第646話 元勇者…

フェルマーの王城で、リューによって勇者の称号を【分解】され、捕らえられて城の牢獄で処刑を待つ身であったユサークであるが、ジョディの手引で脱獄に成功する。


※ジョディは聖盾騎士として王宮と聖教会に認定されており、また勇者のパーティメンバーであったと言う事で、ユサークとの面会もある程度許されていたのだ。


勇者パーティのメンバーは、勇者のスキルで仕方なく操られていた被害者という事になっているが、実はジョディは本気でユサークに惚れており、普段は鈍臭いとユサークに怒られていたジョディが、必死で脱獄計画を練り、それを成功まで漕ぎ着けたのは愛ゆえであろう。


そして、ユサークを脱獄させる事に成功したジョディは、故郷である魔法王国ガレリアへと逃げ込んだのだ。


ジョディはガレリア出身であった。フェルマーとガレリアは友好的とは言い難い関係ではあったが、別にジョディはガレリアのスパイというわけではなく、単に生まれつき魔力が少なかったため、魔力偏重主義のガレリアで家族に疎まれ、家を出て国を出たのだ。


そしてフェルマー王国で聖属性の才能を見出され、聖盾騎士となった。魔力は多くはなかったが、聖属性の適性が高い事が分かり、聖教会の指示で勇者の盾となったのであった。


勇者の従者となってから、勇者ユサークのジョディに対する扱いは決して良いとは言えないものであったが、それでもジョディは健気にユサークに尽くした。そんなジョディにユサークも徐々に心を許していった。


勇者のパーティメンバーになると、勇者のスキルによって隷属させられてしまう。そして女好きのユサークは、メンバーは全員若い女性を要求し、仲間になると当然のように身体を弄んだ。メンバー達はもちろん嫌がっていたが、ジョディはそれほど悪い感情を抱かなかった。それどころか、初めての相手であるユサークに対し、恋心さえも抱くようになったのだ。ジョディは勇者のスキルで嫌々従わされていたのではなく、自分からユサークに尽くしていたのである。


ユサークを脱獄させる事に成功したジョディは、逃走先として故国ガレリアを頼ったが、そもそもガレリアがジョディと勇者を助ける理由などない。


しかし、もともとガレリアは覇権主義で他国を侵略し領土を広げるのを是としてきた軍事国家である。エド王になってからは方針転換したが、軍部にはまだまだそういう空気が多分に残っていた。エド王に代わってから、軍部は好きに暴れられなくなり不満が膨らんでいたのである。そこに【勇者】という戦力を手に入れられるかもしれないという情報が持ち込まれ、暇つぶしに面白そうだと軍が乗ってきたのである。


【勇者】は国家で所有・専有してはいけないというのが国際的なルールなのだが、相手は勇者なので問題ない。奇行で称号を取り消されただけであれば、戦力として有効利用できる可能性が高い。駄目でもフェルマー王国ほかの軍事情報も得られるかも知れないし、後は奴隷兵士として使い潰してしまえばよいのだ。


そして、ガレリアに入ったジョディとユサークはガーメリアによって捕らえられ、軍部に引き渡されたのであった。(その際、魔封じの首輪をつけられて護送されたため、リューはユサークを見失ってしまったのだ。)


その後、【勇者】の能力を失っていると判明し、軍部はガッカリしたが、素でAランク級の実力をユサークは持っていたため、隷属の首輪を着けられ軍事行動に参加させられる事になったのだ。そして、前線で戦闘中に、偶然首輪に敵の攻撃魔法が当たり、首輪が外れた。自由になったユサークはそのまま逃走、行方不明となってしまった。


その後、ユサークは同じく前線に動員されていたジョディを救出し、二人は連れ立って逃亡。逃避行の旅を続け、その末に辿り着いたのが辺境の小国ラウチーフのコグトという街であった。


ラウチーフは魔の山脈に通じる山を抱えている土地である。時折、危険な魔物が奥の山脈から出てくる事があるのだが、当時、コグトの街には優秀な冒険者が不足していた。


ユサークは【勇者】の権能を失ったが、それでも素でAランク冒険者相当の実力を持っている。たまたま村にその力を使い、魔物を撃退した事で、コグトの街の人々はユサークを歓迎した。


実はこの時ジョディはユサークの子を妊娠しており、お腹が大きくなってきたため、どこかで落ち着く場所が必要であった。


何かしらの事情があってこんな辺境の街に流れてきたのだろうとは村の人も薄々察しては居たが、優秀な戦力となってくれそうなユサークを街は受け入れ、ユサークはコグトの街に腰を落ち着けることとなったのだ。


街のと言っても、指名手配中の身なので冒険者登録する事はできず、街の衛兵の手伝いのような仕事をするようになった。街の人も事情がありそうな事を察して何も聞かなかった。


やがてジョディが出産、ジャッキーが生まれたのであった。ただ、残念な事に、ジョディは出産時に身体を傷め亡くなってしまった。


ユサークは父親一人でジャッキーを必死で育てた。大変ではあったが、それは充実して幸せな時間でもあった。


そして、奇しくもそれは、リューがエライザの子育てをしていた時期と重なる。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ユサーク 「……来たか……」


乞うご期待!





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