第647話 ついにその日が…

ジョディが死んだあと、ユサークは一人でジャッキーを育てた。


ユサークの性格なら子供など孤児院にでも放り込んで逃げ出すかと思われたが、ユサークはそうしなかった。ジョディから子供を頼むと今際いまわきわに頼まれてしまったからであった。いや、それだけではない、実は、ジョディへの愛情がユサークの中にも育まれていたのだ。ユサークはクズだったが、どんなにユサークが悪事を働いても、それでもジョディはユサークの味方で居てくれたのだ。それは世界すべてを敵に回しても、世界で一人だけは味方で居てくれる、無償の愛であった。その愛が、ユサークの心に人間らしい気持ちを育んでいったのだ。そのジョディの必死な眼差しを、最後の願いを、ユサークは無視できなかった。


幼いうちは大変だったが、その生活はユサークにとって充実した日々となっていった。やがて成長したジャッキーは、ユサークにとって目の中に入れても痛くないほど可愛い大切な存在となっていったのだ。


このまま、幸せな時が永遠に続く事を願っていたユサーク。


だが、ある日、それが終わりを告げる。


リューがチェザレと共に、ユサークを追ってコグトの街にやってきたのだ。


この時、ジャッキーは九歳であった。


ユサーク 「……来たか……」


実は、このまま幸せな生活が続けられるとはユサークも思っていなかった。


ジャッキーを愛するほど……


ジャッキーが大切な存在になるほど……


己の背負った十字架が重くなっていく。


過去に、行く先々で、誰かの大切な娘を凌辱し、殺してきたのだ。その行為がどれだけ罪深いモノであったかを、自分が親となって、思い知ったのである。


もし、ジャッキーが誰かに凌辱され殺されたらと考えると、ユサークは気が狂いそうになる。きっとその相手を嬲り殺しに行くだろう。簡単には殺さない、徹底的に地獄を見せてやりたいと思うだろう……。


そんな深い憎しみを秘めた眼差しを持った男が、リューの背後に居た……。







リューはてっきりユサークが逃げ出すと思っていたが、ユサークは意外にも抵抗の姿勢を見せなかった。


訪ねてきたリューの前で膝をつき、両手をつき、額を床につけて、ユサークは謝罪の言葉を口にした。


ユサーク 「本当に申し訳なかった。大変な事をしたと思っている。言葉が見つからない。罪を償うためなら、どんな事でもするつもりだ」


ジャッキー 「…パパ? どうしたの? その人達誰?」


ユサーク 「ジャッキー、奥に入っていなさい。パパはこの人達と大事な話があるんだ」


リュー 「…その娘は?」


ユサーク 「……俺の……娘だ……」


だが、ジャッキーはユサークとリュー達の間に割り込んで両手を広げた。


ジャッキー 「パパをイジメないで!」


ユサーク 「ジャッキー、隣のマルタおばさんのところに行っていなさい」


だがジャッキーは動こうとはしなかった。


ちょうどそこに、騒ぎを聞きつけてマルタがやってきた。マルタはユサークの下宿の大家で、ジャッキーを育てるのにも随分と協力してくれた恩人である。ジャッキーもマルタを母のように慕っていた。


マルタ 「どうしたんだい? ユサークさん、何かあったのかい?」


ユサーク 「マルタさん…ジャッキーをお願いします。迎えが来てしまいました……。俺は、行かなければなりません」


マルタはジャッキーを抱きしめながら、リュー達の方を見た。


マルタ 「迎え……? どうしても…なのかい? 事情は知らないが、せめてジャッキーがもう少し大きくなるまで待ってやれないものかね?」


リュー 「コイツは重大な犯罪を犯した罪人なんだ。一度は捕らえられたが脱獄し、指名手配されていた」


マルタ 「ユサークさんが…? ちょっと信じられないんだけど、何かの間違いじゃないのかい? この人は悪い人じゃないよ? そりゃ人間だもの、ちょっとした過ちくらいはあったかもしれない。でも、だからって娘から父親を奪わなくても、なんとか…」


チェザレ 「……巫山戯るな!! こいつが何をしたと思う?! こいつは、俺の娘を犯して嬲り殺したんだぞ?!」


マルタ 「……!」


リュー 「一人だけじゃない。コイツに嬲り頃された若い娘は三十人以上にも及ぶ」


驚き、後退るマルタ。


ジャッキー 「嘘! パパはそんな事しない!」


チェザレ 「……本当の事だ! お前は、俺の娘を殺しておいて、自分は娘とのうのうと幸せに暮らしていたというのか……!」


だが、チェザレはジャッキーを見て、言葉を詰まらせだ。


そして……


チェザレは急に笑った。


チェザレ 「可愛い娘だな。何歳だ?」


ジャッキーはマルタの後ろに隠れてしまったのでチェザレはユサークのほうを見た。


ユサーク 「……9歳だが……」


リュー 「俺の娘エライザと同じ歳か……」


チェザレ 「娘は可愛いか?」


ユサーク 「…ああ、可愛い。娘のためなら死んでもいいと思っている」


チェザレ 「分かるよ……俺もそうだった。何にも代えがたい宝物だった…どんな事をしても幸せにしてやると思っていた……


…それを!


突然奪われた気持ちが分かるか?! 単に奪われただけじゃない、無理やり犯され殺されたんだぞ?


お前の娘が同じ目にあったらどう思う? ユサーク?!」


ユサーク 「すまない……いくら謝っても足りないと思う……心から反省している。俺にも子供ができて、自分がやってきた事がどれだけ罪深い事なのか思い知った。死んで詫びる覚悟だ。どうとでもしてくれ……」


マルタ 「そんな、死ぬだなんて…、ジャッキーはどうなるのよ?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


チェザレ 「これはまさに神の采配!」


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る