第325話 キロンの最期

キロン 「は、はやく……! 解毒剤を飲まなければ!」


慌てて机の引き出しに手を掛けようとするキロンであったが、引き出しに手が届く前にリューに蹴り飛ばされる。


吹き飛んで壁に激突したキロン。


キロン 「ぐっ、くぅっ、ぐぉああああ……」


壁に打ち付けられて痛かったのかと思ったが、どうやら毒がまわり始めたようだ、キロンは、自分の身体を搔きむしりながら苦しみ始めた。だが、急に素に戻ったようにリューのほうを向いてキロンが言った。


キロン 「なぁ、痛いんだ、分かるだろう? 頼むよ、解毒剤をくれるだろう?」


リュー 「分かるよ、だが断ろう」


キロン 「ふっざけるなぁぁぁぁ! このままでは死んでしまうだろうがぁ! 死にたくないっ!」


キロンが飛びかかってきたが、ヒラリと躱すリュー。ベチャッと倒れたキロンは、床の上でもがき苦しみ始めた。それをリューは黙って冷徹に見おろしている。


そのうち、動きが緩慢になり、やがて苦悶の表情のままキロンは動かなくなった。


リュー 「死んだか? だがそんな簡単に殺してもらえると思うなよ」


リューがキロンの身体の時間を毒を受ける前まで巻き戻す。


意識を取り戻し、身体に痛みがなくっている事に気づきキョトンとするキロン。だが、すぐにニヤリと笑いながら喋り始めた。


キロン 「……なんだ、結局私を殺す気はなかったのか。まぁそうだろう、貴族を殺したら大変な事になるからな。毒のナイフで傷つけてしまったのはさしづめアクシデントと言う所か? よかろう、お前の力は認めよう、望み通り雇ってやろう。雇って欲しくてこんな事をしてみせたのであろう? 少々過ぎたパフォーマンスであったが、お前が手に入るのなら、特別大サービスで目を瞑ってやろぶへっ!」


リュー 「イラッとしてつい顔面に蹴りを入れてしまった」


また吹き飛ばされ壁に頭をぶつけたキロン。


キロン 「ぐうっ…ぱっ、パフォーマンスはもう十分だ、お前の力はよく分かった! そうか、報酬だな? ちゃんと報酬を貰えるか心配なんだな? いいだろう、お前には金貨を年間千枚、いや、二千枚払おうではないか! どうだ? 用心棒としては破格な条件だとおむぶへっ」


リュー 「お前なんぞに雇われる気はないっつーの。お前を生き返らせたのは、さらに痛みをたっぷりと味わってもらうためだよ。お前、モリーをさんざん痛めつけたんだろう? モリーは顔にも大火傷を負っていたぞ? 女の顔を火で焼くとか、本当に酷いことをする」


キロン 「わ、悪かった! だが、幸いにも今は治っているのだから良いではないか!」


リュー 「ほう、治れば問題ないんだな? では遠慮なく。たっぷりと痛みを味わうがいい。とりあえず、あと十回くらい毒を味わっとけ。安心しろ、ちゃんと治してやる」


毒の着いたナイフで切りつけ、意識を失いそうになる瞬間に元の状態に巻き戻す事を繰り返すリュー。


キロン 「ぎゃああああ痛い! もう、やめてくれぇ、死んでしまう!」


リュー 「死なないって、ちゃんと治療してやってるだろうが。殺して下さいって懇願するまではいたぶり続けないとなぁ。次は骨を折ってみるか」


モリー 「……て下さい」


だが、その時、モリーが何か呟いた。


リュー 「?」


モリー 「もういいです、それ以上は…止めて下さい」


リュー 「……お前がされた事に比べれば、こんなものでは釣り合わんだろう?」


リューは以前、モリーの心を読んだので、モリーが何をされたのかを知っている。それは簡単に殺したくらいでは許せないだろう、凄惨な拷問であった。


モリー 「確かに酷い事をされましたが……それを自分が相手にするのは違うと思うのです……きっと神様もそんな事は望んではおられないと思います…」


リュー 「……だが、こんなクズは生かしておいてもロクな事はないし、簡単に殺しても、きっと生まれ変わった先でまた同じような事を繰り返すぞ? 自分がやった事を自分の身でちゃんと味わって貰わないと更生できないだろうと思うんだが……」


だが、首を振るモリー。


リュー 「…そうか、仕方がないな。では、パーシヴァル、後は任せる。モリー、帰ろうか」


モリーを連れて部屋を出ていくリュー。


一瞬、助かったという顔をしていたキロンであったが、部屋にはそのまま、骸骨の仮面を被った大男が残っていた。


パーシヴァル 「開放してもらえると思ったのか?」


エヴァンス 「お前の腐った性根を徹底的に叩き直してやるぞ」


いつの間にか現れたスケルトン兵達に身体を掴まれるキロン。


パーシヴァル 「スケルトン・ブートキャンプへようこそ。たっぷりと地獄を味あわてやろう」


エヴァンス 「安心しろ、期間は無制限だ。例え肉が朽ち、骨になる日が来ても死ぬことはない。お前の魂が完全に更生するまで何万年でも治療してもらえる、ありがたいことだろう?」


キロン 「な、何を言ってるんだ??? 私をどうする気だ? 私は貴族だぞ! 私を殺したら~」


喚き散らす声もすぐに聞こえなくなる。キロンはスケルトン達に引きずられ薄暗い亜空間に吸い込まれていったのだ。


こうすることは事前にパーシヴァル達に指示していた。リューは、キロンを生かして赦す気など最初からなかったのであった。



   * * * * *



『待て! 逃がすと思うか?!』


キロンの屋敷の廊下を歩いていたリューとモリーの前に騎士達が立ち塞がる。先程リューの電撃で動けなくなっていた者達が、回復してまた向かってきたのだ。


リュー 「馬鹿な連中だ。大人しく寝てれば助かったものを……モリー、下がっていろ」


後ろに下がったモリーの両脇にすっとパーシヴァルとエヴァンスが立ったのを横目で確認しながら、リューは騎士達のほうに歩いていった。


剣を抜き、襲いかかってくる騎士達。


リューは光剣を抜き応戦する。


縦に横にあれよあれよと切り裂かれていく騎士達。


まだ後方に居た騎士達は、接近戦は危険だと判断し、遠間から槍や短剣を投擲し始めた。弓に矢を番えている者もいる。


だが、リューはその騎士たちの背後に転移し、斬り捨てていく。


危険予知能力で攻撃が予測でき、武器も鎧も関係なく触れれば切れてしまう光の剣を使い、時の流れさえ操り相手の何十倍、何百倍の速度ででも動ける上に、神出鬼没の転移を使う。


たとえ一騎当千の騎士が何人でかかろうと、リューの前には死体の山が築かれていくだけである。


だが、かなり斃したはずだが、まだまだ向かってくる騎士がいるようだ。


リュー 「手加減して殺さなかったのがあだ・・になったか…


しかし、向かってくれば殺されるだけなのに、律儀な連中だなぁ…」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


屋敷も潰します


乞うご期待!



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