第530話 リュー、今、どこに…
今回の件まだ目撃者が残っている。
騎士と男爵は殺したが、初老の門番、そして男爵の息子がまだ残っている。
あるいは、屋敷の使用人がどこからか見ていた可能性もあるだろう。
屋敷の人間をすべて皆殺しにしてしまえば、バレる事はないかも知れないが……
リューは罪もない使用人や門番を殺す事は止めた。そこまでしてしまうと、さすがに義がなさすぎる。一応、リューも自分なりの価値観・正義感にそって行動しているのだ。
リューは開き直り、特に隠蔽工作などはしない事にした。まぁ仮に、バレて敵対したなら戦うのみである。そして、リューならば、たとえ国相手でも負ける事はないだろう。リュー個人の能力とは別に、リューには強い味方が居る。一国の軍隊が攻めてきても、ランスロット達の軍団がいれば負ける事などないのだから。
ただ、ひとつ後悔する事はあった。リューは不死王に様々な能力を持つ仮面を貰っていたが、その中に、黒い仮面がある事を後で思い出したのだ。その仮面の効果は、完全なる認識阻害。その仮面を着けると、周囲の人間はその存在を認識できなくなり、まるで透明人間になってしまうのである。
乗り込む時にこの仮面を着けていれば、完全犯罪は成立しただろうと後で気づいたが、後の祭りである。
まぁ、リューが普段から身につけている銀の仮面にも不完全だが認識阻害の効果はあるので、リューの素顔をはっきりと認識できている人間は存在しないのだが。
結局、男爵殺害の件は、バレる事はなかった。
リューがそれほど隠そうと足掻いたりせず、自然体であったのが良かったのかもしれない。(犬を虐殺した連中を殺す事をリューは悪い事だと認識していないのだから、自然体なのは当然である。)
それと、ドラゴンスケイルを身に纏い、翼を生やして空から舞い降りた事で、魔族と認識されたという事もあった。場所が魔族の国にも近い場所であった事もあり、通りすがりの犬系の魔族が、犬を殺した男爵にキレて行った犯行であったのだろと結論付けられたのであった。
相手が魔族であれば、人間の国の法律が適用できるかは微妙になってくる。もちろん、現在は、魔族の国とは細々と国交があるので、国同士の関係次第では、相互に通用する法律を定め運用するという可能性もあるが、現在はまだそこまでの話には至っていない。
それに、それを言うのなら、リューは竜人なのだから、人間の法で捌くことなどできはしない。強引な屁理屈ではあるが……。
* * * * *
宰相 「以上が唯一の目撃者である屋敷の門番の事情聴取の結果だそうです」
女王 「そう……」
事件から数日後、ガリーザ王国の女王ソフィは、事件の詳細について、宰相から報告を受けていた。
国の貴族が何者かに殺されたというのは国にとっても重大事件である。戦争やクーデターなどの可能性もあるからである。通信や移動のインフラの整っていない世界にしては異例の対応の速さだったのも重大事件であるが故であったのは確かなのだが……ソフィはその事件があった場所が気になり、報告を急がせたのであった。事件現場は、かつて、ギット子爵の屋敷だった場所なのだ。
ギット子爵はかつて、罪もない女性達を攫ってきて、その屋敷の地下で蛮行を働いていたが、とある冒険者にギット子爵は退治された。その現場にソフィは居たのである。
宰相 「…犬の死体は一体もありませんでしたが、門番の男だけでなく、屋敷の使用人、さらには冒険者ギルドにも証言が取れています。男爵が子犬を集めていたのは間違いないでしょう。
唯一の目撃者である門番の男の証言を信じるならば……、男爵は子犬を使って息子に狩りの練習をさせたが、そこに何者かが現れ男爵と騎士を殺し、子犬の遺体をすべて回収し消え去った、という事になります。
あそこは赤魔大国との国境も比較的近い場所ですから。たまたま通りかかった魔族の犯行かも知れませんな。もしかすると、この門番の言うとおり…」
女王 「犬好きの魔族? …以前の時もそうでした。その男爵が集めさせたという子犬の中に、赤魔大国の魔族の子供が混ざっていた、という可能性は?」
宰相 「それは……分かりませんが」
女王 「そう……。分かりました、もう下がっていいわ」
宰相 「赤魔大国に苦情は……」
女王 「かの国から来た魔族がやったという確かな証拠があるのなら、しなさい」
宰相 「証拠は、今のところありませんな」
女王 「証拠がないなら抗議もできないでしょう。一応、魔族側にも心当たりがないが、ホットラインで問い合わせはしてみますが……でも、もし冒険者が先に魔族の町に入って子供を盗んだりしたのだとしたら、
宰相は一礼して下がっていった。
ソフィ 「…リュー、今、どこに居るのかしらね……」
ソフィはリューに旅の話を時々報告するようにと頼んでおいた。最初のうちは時折リューから通信が入っていたが、それは徐々に少なくなり、やがて、まったく来なくなった。
ソフィも、女王としての激務に追われ、連絡をする事もなくなっていたのであった。
ソフィは、通信機を手に取る。赤魔大国のネムロイ伯爵と連絡を取るためだったが……、ふと、ソフィはホットライン用の通信機を置き、引き出しの中から別の通信機を取り出した。リューとの連絡用の通信機である。
あまり遠くに離れてしまっていたら、通信機はもう通じない可能性もあったが……
『もしもしリューだが……ソフィか? 久しぶりだな!』
通信機から、懐かしい声が聞こえてきたのであった。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
しまった、気づかれたか!
逃がすな追え!
乞うご期待!
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