第645話 落ち着いて考えてみよう……?
エライザ 「えっと……? 事情がさっぱり分からない……一体なんなの?
待てよ待て待て! 落ち着いて考えてみよう! ママの持ってた小説にもこんな展開があったような気がするわ!」
(※エライザの母は、学園にいる時に三文恋愛小説にハマり、買い集めて持ち帰っていたのだ。)
エライザ 「…リューがこの街に来たのは、孤児院を訪ねるため? それは、この子に会うためだった?
でも、この子はなぜか、ナイフでリューを刺そうとした。
リューはその子を治療してやってる。
二人の関係は……
ポクポクポクチーン
…そうか! やっぱりこの子はリューの隠し子で、長い間リューに放置されていて、その間に母親は死んでしまった。だから孤児院に居て、自分たちを捨てた
…という事ね!?」
想像力を目一杯働かせて下世話な推論を編み出すエライザ。
リュー 「隠し子ちゃうわ! この子はジャッキー。勇者の娘だ」
エライザ 「勇者?!」
ランスロット 「元勇者、ですけどね」
リュー 「ああ、話すと長くなるんだが……この子は、以前フェルマー王国に居た勇者ユサークの娘だ。だが父親のユサークは、勇者の地位と権力を濫用して、たくさんの罪を犯してな。一度は捕らえたのだが、逃げ出して、この国に潜伏していたんだ」
ジャッキー 「パパは悪人なんかじゃない! パパを返せ!」
リュー 「…ユサークはフェルマー王国で指名手配されてな。俺にも捕縛の依頼があったので受けた。まぁ暇だったらやってやるって緩い条件でな。
で、まぁ(エライザが竜人の里に行って)暇になったので、捕らえてフェルマーに送り届けたんだよ」
ジャッキー 「パパは悪人じゃない。それなのに、このリュージーンが無理やり連れ去ったんだ。悪人はこのリュージーンのほうだ!」
ランスロット 「まぁ、父親を逮捕して連れ去ったので、子供に恨まれてる、というわけですね」
エライザ 「その子供になんでリューが会いに?」
リュー 「まぁ、逮捕の際にちょっとゴタゴタがあってな。責任を取って俺がこの娘の面倒を見るよう頼まれてしまったんだ」
ランスロット 「子供に罪はないですからね」
リュー 「最初はトナリ村に連れて行こうとしたんだが、父の仇敵と一緒に暮らすなどありえないって拒否されてなぁ…」
ランスロット 「それ以来、リューサマはこの孤児院を援助しつつ、時折様子を見に来ていたのです。リューサマは忙しい時は、代わりに私も見に来ていたのですがね」
エライザ 「へぇ……」
――――――――
――――
――
―
.
.
―
――
――――
――――――――
六年前、エライザが居なくなった後。
リューの人生は急に虚しくなってしまった。
特にやる事もなく。
人生の目的も、楽しみも、何もなくなってしまったような気がしたのだ。
だが、考えてみれば、エライザが生まれる前も特に人生の目的や生きがいなどが明確にあったわけでもなかった。しかし、子供を得て、それを失うという経験をした後は、酷く空虚な気持ちになってしまったのであった。
以前は、色々な世界を見て周り、世界中の美味いものを食いたい。そんな旅と冒険をしながらのんびり生きていくつもりだった。
だが今は、エライザに色々な世界を見せてやりたい、色々美味しいものを食べさせてやりたい、そう思うのだ。
エライザがいなければ、それを今更一人でやっても虚しいだけなのであった。
その後、特にやる事もなく、時間だけはあったので、リューは暇つぶしに冒険者ギルドの依頼を受けるようになった。冒険者活動を再開したわけである。
だが、トナリ村の依頼だけでは単調で、虚しさを紛らわせるには足りず。そこで他の街に行って依頼を受けたりもし始めたのだが……
ある時、とある街の酒場で食事をしていると、隣のテーブルの男の話が耳に入ってきた。
その男は酔った勢いで、自分の事を色々と話していたのだが、フェルマー王国出身であると言う。
フェルマー王国といえば、リューがガレリアに来る前に居た国である。懐かしい名前が耳に入り、なんとはなしに話を聞いていたのだが…
男は、復讐のためにとある犯罪者を探して旅をしているという。その犯罪者はフェルマー王国で、その男の娘を犯して殺したのだそうだ。
その犯罪者は一度捕らえられたのだが、まんまと逃げ出し、行方を晦ましてしまった。
簡単に犯罪者を逃したフェルマー王城の管理体制にも腹が立ったが、一平民でしかない男にはどうする事もできない。
だが、娘を殺した犯罪者が、罰も受けずに大手を振って歩いているなど、絶対に許せない。
そこで、男は自ら逃亡犯を探す旅に出たのだそうだ。
その犯罪者の名前はユサーク。そう、フェルマー王国に居た、元勇者のユサークであった。
その話でリューもユサークの捕縛依頼を受けていたのを思い出した。いつのまにやらトナリ村に腰を落ち着けてしまったが、もともと逃亡した元勇者を追ってきたというのが、ガレリアに来た建前であったのだ。
フェルマーに帰りたいという気持ちは特にないが、やる事もなく暇なので、その依頼に取り組んでもいいかと思い、リューは男に声をかけた。男に、共にユサークの足跡を追跡しないか? と持ちかけたのだ。
男の名はチェザレと言った。チェザレはユサークを見つけたら殺してやると言っていたが…
リュー 「単に殺すだけでいいのか?」
チェザレ 「…どういう事だ?」
リュー 「奴の被害者はお前だけじゃない。家族を殺された者が他にもたくさんいる。簡単に殺してしまって、それでその被害者達の気が晴れるとも思えない。何より、お前の気持ちがそれで本当に晴れるのか?」
リュー 「お前の娘の魂は死後、別の世界に旅立っているはずだ。そこに、娘に酷いことをして殺したユサークの魂を送り込む事になるとしたら、娘には却って迷惑なんじゃないのか?」
チェザレ 「そ、そんな事…考えたこともなかった…」
チェザレ 「じ、じゃぁ、一体どうしろって言うんだよ…」
リュー 「それは、俺にも分からん。正解なんて無いんだろうと思うしな。まぁ、とりあえず見つけて捕まえてから考えればいいんじゃないか?」
その後のリューの調査でユサークの行方は判明した。ユサークはガレリアを抜け、隣の小国ラウチーフに隠れ住んでいたのだ。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
人としての喜びと悲しみを知る元勇者
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます