第588話 一夜にして巨大な壁が…

リュー 「あ~国とか作る気はないから。…そう言えば、魔境の森の周辺にはガレリア以外にも国があるのか?」


ケイト 「魔境の森の反対側、魔境の山の向こう側についてはあまり良くわかっていないのだけど、森の東側にはラフヤ公国という国があるわ」


ルイーザ 「魔境の森の利権を巡って、時々小競り合いが起きてるのよね」


※アレスコード領は魔境の森と接しているだけで他国と接していないが、ヒムクラート領は魔境の森の東の端部と一部接しているだけで、その他の部分はラフヤ公国と接している。ヒムクラート領はラフヤ公国との国境線を守る地域なのだ。


とは言え、ラフヤ公国は小国で、魔法王国ガレリアにとってはそれほどの驚異はない。魔境の森の権利を巡って時折トラブルは起きていたが、要塞化された国境の街トワバは一度もラフヤ公国の侵攻を許してはいない。(その実績があって、ヒムクラートは領地を没収されずに生き残ったのである。)


ルイーザ 「まぁ、他国と隣接している場合、明確な国境線は実行支配している街まで、つまりこの村で言えば、村より内側がガレリアの領土ということになるわね。と言う事は、村の外、魔境側を開拓すれば、それは未開拓の地域に街を作ったのと同じ扱いと言えなくもないかもね。なんか屁理屈っぽいけど」


ケイト 「でも、街に接続して村を拡張した形になるなら、所有権については微妙な問題になるかもしれないわねぇ。この地域の領主であるアレスコード様は物わかりの良い方だから大丈夫とは思うけど」


リュー 「まぁ、もとから拡張した領域は無料開放するつもりだったからな。一部の土地は貰いたいが、全ての所有権を主張する気はないさ。なんなら、その土地を買い取ってもいい」


ケイト 「さすがに土地を開拓してもらってさらにそこを買い取らせるような事はできないわ。土地の何割かはリューに売った事にしましょう、代金は、拡張工事の費用と相殺ということにすればいいわ」


リュー 「では、すぐに取り掛かろうか」


ルイーザ 「今から?」


リュー 「ああ、すぐに終わる」


気になったケイトとルイーザは、リューとランスロットとともに防壁の外に出て、作業を確認する事にした。


リューは街の西側、魔境の森方面に防壁を作る事にした。


リュー 「範囲は…、まぁ適当でいいか。あとで修正すればいいしな」


土の仮面を装着したリューが手をかざすと、膨大な魔力が大地に流れ始め、地面が盛り上がっていき、15メートルほどの高さとなる。土属性魔法を使って土を盛り上げて壁を作ったのである。


ルイーザ 「…っ! な、るほど…ね。これなら一瞬ね…」


ケイト 「いやいやありえないでしょう。こんな巨大な壁をこんなに広範囲に作ったら、普通の魔術師なら魔力枯渇で倒れてしまうわよ」


ランスロット 「リューサマの魔力は無限ですから」


ルイーザ 「さすがSランク……とんでもないバケモノだわね…」


リュー 「それは褒め言葉と受け取っておこうか。さて、次の処理だ」


実は、リューが作ったのは壁の芯の部分である。その外側にあとから設備や装飾を施す予定なのである。


リュー 「ただの土では強度が低いからな。モグラが居たら穴を開けられてしまう」


そういうとリューは土壁に手を触れ、再び膨大な魔力を召喚する。最初は気づかなかったケイトとルイーザであったが、やがて、何が起きているのかを理解し、再び驚愕する事になる。


ケイト 「……壁の材質が、変わってる?」


ルイーザ 「土壁が、金属に変わってる! これは錬金術?」


リュー 「土属性魔術師ならみんなできる事だろう?」


ケイト・ルイーザ 「いやいやいや……」


リューは土壁を鋼鉄、それも腐食しないステンレスに変えたのだ。さらに、見えていないがステンレス製の壁は地中にも十数メートルの深さで伸びている。土を掘って侵攻する事も不可能というわけである。(もちろん、壁を超えるほど深く掘れば可能であろうが。)


リュー 「さて、後はランスロット、頼む」


ランスロット 「御意。既に材料も準備できています。」


実は、リューにもできない事がある。膨大な魔力と全属性の魔法が使えたとしても、工業技術的な部分や芸術的な部分の知識や才能は凡人でしかないのだ。


ランスロットが合図すると、囲った敷地内に次々と亜空間から木材が運び込まれていく。既に加工済みで板状又はブロック状に切り揃えられている。


リュー 「これは全部トレントの木材だ。魔境の森の奥に群生地を見つけたので、切り出してきた」


ルイーザ 「“切り出してきた” ? って、そんな、その辺の普通の木を伐採してきたみたいな言い方、Aランクの冒険者でもトレントに囲まれたら危険なのに…」


ランスロット 「我々から見れば、戦いにすらなりませんから、切り出してきた、で間違いではないかと」


ルイーザ 「…うん、もう驚かない事にするわ」


ケイト 「トレントって超高級素材よね…売ったらいくらになるのか…」


死んだトレントは普通の樹木と同じように木材として使えるが、通常の樹木より遥かに強い。その強度は鋼鉄に近いほどである。加工は難しいが、加工できれば非常に良い建材となる。


リューならば、土で外壁を完全に作成しておいて、それをすべて金属に変えてしまう事も可能である。リューは最初はそのつもりだったのだが、それでは風情がない、美しくないとランスロットと部下の大工達が反対したのである。


ランスロットの部下の中には芸術的なセンスを持つ大工や細工師も存在している。なるほど、彼らに任せたほうがセンスが良いモノが作れるだろう。


トレント材は恐ろしく頑丈なので、魔物の襲撃を受けても揺るがない。仮に外部の装飾的な部分が破壊されたとしても、壁の芯部分にはステンレス製の分厚い芯材が入っているのだから問題ない。


スケルトン達の人海戦術、もとい骨海戦術によって、一両日中にはこの世界ではなかなか見ることのできない芸術的な外壁が完成したのであった。


翌日の午後、再び外壁を見に来たケイトとルイーザ。


ルイーザ 「数ヶ月か、下手したら数年かかるような外壁拡張工事が、一日で終わるとか。夢でも見てるのかしら?」


ケイト 「驚き過ぎて、顎がはずれそうだわ」


ルイーザ 「いいえ、驚きすぎて、私はもう何も感じなくなってしまったわよ」


昨日までなかった外壁が突如現れているのを見て、森に狩りに行く冒険者たちも足を止めて見入っていた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


外壁ができたら次は…


乞うご期待!


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