第324話 証拠なんていらん

リュー 「お前がキロンだな?」


部屋の奥には立派な机があり、その向こう側に男が一人座っている。


その男が口を開いた。


キロン 「精鋭ぞろいの我が護衛騎士団をかいくぐってここまで来るとはな。どんな手を使ったんだ?」


リュー 「騎士達は全員眠ってもらったよ」


キロン 「眠らせた、か。なるほどな……だが、それもここまでだな」


その時、部屋の内側、扉の両脇に待ち構えていた騎士が剣を抜いた。左右に三人ずつ六人。さらにキロンの背後の壁の扉が開き、四人の騎士が流れ込んできて剣を抜いた。


どうやら侵入者の連絡を受け、待ち構えていたようだ。


キロン 「奇襲は失敗だ。代官の屋敷に押し入ってタダで済むと思うなよ?」


リュー 「奇襲? なんの事だ?」


キロン 「ふん、魔法かスキルか知らんが、騎士団を眠らせて、その隙にこっそり侵入したんだろう? だがその手口はもう通用しない。ここに居るのは特に腕の立つ騎士達ばかりだ。まともに戦って、勝ち目が在ると思うのか?」


リュー 「相手にならんだろ」


そして再びリューの手から電撃が室内に迸る。感電した騎士達は全員倒れて動けなくなった。


キロン 「なっ、騎士達には魔法障壁を張らせていたはずなのに?!」


リュー 「障壁は全部無効化した」


キロン 「ばかな……希少な雷属性の魔法を使うだけでなく、騎士団の精鋭の魔法障壁を無効化だと?


…どうやらただのネズミではなかったようだな。だが、多少大きなネズミだろうと、獅子には勝てん」


キロンがリューに向かって手を翳し、短い呪文を唱えた。


だが、そのまま、何事も起きる気配がない。


余裕だったキロンの表情が、徐々に驚愕と焦りの表情に変化していく。キロンは慌てて何度も呪文を唱えるが、一行に魔法が発動する気配はない。


リュー 「無駄なあがきはよせ。お前の魔法も無効化した」


キロン 「バ…カナ……何をした?! 貴様一体何者だ!?!?」


リュー 「問われて名乗る名などないが…… “鬼” とでも言っておこうか、不埒な貴族を粛清する鬼だ」


実は部屋に入る前、リューは全属性対応の “鬼の仮面” を装着していた。(鬼の仮面には認識阻害の術式は付与されていないため、普通に鬼の仮面として認識されている。)


キロン 「…貴族を粛清するだと? 偽善者のテロリストか。だが、俺を殺せばこの国の貴族や国王が黙ってはいないぞ? だいたい、俺は何も悪い事はしていない。無辜の者を殺す事に正義の名分なぞ使えないぞ」


リュー 「無実の女性を捕らえ拷問し、飽きたら犯罪奴隷として売り飛ばしたゲスな貴族が無辜の者とか笑わせるな」


そこでキロンは、リューの後ろに居る女性に気がついた。


キロン 「お前はモリー! どうしてここに……奴隷商に売った時にはもうボロボロの状態だったはずなのに……」


モリー 「こ、こちらのリュー様に助けて頂きました…、身体もすべて治して頂いたのです」


キロン 「よく見れば奴隷の首輪もしていないな? どういう事だ? 仮に買い取ったとしても、犯罪奴隷は解放してはならない事になっているはずだぞ?」


リュー 「犯罪者ではないだろう? 無実の罪なら、当然、解放される」


キロン 「無実だと? それをどうやって証明した? そいつは有罪だ。なぜなら、この私自らが有罪だと証言したのだからな」


リュー 「お前が認定すれば、それだけで有罪? 証拠もなくか?」


キロン 「証拠? そんなものは要らん、代官である私が有罪だと言えば有罪になる、それがこの国の法律ルールだ」


リュー 「おかしいな、エド国王はそんな事は言ってなかったぞ? 冤罪を着せるような貴族は始末していいと国王に言われているんだが?」


キロン 「国王だと? 馬鹿な! わ、私が冤罪を着せたという証拠はあるのか?」


リュー 「証拠? そんなものは要らん、俺が有罪だと分かっていればそれで十分だろ? さぁ……」


キロン 「そ…貴族に対して証拠もなしに! そんな不法が! 許されるわけないだろうが!」


リュー 「オマエだってさっき同じような事言ってたじゃないか? 自分が有罪と言えば証拠など要らんと」


キロン 「馬鹿な、私は貴族だ、この街の代官だぞ! お前ら平民とは違うんだよ!」


リュー 「ああ、俺は国王からクズの貴族を処分する許可を貰ってるんだ。国王からの通達は見てないか? 俺には手を出すなとかなんとか通達を出したと言ってたぞ?」


キロン 「そう言えば、リュージーンとかいう冒険者について、そんな通達が来ていたような……まさか、お前がそのリュージーンなのか?」


リュー 「名乗るつもりはなかったんだが…まぁ死んでいく者だから構わんか。


この国、もうぶっ壊していいってさ、国王のエドがそう言ってたぞ。そうしないと良くならないからな」


キロン (クソ、魔法がダメでも……体術ならどうだ?)


キロンは瞬時に懐から取り出したナイフをリューに向かって投擲したが、あっさりと空中でキャッチされてしまった。それも、毒が塗られている事を警戒してか、柄の部分を掴んでいる。


リュー 「なかなか正確で鋭い投擲だが、無駄な抵抗だ……おや、刃になにか毒物が塗ってあるようだな? 何が塗ってあるんだ?」


キロン 「……」


リュー 「試してみようか」


転移で移動したのか、時間を止めたのか、キロンが気がついた時にはリューが背後に立っていた。ナイフでそっとキロンの頬を撫でるリュー。キロンの頬から一筋血が流れる。


キロンは慌てて飛び退くがもう遅かった。頬の痛みに手を当て、血のついた手のひらを見て愕然とする。


キロン 「ああ、なんてことを! そのナイフには、激しい痛みを生じながらもがき苦しんで死んでいく猛毒が塗ってあったのだ!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューがキロンにお仕置き


乞うご期待!



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