第44話 悪人退治完了

首領の首が落ち、盗賊の殲滅は終了した。


リューは散乱している盗賊達の死体をすべて亜空間に収納する。ダンジョンの魔物をまとめて収納してしまうのと同じ要領である、作業は一瞬である。


収納した死体は、警備隊に行って賞金首が居ないか確認してもらうつもりであった。それが済めば、死体はすべてダンジョンの中に転送してしまえばいい。


ダンジョンの中では、人間や動物(魔物)の死体は、数日放置しておくとダンジョンに吸収されて消えてしまうのである。死体の処理には大変便利である。


作業を終えて村の中にリューが戻ると、大勢の村人が門に向かっているところであった。全員武器を持っている、中には鍬や鎌など農具を持っている者も居たが。


村長と思われる老人がリューに行った。


村長 「お前さんがセーラが呼んで来た冒険者じゃな?頼みがある、村に残っている女子供を連れて逃げてくれぬか?」


リュー 「いや、盗賊なら…」


村人A 「俺達は盗賊と戦う事にしたんだ!マリンを犠牲にして自分達が助かるなんてやっぱりできねぇ。」


村人B 「今日、やり過ごしたところで、このままじゃ全員餓死だしな。」


村人C 「どうせなら、村の者総出で立ち向かってみようと集まったんだ!」


リュー 「いや、盗賊はもう退治したぞ?」


その時、村人の後ろからマリンがヨロヨロと出てきた。


マリン 「みんな……でも、ダメよ!みな殺されてしまう……」


村長 「マリンとセーラは村を捨てて逃げるのじゃ。ワシラが盗賊と戦っている間に! 村はもうダメじゃろう、だが、勝てないまでも、せめて一矢報いようぞ。」


リュー 「いや、だから、盗賊は・・・」


マリン 「いいえ、私が盗賊についていけば、今日のところは盗賊も引き下がるはずよ。」


リュー 「だぁ~かぁ~らぁ~~~!」


リューは亜空間収納に入れておいた盗賊達の死体を取り出してみせた。


リュー 「盗賊はもう退治したってば!!」

 

    ・

    ・

    ・

 

山と積まれる盗賊達の死体に目を丸くしていた村人たちであったが、リューが首領の首を持ち上げてみせたところで、やっと状況を理解できたようで、安堵の声と、喜びの声が徐々に聞こえ始めた。


マリンも、やがて膝を着き、涙を流し始める。


リューはちらっと家を覗いただけだが、マリンとセーラに親は居ないようであった。姉妹で力を合わせて生きてきたのだろう。張り詰めた緊張が解けて、涙が溢れてしまうのは仕方がない事であろうとリューも思う。


そこにセーラがやってきてマリンの頭を撫で始める。多分、いつもはセーラがマリンに撫でてもらっているのだろう。


村長 「これは……なんと、どうお礼を言ってよいか……ありがとうございました。」


頭を下げる村長。何人かの村人も一緒に頭を下げた。


リュー 「別に、俺は冒険者として依頼をこなしただけだ、礼などいらんよ。」


村長 「おお、そうでした、報酬ですな……何かお支払いしなければならないのですが、あいにく、この村は貧しく、盗賊に食料も金品もすべて奪われてしまっておりまして、しばらく待っていただけぬだろうか? 必ず報酬はお支払い致しますので……」


リュー 「報酬は既に依頼者に貰っている、それ以上は不要だよ。」


リューはセーラから受け取った巾着を見せたのだった。

 

村長 「それは……ありがとうございます、ありがとうございます……」


再び頭を下げ始めた村長。腰を90度に折っても頭の下降は止まらず、そのまま頭が地面に着いてしまう。土下座……にしては様子がおかしい、膝をつかずにくの字のままである。そして、村長は横に崩れ落ちていった。


慌てて駆け寄る村人達。実は、村長はもう何日も水しか飲んでいなかったのだそうで、事態が解決して気が抜けて倒れてしまったらしい。


リューも、正直、そこまで困窮しているとは思わなかった。女子供には食べさせていたようだが、村の大人や老人達はずっと我慢していたようである。


再び盗賊の死体を亜空間に収納したリューは、村の広場に収納していた食材をたくさん出してやった。リューの亜空間には、まだ買取に出していない魔獣の素材が山程入ったままなのだ。


村人たちは歓喜して、解体・調理を始めた。しばらくは食料に困る事はないだろう。


あまりタダで施しをするのはよくないとはリューも思うのであったが、さすがにこの状態で放置して行くのも忍びなかったのであった。

 

少し離れた場所から村人たちが並んで食事の配給を受けている様子を見ていたリューとキャサリン。


キャサリンが誂うように言った。


キャサリン 「食材まで提供するなんて。冒険者は利益を求めて活動するものだって言ってたのに、大赤字じゃないの。」


リュー 「別に、赤字じゃない。報酬は金だけとは限らんだろ?」


その時、マリンがリューを見つけて走り寄ってきた。


マリン 「リューさん! 助けていただいて、ありがとうございました。」


深々と頭を下げるマリン。


リュー 「礼ならセーラに言ってやれ。おれはセーラに報酬を貰って依頼を果たしただけだからな。」


マリン 「でも・・・」


リュー 「どうしても礼がしたいというなら、今度またこの村に来るから、その時に泊めて飯でも食わせてくれ。」


セーラの頭を撫でながらリューは言った。


マリン 「わかりました!いつでも来て下さい、待ってます!」


キャサリン 「報酬は笑顔?格好付けすぎ。」


だがリューはキャサリンに言った。


リュー 「赤字にはならんさ、多分、賞金首が混ざってるかも知れないだろ?」


キャサ 「そっち?!」


リュー 「それに……」


キャサリン 「?」


リュー 「これから盗賊のアジトに向かう。溜め込んでるお宝もあるだろ?」


キャサリン 「え、場所は分かっているの?」


リュー 「先刻、聞き出しておいたのさ。」


聞き出したのではなく神眼によって盗賊の一人の心の奥を読み取ったのであるが。


リューは、キャサリンを置いて一人で盗賊のアジトに行くつもりだったが、キャサリンが腕を掴んで離さない。どうやら一緒に行きたいらしい。


本当は、腕を掴まれたままでもリューは自分だけ転移してしまう事も可能なのだが、キャサリンも一緒に連れて行ってやる事にした。


  *   *   *   *


盗賊のアジトは森の奥深くにある洞窟であった。


キャサリン 「ちょ!待って!」


どんどん洞窟に入っていくリューに焦るキャサリン。


キャサリン 「中に盗賊が残っていたらどうするのよ?!って、アナタほどの強さなら問題ないのか……。」


実はリューは、神眼で中に盗賊が残っていないのを確認済みなのだが。


さらに、洞窟の奥の廊に何人か捕らえられているのも把握していた。そこまで行ってみると、予想通り、さらわれてきた若い女達であった。


女達に尋ねてみたところ、ゴボ村以外からも拐われて来た者が居るようだった。中にはミムルの者も混ざっていた。


リューはキャサリンに、ギルドに戻って囚われていた女性達の受け入れ準備をするよう言った。だが、転移で連れてこられたため、ここがどこなのか分からないキャサリン。


すると、キャサリンの足元に魔法陣が浮かび、キャサリンはミムルの冒険者ギルドの訓練場に強制的に転移させられてしまったのであった。


ミムルの冒険者ギルドに自分が居ることに気付いたキャサリンは、慌てて女性たちの受け入れの準備に走る事となった。


本来は犯罪被害者の受け入れは警備隊の範疇であるが、とりあえず冒険者ギルドが一時受け入れをするのは問題ない。キャサリンは警備隊に使いを出すと同時に、ギルド内で女性たちを受け入れる準備をするよう指示したのであった。

 

 

 

リューは洞窟内の武器や金、食料を亜空間に収納し、ゴボ村に戻りたいという女性はゴボ村に、それ以外はミムルの冒険者ギルドに送り届けた。


盗賊達の溜め込んでいたお宝はゴボ村から奪ったものだろうと言うことにして、ゴボ村の村長のところに置いてきた。かなりの飢餓状態であったにも関わらず、提供された食料を奪い合わずにまず女子供から分け与えていた村人たちである、盗賊のお宝を任せてしまっても悪いようにはしないだろう。


キャサリンの指示で待ち構えていたギルドの職員に女達の保護を任せると、リューは今度は警備隊詰所に転移した。

倒した盗賊達の中に賞金首が居ないが確認してもらうためである。


結局、賞金首は首領のグリだけであった。金額は100G。


“魔力紋”を確認し、賞金首のグリであることを確認してもらう。地球でも指紋など生体情報で本人特定ができるが、同じような事がこの世界では魔力の波長で分かるらしい。


賞金は後でギルドカードに振り込んでおいてくれるとの事だった。リューは現金で欲しかったのだが仕方がない。


ギルドカードは、冒険者ギルドが潰れてしまったり、ギルドマスターの嫌がらせ等で停止されてしまう可能性がある。前ギルドマスターに色々と嫌がらせされていたリューは、ギルドの銀行システムも今ひとつ信用できないのであった。懸賞金が振り込まれたら、忘れないうちに現金として引き出しておこうと思うリューであった。


リューには容量無限大の亜空間収納が使えるので、現金で貰っても特に問題はない。他の人間に盗まれる心配もない。もしリューが死んだ時、亜空間に収納していたモノがどうなってしまうのかはリューも分からないが……


自分が死んだ後の事はどうでもいいと思っているリューであった。

 

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― ― ― ― ― ― ― ―

ところで、村を襲った盗賊の背景であるが、実は盗賊の首領が少女趣味だったわけではなく、どうやら盗賊に少女を集めて連れてくるよう指示をしていた人間が居たようなのである。


リューの神眼によって見えた、首領の脳裏に浮かんだその黒幕は、隣街の領主、ギット子爵であったのだ。(首領の心から読み取った情報で、リューはギット子爵の顔を知る事となった。)


盗賊の首領の心を読んだのは一瞬だったので、そこまで深い事情は読み取れなかったが、ギット子爵は女好きで、方々から女を献上させていたらしい。しかも、なるべく若い(幼い)ほうが好みのようである。


まぁ、そんな事もあるだろうと思ったからリューも確認したわけなので、盗賊の背後に黒幕が居たとしても驚きはしなかったが。


しかし、自分の領地の村を襲う盗賊を放置しているのは、何を考えているのか分からないと思うリューであった。


確か警備隊のゴランも、民の事をあまり考えない、評判の悪い子爵であると言っていた。




酷い奴が居るという話を聞くと、嫌な気分がするのは、人として当然である。


ただ、リューは、何が正しく何が間違っているのかは、しょせん人間が勝手に決めているものであり、世界が変われば価値観も変わると割り切っているので、正義感を振りかざすつもりはなかった。


別にリューは世直しをするつもりもない。悪人が居たからといって懲らしめに行ったりする気はないのだ。


しかし、その隣の領主といずれ関わる事になるような予感がリューはしていた。リューの予知能力が警鐘を鳴らしているのである。


リューの予知能力は、直近の未来においてリューに害があると言う場合にはほぼ確実に未来を当てるが、遠い未来になるほど、曖昧になっていく。


そもそも、未来というのは不確定なモノなのだ。ちょっとした人間の気まぐれな行動・選択によって、未来は大きく変わっていくこともあるのである。


ごく小さな行動が、未来の結果に大きな変化をもたらす事もあるのである。


この世界に来て予知能力をもらったが故にリューは、未来が不確定である事、そして同時に、未来は自分の選択・行動によって変えられるという事を実感するようになったのであった。


ギット子爵と将来関わる事があるかも知れないが、もしかしたらないかも知れないのである。


不確定な未来についてあまり考えても意味はないとリューは忘れる事にしたのであった。。。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

潰れる寸前の冒険者ギルドは復活できるのか?

 

乞うご期待!

 

 

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