第589話 久しぶりのイルミン

外壁ができたら、次は内部の建物である。もちろん建物もすべてトレント材である。しかも、釘を一切使わず、木材を組み合わせるだけで作られている。極めて頑丈でありながら、順番を熟知していれば、組み立ても解体も可能な建物となっている。


なにせ、スケルトンの建設部に居る者達は、数千年前から様々な時代で大工をしていた者達である。彼らは時代と文明を超えた建築技術の集積を持っているのだ。


様々な時代・文明に生み出された建築技術を組み合わせて作り出される建物は、この時代の建築物を遥かに凌駕するものとなる。おそらく今後、数百年放置しても壊れる事はないかも知れない。


さて、リューが最初に指示したのは温泉宿を作る事であった。実は、リューは日本に居たときから温泉が好きだったのである。


普段から自分の家の風呂には温泉を運んできて使っていたリューだが、単に温泉に入りたいというだけでなく、温泉街の雰囲気が好きだったのだ。


そのためには、まずは温泉を掘り当てなければならない。


トナリ村は魔境の森の奥にある魔の山(山脈)にもかなり近い位置にあったため、掘れば温泉が出るだろうとリューは予想していた。


だが、適当に当てずっぽうで掘っても効率が悪いので、【鑑定】を使って地中を探知した。鑑定の能力のレベルアップの訓練も兼ねている。


リューは【神眼】を失ったが、正直、持て余していたところもあったので、失くす事にあまり躊躇はなかった。しかし、なくなればやはり不便なところも出てくるものである。


ただ、そこは【鑑定】の魔法には上位の魔法が存在しており、それを磨いていけばかなり近い事がができるようになるはずと不死王の助言があった。


ただし、それを十全に使いこなすには、多少の訓練が必要であったのだ。(もちろん、不死王にもらった魔法の仮面を装着して行うのだが、そもそもリューは魔法制御のセンスがあまりない事も相まって、最上位の魔法の制御にはそれなりに訓練が必要だったのである。)


転移魔法を使うために【空間把握】という鑑定魔法の一種を使うが、これを使って地中を探る。最初はうまくいかなかったが、何度も繰り返していれば、さすがにリューでも上手くなってくる。やがて地中のかなり深くを探る事ができるようになった。


ただ残念なことに、トナリ村の地下には温泉はない事が判明した。


仕方なく、村の周囲へと探査領域を広げていくと、現在は廃墟となっているサビレタ村からさらに山の方に少し入ったところでついに泉脈を発見した。


泉脈はかなり地中深くで、通常であれば掘る事は不可能であったろうが、そこはリューである。転移を使って地中深く穴を開け、温泉を湧き出させる事に成功したのであった。


そこからはスケルトン建設部がサビレタ村を経由しトナリ村まで温泉を引き込む頑丈な水路を構築した。


ただ、源泉では熱湯であったが、さすがにトナリ村まで流れてくる頃にはかなり温度が下がってしまう。水路には保温性が高くなる工夫をするように指示したので、温度はある程度保たれていたが、それでも入浴するにはやや物足りないのであった。


まぁ温度については温め直せばいいだけの事。そしてここは魔法の世界である。流れてきたお湯を一旦水槽にため、プチファイアボールを中に放り込めば解決である。


ファイアーボール投入法では温度の調整が難しいのだが、そこは火球が使える管理人を雇って、職人技として調整に従事してもらう事となった。村には引退した冒険者で火系の魔法が使える者が何人か居たので、その人間たちを雇って管理をお願いした。


温泉ができたら、次は宿である。


ただ、その頃にはもうエライザはもう走り回るようになっており、リューは子育てに夢中で、開発には興味を失いつつあった。


そもそも、もともと自分で運営する気はなく、誰かに頼むつもりであったので、餅は餅屋という事で、ゼッタークロス商会のイルミン(※)に連絡し、宿を運営してもらう事を打診したのだ。


※高級宿「木洩陽の宿」を運営するゼッタークロス商会の跡継ぎ。初登場は251話、正体が分かったのは318話。修行と視察を兼ねて行商の旅をしている途中でリューと出会った。


イルミン 「お久しぶりどすなぁリュー様、ご活躍の噂は聞いとりまっせ! Sランクの冒険者になってからはエド王の懐刀として、腐れ貴族粛清の世直し旅をしてはるとか?」


リュー 「懐刀になった覚えも、貴族粛清の旅をした覚えもないんだが? そんな噂が出てるのか?」


イルミン 「ですが、クーデター起こした貴族を鎮圧したと聞きましたで? その後は国防を担う立場にならはったとか」


リュー 「ああ、それは俺じゃない、ランスロットだな」


ランスロット 「お久しぶりですね、イルミンさん」


イルミン 「おお、いつぞやの骸骨の旦那、お久しぶりどすなぁ、お元気どしたか?」


ランスロット 「至って快調どす、スケルトンなので体調不良などありまへんからなぁ」


イルミン 「それは何よりでんな旦那!」


カラカラと笑うイルミンとランスロット。


リュー 「ランスロットがおかしな喋り方を学習したようだ」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


やがて温泉と治療院が話題になり……貴族がやってくる

貴族の使い 「いつまで待たせるんだ!」


乞うご期待!



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