第214話 国王が勇者を選んだわけじゃねぇ、神が選んだんんだよ!

なんとなく王の嘘くさい態度に勇者パーティのメンバー達は違和感を感じ始めていたが、まったく気づかず話を続ける勇者。


勇者「そうなんだよ! なんと、バイマークの冒険者ギルドに魔王が現れてさ! 冒険者達に命じて僕を攻撃してきたんだ! でも、冒険者達は操られているだけという可能性もあったから僕は攻撃できなくってさ、仕方なく街から撤退する事にしたんだ」


王「して、どうするつもりじゃ?」


勇者「どう? もちろん、魔王をこのまま放置しておくわけにはいかないよね。だから、まずは王様に冒険者達を逮捕するよう命じて欲しいんだ、バイマークを治めている貴族に。そうしたら、一人になった魔王を僕が討伐するよ」


王「なるほど、あい分かった。ところで、丁度バイマークから来た冒険者がこの場に居る、その者に今の話について尋ねてみようではないか?」


勇者は国王の視線を追って、やっと壁際に立っている銀の仮面を着けたリューに気付いたのだった。


勇者「おっ、おまえがなんでここに?! 国王様っ、コイツです、こいつが魔王だよっ!」


国王「なんと、この者が魔王であったのかっ!」


伯爵「国王陛下、恐れながら、この者は銀仮面ことリュージーン。ただの冒険者です、魔王などではありません」


勇者「誰だよお前っ! 僕が魔王だって言ったら魔王なんだよっ!」


宰相「勇者ユサーク、少しは控えよ。その者はシンドラル領の領主、シンドラル伯爵である。そして……」


国王「冒険者リュージーンよ、お初にお目にかかる、私がフェルマー王国の国王ハロルド・フェルマーじゃ。お主の事はガリーザのソフィ女王から伝え聞いておる、ガリーザ王国を救ってくれた救世主であるとな。ガリーザ王家は我が王家と縁戚となる、ワシからも礼を言わせてもらうぞ」


勇者「は……?」


何言ってんの? という顔をしている勇者。


国王「勇者ユサークよ、隣国を救った英雄、我が国にとっても恩人と言える、そのような者が魔王であると申すか?」


勇者「そ、そうだよ! 僕が魔王だと言ったら魔王なんだ、僕は勇者だぞ!」


国王「シンドラル伯爵、どうじゃ?」


伯爵「リュージーンは魔王などではありませぬ。もちろんバイマークの冒険者達も魔王の配下などではありません。そこに居る勇者は、各地で横暴な振る舞いを重ねて来ておりました。バイマークでも同じ様に酷い振る舞いをし、冒険者達に追い出されたと聞いています。それを根に持ち、そのような事を主張しているのでしょう」


ユサーク「な、何を言ってる!? そうか! 王様、おそらくこの貴族も既に魔王の配下になってるんだ! かくなる上は、王国軍を派遣してコイツの領地を制圧・接収してしまったほうがいいよ!」


国王「……勇者ユサークよ、ワシからもそなたに尋ねたい事がある。実はな、各地から勇者の振る舞いについて苦情が上がってきておる、大量にな。中には随分と酷い内容もあるが、心当たりはあるか?」


勇者「えっ……な、何の事だろう、僕にはさっぱり……」


王の指示で、宰相が各地から上がってきていた苦情について一つ一つ読み上げていく。


勇者「ちがっ……嘘だ……そんなの嘘だ! きっと勇者の活躍を妬んだ連中が嘘を報告しているだ、きっとそうだ!」


だが、宰相の読み上げる報告の数はあまりに多く、いつまでも終わらない。


そして、その中には何件もの罪のない者の殺人まで含まれている事が明かされていく。読み上げられる内容の酷さに、この場にいる全員が顔を顰める事となった。


青くなってアワアワしだす勇者。一つ二つなら言い逃れもできたであろうが、あまりに数が多く、すべてに証拠も提示されていく。証拠が確保できている罪状についてだけがリストアップされているのであるから当然である。(証拠はシンドラル伯爵の調査の成果も含まれている。)


勇者「ゆ、勇者は国のために働いているんだ、それに敬意を払えないような連中は、殺されたって、当然だろう? ふ、不敬罪だよ」


宰相「街の娘を犯しては口封じに殺す事が不敬罪か!」


国王「お主はワシの名を笠に着て、各地で横暴を働いておった、そう言う事じゃな? 自分に逆らう事は国王に逆らう事だなどと常々言っておったという報告が上がっているぞ」


宰相「これまで、一体どれだけ国王の名前に泥を塗ってきたのだ……? それこそが不敬罪であろう。さらに、罪のない民を無残に殺してきた数多の証拠、言い逃れできると思うでないぞ!」


国王「そなたを勇者として庇護してきたのは間違いであった。フェルマー王国は今後、お主を勇者とは認めぬ」


ユサーク「……ふっ


ふっ、ふはっ、はははははっ


勇者の称号は何も国王に与えられたものじゃねぇ! 生まれつきのものだ!


国王が勇者を選んだわけじゃねぇ、神が与えてくれた能力ちからなんだよ! 神は俺を選んだんだよ! 国王ごときが偉そうにすんじゃねぇっ!」


宰相「本性を現しおったな。


ユサークよ、そなたは今日これ以降勇者ではない、犯罪者として裁かれる事になる。犯してきた数多の罪を償うがいい!」


ユサーク「罪を償うだぁ? 今まで金をくれるし国王の名を出せばみんなヘコヘコするから利用させてもらってたがな! 利用できないならもう国王も国もかんけぇねぇ! みんなぶっ殺して好きにさせてもらうぜ!」


近衛騎士達が剣を抜きユサークを取り囲む。


すると、勇者パーティのメンバー、魔女シャル、聖女アガタ、聖盾騎士ジョディ、拳闘士ココが勇者と騎士達の間に立ち塞がった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


勇者、瞬殺される


乞うご期待!


 

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