第158話 銀仮面の戦士、イライラの息子を助ける
銀仮面 「私ノ事ハドウデモイイ。それより今は、やらなければならない事がある」
少し離れた場所からリューを見ていたイライラに向かってリューが言った。
銀仮面 「イライラの息子を助けに行ってくる」
イライラ 「……っ?! 何を言ってる?」
銀仮面 「ダンジョン内で石にされた者も、まだ助けられるかも知れない」
イライラが銀仮面のリューの言った意味がよく理解できなかったのだが、そうこうしているうちに、銀仮面の足元に魔法陣が浮かび、銀仮面は消えてしまった。
イライラ 「?!?!?!」
ネリナ 「これは……空間転移? そんな、転移魔法は失われた古代の魔法のはず……」
イライラ (まさか、リュージーンはダンジョンへ向かったのか?)
……実は、イライラの息子の遺体は、ダンジョンの中に置き去りになっている。
スタンピードの兆候の報告を受け、即座にダンジョンの間引きに入ったイライラは、石化した息子のところまで辿り着いたのだが、危険な魔物が闊歩する中、石化した息子の身体を持ち帰る事はさすがに難しかったのである。無理に持ち帰ろうとすれば、途中でバラバラに砕けてしまう危険性がある。たとえ石になったとはいえ、息子が崩れていくのを見るのは忍びなかった。同行者がマジックバッグに入れようとしてみてくれたが、石化された者達はなぜかマジックバッグに入らなかったのである。
そこでイライラはダンジョン内の比較的安全な場所に息子の石像を移動、魔物避けの魔道具を置いて帰ったのであった。
その後は、イライラは時折ダンジョンに潜っては、息子の像に墓参していた。息子が寂しくないよう、仲間の像も周囲に運び、像の周囲には花の種を蒔いた。息子は鍛えた甲斐あって剣の腕は一流になっていたが、花を愛でる優しい性格の子であったのだ。イライラの涙を吸った種はやがて芽を出し、今では息子の像の周囲は花畑となっている。
できればそっとしておいて欲しいとイライラは思った。息子が石化したのはもう何年も前の事である。イライラには息子が生き返るとは信じられなかったのである。
* * * *
その場所で、リューの予想は的中した。神眼で観察してみたところ、石化した状態の人間達は、まだ生きていたのだ。
石化したのはもう何年も前のはずであるが、石化中の人間は時間が停止したようにそのままの状態が保持されていたのだ。何百年・何千年も経ったらどうなるのか分からないが、数年程度であればそのままの状態で生きていられる事になる。
(ただ、残念なことに、砕けてしまっている石像からは、生命を感じる事はなかった。石になった後、砕かれてしまうと死んでしまうようだ。もしかしたら、砕かれた直後であれば、リューの“巻き戻し”で生き返らせる事はできるかもしれないが。多少欠損していても、生きていれば復活させる事ができる、その後で、欠損した部分を治療すれば良いだろう。)
石像の身体から石化ガスの魔力を分解・除去するリュー。石像は見る見る生気を帯びていき、うめき声をあげ始めた。
『う……あ……ここは? 俺はどうしたんだ……?』
生き返った人間達の中に、イライラに似た面差しの若者を見つけた。これがおそらくイライラの息子であろう。
リューはイライラと模擬戦をしている時、神眼による読心能力を使ってイライラの攻撃を読んでいた。その時、イライラの心の奥を垣間見てしまったのである。そして、イライラが息子をコカトリスの石化ガスで失った過去を知った。(遺体がダンジョンの中に置き去りのままになっている事も。)
そして、石化した人間達が生きている事を知ったリューは、ダンジョン内で石化した者たちもまだ生きているんじゃないかと思ったのだ。何故なら、ダンジョンの中で死んだ生き物は、ダンジョンに吸収されてなくなってしまうはずなのに、石像は何年もそのまま吸収されずに残っているらしいからである。単なる無機物(石)になってしまったので吸収されないという可能性もあるが、もしかしたらまだ死んではいないのではないか? そう推測したのであった。
* * * *
リューが連れ帰った冒険者達の中に、愛する息子ラアルの姿を見たイライラは泣き崩れた。そんな母に駆け寄り抱きしめる息子。
剣の道を極めるために厳しい生き方を自分に課してきたイライラは、息子のラアルにもそれは厳しく接した。だが、息子はグレもせず、それも母の愛情と理解し、必死で母の愛のムチに応え自らを鍛えたのだった。
その結果、若くして冒険者となった息子。
だがその結果、早逝してしまった息子。
実は、イライラは、息子を鍛えるのではなかったと後悔していた。なまじ鍛えて強くなってしまったが故に冒険者になってしまった。そして、命を落とすような事になったのだ。
強くならなければ厳しい世の中を生きていけないと思っていたが、それは間違っていた。
一切剣など教えず、鍛える事などせず、弱い一般人として街の中で働く人生であれば、命を落とす事などなかったかも知れない。
だが、泣きながら謝るイライラを抱きしめながら、それは違うとラアルは言った。もし、母が自分を鍛えてくれなくとも、自分は母の後を追って剣の道をきっと志したに違いないからと。
凛々しい母の姿は幼いラアルにとって眩しい憧れであった。そして、それは今でも変わりないのだ。
“鬼教官”イライラが泣き崩れる姿など、この街の冒険者達は想像もしていなかったが、それを
死んだと思われていた親子の再会である、リューは暖かい気持ちになったのであった。
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次回予告
銀仮面、ダンジョン攻略
乞うご期待!
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