎日酒を飲んでは大騒ぎし、そして酔いつぶれる勇者ユサークに、勇者パーティのメンバー達は辟易していたのであったが……。



   *  *  *  *



謁見の間で、翌日の警備体制の打ち合わせをしていた宰相とリュー、シンドラル伯爵、そして近衛騎士隊。


リューが到着した事で、早速明日、勇者に国王への謁見が許される事となったのだ。実は謁見ではなく、事実上の勇者の弾劾裁判であるのだが。


だが、騎士団長のハキムがリューの存在に異議を唱えた。


ハキム「王に危険が迫った時にはすぐに避難してもらうのは当然です、そのための体制に異議はないですが……勇者など、たとえ暴れようと我々近衛騎士団だけで抑えてみせましょう。外部から、平民の冒険者風情に手伝ってもらう必要などありませぬ」


やれやれと肩を竦める宰相。


リュー「まぁ、やってみれば良いんじゃないか? 俺の出番がないならそれに越した事はない」


ハキム「お前の出番など永遠に来ないさ、無駄足だったな」


宰相「無礼な口を聞くでない、リュージーン殿は王の賓客という立場であるぞ」


ハキム「王の?! このような者が? …は、いえ、申し訳有りません」


宰相に厳しい顔で睨みつけられ、ハキムはすぐに引き下がった。


取り敢えず、勇者が暴れだした時の対応は、まずは近衛騎士団が行い、どうしようもなくなったらリュージーンの出番という事になった。


手に負えなくなったらと言う事は、多少なりとも王宮と騎士団に被害が出るという事なのだが、仕方がないだろう。


    ・

    ・

    ・


― ― ― ― ― ― ―


そして翌日、王との謁見の時間。王は既に玉座に着いていた。王の隣には宰相が立っている。玉座の左右には護衛の近衛騎士が立ち、左右の壁に沿って臣下の貴族たち数名と護衛の近衛騎士達が並んでいる。その中にはシンドラル伯爵とリューの姿もあった。


そこに、勇者パーティが通され、王の前で膝をついた。勇者ユサークは二日酔いでヨレヨレである。


王「面をあげよ、勇者よ。此度は突然の帰京、どうした?」


勇者「国王陛下、お久しぶり~。報告があってね」


宰相「相変わらず言葉遣いを学んでおらんようじゃの」


王「よい、続けよ」


勇者「僕たちは魔王討伐の旅に出てたわけだけど……ついに魔王と遭遇したんだよ!」


王「魔王じゃと!? まことかっ?!」


勇者「うん、バイマークの北にあるダンジョンが怪しいと思って探索してみたんだけど、最下層で魔王が出てきたんだ」


王「して、どうしたのじゃ? 倒したのか?」


勇者「いやぁそれが……僕たちもまさか魔王がいきなり出てくるとは思なかったから、準備不足でさ~。魔王にやられてパーティの従者が負傷しちゃったので、無理せず撤退することにしたんだ」


王「そうであったか。それほど魔王は強かったのか…」


勇者「うん、そうそう、魔王だけあってそれはもう、魔神の如き強さで……


でも大丈夫! 勇者の力を持ってすれば討ち果たす事はきっとできるよ!


今回はちょっと従者が足を引っ張ったので失敗したけどね。無理して死なせちゃうのもかわいそうだからね、もう一度体制を立て直して挑む判断をしたんだ」


王「さようであったか」


勇者「だけど、バイマークの街に戻ったところ、驚くべき事実が判明したんだ! なんと、バイマークの街の冒険者ギルドは、ギルドマスターを始め、全員が既に魔王の配下となっていたんだよ!」


王「ナンダッテー?!」


宰相 (王よ、もう少し真面目に演技してください……)



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


国王「なんと、この者が魔王であったか!」


乞うご期待!



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