第159話 銀仮面の戦士、ダンジョン攻略

翌日から、街はスタンピードの後始末でバタバタしていたため、新人研修は休みとなった。冒険者や研修生も街の復興の手伝いをしていたが、その中にリューの姿はなかった。実は、リューはこっそりダンジョンの攻略をしていたのである。

 

ワイラゴのダンジョンは危険である。既にかなり周辺に被害を出している。これを攻略し、管理ダンジョンにしてしまえば、被害はなくなるし、無駄に高ランクの冒険者が要求される事も必要もなくなる。

 

ダンジョンへの入場はEランク以上の冒険者でなければ許可されないのであるが、無許可での攻略なので黙って入ってしまった。行動がフリーダム過ぎるが、元々攻略を目標にしていたのだから問題ないだろう。

 

ただ一応念の為、顔には銀色の金属の仮面を付けた。これで、もし誰かに見られたとしても、勝手にダンジョンに侵入したのはリュージーンではなく、銀仮面であると強弁できる。

 

正体がバレバレであるのはリューも分かっていたが、いざとなったら “大人の事情” でゴリ押しして納得してもらうつもりであった。(力づくとも言う。)

 

こっそりワイラゴダンジョンに潜ったリューは、いつものように時空魔法を使って魔石を収納する事で階層内のモンスターを殲滅していく。階層ボスも例外ではない、瞬殺であった。

 

もちろんモンスターの遺体も素材としてすべて収納しておく。結構な量の魔物の素材が亜空間に蓄積されていき、もはやリューも何の種類がどれだけ入っているのか把握していない。金が必要になったら売れば良いだろう。とは言っても、現金もかなりの量が収納されていて使い切れないほどなのではあるが。

 

そうして次々とダンジョンの階層を進み、ついに最下層のダンジョンボスまで到達。

 

ダンジョンボスはコカトリスキングであった。

 

通常のコカトリスの3倍もの大きさがあり、なんか色々とヤバそうな敵である。しかも驚いたのは、通常のコカトリスは飛べない鶏(With蛇の尾)であったが、コカトリスキングはなんと、飛べるのである……

 

とは言え、神眼で体内をスキャンし、発見した魔石を転移で抜き取ったら瞬殺で終わってしまったのだが。

 

魔石を抜いても再生してしまったヒュドラに比べると拍子抜けであった。

 

ただ、さすがボスキャラキング種、抜き取った魔石はかなりの大きさであった。売れば相当な値がつくだろう。収納の中は、機を見て一度整理する必要があるかも知れない。

 

さらにリューが最下層のボス部屋を神眼でスキャンすると、壁の中に迷宮核ダンジョンコアが収納されている部屋を発見。壁を破壊し、コアに触れる。コアからダンジョン攻略確認とダンジョンのマスターに認定された事が伝わってきた。

 

とりあえず、各階層のモンスター生成を極小にし、ダンジョンからモンスターが外に出る事を禁止。次に、ダンジョン全体の魔物の種類を変更・調整して、安全なものに改造してしまう。ダンジョンが大きければ中々面倒な作業だが、ミムルの “地竜巣窟” で初心者向けダンジョンを設定した経験が役に立った。

 

ガラッと出現モンスターの種類が変わってしまう事になるが、リューはこのダンジョンにどんなモンスターが出るのか生態系まで事前に調べる時間がなかったので仕方がない。問題があれば追々調整していけばいいだろう。




   *  *  *  *




ダンジョンの初期設定を終えた後、リューはギルドマスターの執務室に転移した。ダンジョン攻略を完了し、ダンジョンの性質が変わった事をギルマスのネリナに知らせるためである。(もちろん、銀の仮面は被ったままである)

 

ネリナ 「あら、リュージーン?」

 

リュー 「っ! 私ハ謎ノ銀仮面ノ戦士ダ、リュージーンなどではない」

 

ネリナ 「あらあらそうなのね、ごめんなさい。それで、その銀仮面さんが、どんな御用なのかしら?」

 

まるで仮面ヒーローごっこをしてる幼児の相手をしてあげているような態度をされ、リューはちょっと恥ずかしくなってくるが、今更後には引けない。

 

銀仮面 「ダンジョン・ワイラゴを攻略した事を知らせに来たのだ。もう危険はなくなった、安心するがいい」

 

ネリナ 「あらあらまぁまぁ、それは凄い……


……え゛?」

 

銀仮面 (さすがに驚いたか)

 

ネリナ 「え~っと、マジで? ごっこじゃなく?」


銀仮面 「ごっこじゃないわい!」

 

思わず食い気味に答えてしまうリューであった。

 

ネリナ 「でも……確かに、コカトリスを簡単に殲滅した貴方なら、ダンジョン攻略も可能かも知れないわね。

 

でもあれから一日しか経ってないけど……まさか、一日で攻略したって言わけじゃない、わよ、ね? え? 本当なの?!」

 

銀仮面 「私ナラそれくらい可能ダ」

 

ネリナ 「いきなりそう言われてもねぇ、銀仮面さんの実力はこの目で見たけれど、それでも、やっぱり信じ難いところもあるのよねぇ、正直。……何か証拠はあるのかしら?」

 

銀仮面 「証拠……


…これでいいか?」

 

銀仮面は亜空間収納から魔石を取り出した。

 

銀仮面 「ダンジョンボス、コカトリスキングの魔石だ。本体もあるが、解体していない状態なのでここでは出せないな」

 

ネリナ 「あらあらまぁまぁ、すごい大きさの魔石ね、こんなサイズは見たことないわぁ。きちんと鑑定してみる必要はあるけど、どうやら本当のようね。

 

それじゃぁご褒美をあげないといけないと言う事ね」

 

ネリナの幼児対応モードのスイッチがなかなか抜けないようだが、リューももうやりぬくしかない。

 

銀仮面 「いや、報酬などいらない、銀仮面は冒険者ではないからな。私はただ、ダンジョンの性質が変わった事を知らせにきただけだ」

 

ネリナ 「えっと、確認なんだけど、銀仮面さんがダンジョンマスターになったと言う事でよろしいのかしら?」

 

銀仮面 「そういう事になる」


ネリナ 「それでダンジョンを作り変え、安全なモノにしたと」


銀仮面 「ソウダ」


ネリナ 「ちなみに、ダンジョンボスは何になったのかしら?」


銀仮面 「それは変わっていない、最下層の出現モンスターはコカトリス、ダンジョンボスはコカトリスキングのままだ。ただし、階層から出ないように設定しておいたノダ」


ネリナ 「そうなのね。では、調整してほしい部分があった場合は、銀仮面さんにお願いすればやってもらえると言う事かしら?」

 

銀仮面 「可能でゴザル」

 

ネリナ 「ゴザル?」

 

銀仮面 「あ…!」


実はあまり深く設定を考えていないまま演じ始めてしまったリューは、キャラがゲシュタルト崩壊しつつあった……。

 

ネリナ 「その場合はどうやって連絡を……


…そうね、リュージーンさんに言えばいいかしら? そうすれば、銀仮面さんに伝えてもらえるわよね?」

 

銀仮面 「ソウジャノ、それでよい」

 

三文芝居がさらに崩壊、リューはちょっと赤面していたが、仮面を被っているのでネリナから見えなかったのは幸いであった。

 

ネリナ個人としては信じるが、一応、ダンジョンの難易度や出現モンスターを調査する必要があるので、念の為に後で冒険者達を派遣する事になるとの事であった。確認が取れ次第、警戒レベルを変更、入場規制を取り下げる事を領主に報告・提案するという手順になるらしい。

 

とりあえず、用件は済んだので、これ以上は耐えられないとリューは執務室から姿の消したのであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

もう我慢できない、アンタは教官失格だ!

 

乞うご期待!

 

 

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