第156話 コカトリス迫る、住民避難は間に合うか?

イライラが場外に出た後、冒険者達が城門を封鎖する作業と並行して、ネリナは領主と騎士団に街の住民の避難誘導を開始するよう頼んでいた。

 

イライラが時間を稼いでいる間に、街の反対側の城門から住民を避難させる。外にはダンジョンから溢れて拡散していった魔物が彷徨いているが、冒険者たちと残った騎士団が護衛をしながら行けば脱出できる可能性は高い。

 

ネリナは城門封鎖を完了した冒険者達に、住民の護衛に回るよう指示を出した。

 

冒険者 「了解! って、外にイライラを残したままでいいのか?」

 

ネリナ 「そっちは私がなんとかする! 早く行きなさい! イライラが稼いでくれた時間を無駄にしないで! 残ってる騎士団だけでは魔物から住民を守りきれない! 貴方達が頼りなのよ!」

 

そうして冒険者達はネリナに尻を叩かれるように、住民の護衛へと向かっていったのだった。

 

ネリナ 「隣街から既に騎士団がこちらに向かっているそうよ! 援軍と合流できるところまで逃げ切ればなんとかなるはず! コニー、頼んだわよ!」(※コニーは副ギルドマスターである)

 

そして、見張りに残っていた騎士から第二波の報を聞いた時、ネリナは一人、飛翔魔法で城壁を越えたのである。

 

ネリナもかつては冒険者であった。イライラとパーティを組み、世界を旅しながらダンジョンに潜っていた優秀な魔法使いだったのである。イライラよりかなり高齢であるが、まだ魔力はそれほど衰えてはいない。コカトリスに魔法が通じないのは知っているが、得意の土魔法でコカトリスの進路を塞ぐなど、多少は力になれる方法はあるだろう。

 

避難した住民達の後をすぐにコカトリスの群れが襲ったら、逃げ切れるものではない。少しでも時間を稼ぎ、コカトリスを足止めする必要があるのだ。

 

イライラ 「な……ぜ来た……モドレ……街ノ住民ヲ守レ……街ヲ脱出スルンダ……」

 

ネリナ 「大丈夫、後の事はすべて、将来の計画まで含めてコニーに話してある。あの子はしっかりしてるから、きっと良いギルドマスターになるわ」

 

イライラ 「逃げろ…死ぬ……ぞ?」

 

ネリナ 「親友のあなたを一人では逝かせないわ」

 

ネリナはギルマスとして、街を守れなかった責任を感じていた。

 

思い返せば、随分と判断ミスを繰り返して来た人生であった。

親友イライラの息子も、自分の指示で命を落とさせてしまったのだ。それはとても償い切れるものではない、死んで詫びようとも思った。だがイライラはネリナを責めなかった。ただ自分を責めていた。そして、ダンジョン攻略に邁進するようになった。そんなイライラをネリナは全面的に応援する事にしたのだった。

 

ネリナは、イライラが死に場所を探しているのに気づいていた。イライラは生死を共にと誓った親友である。老い先短いこの生命、歳下の親友と一緒に死んであげる、そんな終わり方も悪くはないとネリナも覚悟を決めていたのだ。

 

目前にコカトリス軍団が迫る。ネリナは杖を翳し、土壁を作る魔法を発動する。地面が一気に盛り上がり、コカトリスを包囲するように壁ができあがる。

 

鶏に似た外見で翼を持ってはいるが、コカトリスは鶏同様、飛べないのである。壁で塞げば上が空いていても越えられる事はない。

 

だが、すぐに壁を突き始めるコカトリス。見る見る壁は削られていく。このままではすぐに破られてしまうだろう。

 

だが、最初の壁は、さらに分厚い壁を作るため、その魔力を練るための時間を稼ぐためのものであった。

 

ネリナは持っているすべての魔力を投入し、厚さ数十メートル、高さ数十メートルの壁を作り出し、コカトリスを閉じ込める。

 

ネリナは魔力を使い切り、膝を突いた。だが、この厚さの壁なら破られるにしても相当時間が稼げるだろう。その間に街の住民の避難も完了するはず…

 

…だが、コカトリスの力は想像を越えていた。


コカトリスの群れは土壁に向かって一斉に石化ブレスを吐いた。数十匹による石化ブレスの一斉攻撃に、土壁は見る見る軽石化、ブレスの勢いに負けひび割れ始め、ついには砕け散ってしまったのだ……

 

……万事休す。

 

イライラはもう動けない。

 

ネリナも魔力切れで動けない。


やはり魔法ではコカトリスを傷つけるどころか、足止めさえもできはしなかった。最後の土壁は持てる限りの魔力を込めて補強したものだった。だが、コカトリスのブレスを受けスカスカになってしまった。ネリナの時間稼ぎはほとんど成功しなかったのだ。この短時間では、おそらくまだ住民の避難は終わっていないだろう。

 

城門は塞いだが、先程のブレス攻撃を見れば、城壁などアッサリ破られるのは明白である。

 

コカトリスが街になだれ込み、避難中の住民を追走し始めたらどれだけの人間が逃げ切れるであろうか……

 

全滅という最悪の可能性がイライラとネリナの脳裏に浮かんだ。

 

 

 

 

だがその時、コカトリスの群れの前に、輝く銀色の仮面を付けた謎の人物が立ち塞がった。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

謎の男、銀仮面の活躍

 

乞うご期待!

 

 

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