第624話 受付嬢「触らないで!」

エライザ 「こんにちわ! 誰もいないのかしら?」


紹介されたサム爺さんの店に行ってみたリューとエライザ。とても馬車を売っているとは思えない、裏通りの小さな店だった。


しかし、中に入ってみても誰も居ない。声を掛けてみても返事もない。


すると、店の裏手で音がする。行ってみると、裏庭で馬車を修理している老人が居た。


サム爺 「んん? あんたら誰サ?」


エライザ 「馬車を買いにきたの」


サム爺 「馬車なら表通りに行けばいくらでも売ってるサ。見ての通り、ここには売るような馬車はないサー」


エライザ 「キダタさんって人から紹介されてきたんだけど…」


サム爺 「キダタだと…サ?」


エライザ 「ええ…表通りの店で、デザイン重視ではない馬車が欲しいならこちらへ行けと紹介されたのだけど…?」


サム爺 「……」


エライザ 「……?」


サム爺 「……どれくらいの大きさのが欲しいのサ?」


聞けば、キダタさんは昔、サム爺さんの弟子だったらしい。だが、サム爺さんはもう歳なので廃業、腕の良かったキダタは表通りの馬車メーカーに再就職させたのだとか。


その後、サム爺さんは、サムでないと駄目だという古い馴染みの客の馬車の修理だけを請け負っているそうだ。


サム爺 「もう俺は、気に入らない客は全部切ったのさ。あんたらはキダタの紹介だから話は聞くけどサー、でも話だけサ? 仕事は断るヨ?」


話は聞いてもらえるらしい。だが、話し始めて見ると、サム爺は客の話を聞くというより、自分の話のほうが多かったのだが…。


最近の馬車は華美な装飾ばかりで質が悪いとか、販売店にはすぐには壊れず、しかし2~3年したら壊れるように、適度に弱く作れとか要求されて、嫌になって廃業をしただとか、グチに近い話が多かった。


だが、エライザはそれを興味深そうに楽しそうに聞く。あまり人間の世界を知らないエライザにとっては、職人の愚痴であっても面白いのだ。


そんなエライザの様子がサム爺は嬉しいようで、話が溢れ、さらに長引いてしまうのであった。


リュー 「まぁ、エライザが楽しそうなので構わないがな」


エライザを相手に話が弾む爺さんを気長に待つリュー。


ただ、まった甲斐はあったようだ。エライザが気に入ったのか、サム爺さんは最後には馬車を作ってくれる気になったのだ。


だが、もちろんサム爺さんの店に馬車の在庫などない。作るにしても部品や材料の発注から始めてのフルオーダーである。時間と金が掛かるという話であった。


だが、それで構わんとリューは金貨の袋をどんとサム爺さんに預けて帰っていったのだった。


ただ、完成までには急いでも一ヶ月は掛かるという事だった。


実を言うと、馬車ならスケルトン軍団の大工達に言えばあっという間に高性能なものを作れるのである。なんなら、不死王様に相談すれば、おそらく、この世界には存在していないような高機能な自走式の馬車だって作れそうである。ランスロットにもそう言われたのだが、リューはそれを断った。


今回のは別に馬車を手に入れるのが目的ではない。エライザに冒険者としての常識と、そして人間の街での買い物や交渉の仕方などを教えるのが目的だったのだから、これで良いのである。


とりあえず、馬車ができるまで一ヶ月。それまで、リューとエライザはこの街で冒険者として活動しながら待つ事にした。




  * * * * *




翌朝。リューはこの街の冒険者ギルドに行き、エライザと依頼の掲示板を見ていた。混み合う早朝を避け、少し遅めの時間である。


依頼はFランク向けのものを受けるつもりである。


リュー自身はSランクなので、エライザがFランクでもパーティとしては高ランクの依頼も受けられる。リュー達ならば仮にFランクの新人が居ても十分守りきれるし、そもそもエライザ自身も十分実力があるので足手まといになる事はないだろう。


だが、一から冒険者としてのステップを経験したいとエライザが言うので、ちゃんと手順を踏んでいく事にしたわけである。


その時、女性の声がした。


『触らないで下さい!』


声がしたのはギルドの受付カウンターの内側から、声の主はそこに座っていた受付嬢である。


受付カウンターの前には4人の冒険者、そしてカウンターの中の受付嬢の後ろには、冒険者と言うには小奇麗な服装の男が一人立っていた。


男は受付嬢の両肩に手を置いている。立ち上がり振り返ろうとしている受付嬢をそのまま押さえつけているようだ。


冒険者1 「メリンダよ、せっかくルイ様が肩を揉んでやるって言って下さってるんだ。喜んで礼を言うところだろう?」


メリンダ 「関係者以外は中には入らないで下さい!」


ルイ 「労いたいだけだよ~仕事がんばってて偉いなぁと思って」


男は肩に置いた手でメリンダの肩を揉み始めた。


メリンダ 「やめてください、別に肩は凝ってませんから!」


ルイ 「いやいや、肩凝ってるはずだろう? なにせ…こんな重そうなモノがついてるんだから…」


そう言いながら、メリンダの肩を揉んでいたルイの手はスルリと脇の下に滑り込み、前にまわって受付嬢のたわわに実った乳房を鷲掴みにしたのであった。


メリンダ 「ちょ!! いい加減に~


『俺に逆らったらどうなるか分かってるのか?』


さすがに大声をあげて抵抗しようとしたメリンダであったが、男に耳元でそう囁かれて動きが止まる。


ルイ 「いいのかい? ギルドを首になっちゃうよ?」


そう言いながらニヤニヤいやらしい顔でメリンダの胸をもみ始めるルイ。カウンターの前に立っている冒険者の男達もニヤニヤと見ているだけである。その男達は、カウンターの様子を周囲から隠すように立っているため、リューからは何が起きているのかイマイチ見えないのであった。


だが、何かを察したエライザがツカツカと受付カウンターに近づいて行った。


エライザ 「ちょっと! 何をしてるの?! 痴漢?!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


衛兵に突き出すわよ?


無駄だよ(笑)


乞うご期待!



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