第45話 冒険者ギルド復興策
冒険者ギルドが利権や汚職を廃し本来の目的に立ち返ると新ギルドマスターのキャサリンが約束した事を受けて、冒険者ギルド復活に協力する事にしたリューであったが、とは言えもちろん、リューとて世話になった商業ギルドとも敵対するつもりはない。
リューは、冒険者ギルドと商業ギルド、どちらか択一という事ではなく、双方継続で問題ないと考えている。
別に、冒険者がどちらか片方に縛られる必要はないだろう、と。
選択肢は多いほうが冒険者にとってはメリットとなるし、商業ギルドと冒険者ギルドが競い合う事で、良い効果も見込めるであろう。
商業ギルドのマスター・エイルにリューは正直に考えを話し、エイルも納得してくれた。エイルとしても、冒険者ギルドを完全に潰すつもりはなく、正々堂々と競うなら望むところだと言う事であった。
ただし、リューが今後も(たまには)素材を商業ギルドにもおろしてくれる、商業ギルドの依頼も(たまには)受けてくれる事、という約束はさせられたのだが。
エイルとしては、素材が欲しいというより、リューとの縁を途切れさせない事のほうが実は重要なのであった。
エイルは、冒険者ギルドに負けるつもりはまったくないと自信満々であったが、正直、エイルの自信の理由はリューにもよく分かった。今のところ、冒険者ギルドはかなり分が悪い。冒険者の気質的には、商業ギルドと取引したほうが利が大きいのだから。
リューが冒険者ギルドに力を貸す事を渋々ながらも納得してくれたエイルだったが、リューが力を貸したとしても、果たしてどうなるものか?
冒険者達が、冒険者ギルドに世話になる事にメリットをどれだけ感じさせることができるだろうか・・・?
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とりあえず、リューはダンジョンを復活させた。
ダンジョンがなくなってしまったことは、商業ギルドにとっても冒険者ギルドにとっても、いや街にとっても影響が大きかった。
ダンジョンの破壊という判断は領主が下したものだったが、やはり資源としてダンジョンの価値は大きかったのである。
(領主から冒険者ギルドにダンジョン攻略の依頼が出されたわけであるが、その時ダンジョン核は破壊せよという条件であったのだ。ただ、領主としても、実はあまり深く考えての指示ではなかった様子が見えるのであった。今なら領主はまた違う判断を下すだろうと言うのは商業ギルドのエイルからの情報であった。)
ただ、リューはダンジョンの核は破壊したと報告していた。破壊せずに持ち去っていた事は、前ギルドマスターのダニエルには嫌がらせの意味もあって黙っていたのだが、そのままとなっていたのである。
そこでリューは、ダンジョンは勝手に復活した事にした。
それはそれで問題がありそうな気がするが、ありえない事とも言い切れない。みな納得したのか、その点については特に追求されなかったのでリューはあえて触れずにおく事にした。
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ダンジョンが復活したらしいとリューが情報を冒険者ギルドに齎し、キャサリンは、調査隊を派遣してその情報が本当であると確認した後、ダンジョン活動再開情報を周囲の街の冒険者ギルドに流した。ダンジョンがあれば、一攫千金を狙って冒険者が集まってくる事が期待できるだろう。
また、リューの助言に従い、ミムルの街の冒険者ギルドとしては“新人の育成”に力を入れる方針である事を同時に発表・宣伝した。
これまで、新人を捨て石にして使い潰すという事しかしてこなかったミムルの街には、若い冒険者が少ない。
まずは「新人冒険者を育成する」という活動方針を広め、新人を集め、育てていく事にした。それが、長い目で見た時に、冒険者ギルドにとってはプラスになると信じて。。。
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新人を育成するとなると、指導員が必要になる。
そこで、引退した冒険者に声をかけた。
冒険者は、人生半ばで命を落とす者も多いが、運良く命は助かっても、冒険者を続けられなくなるような怪我を負って引退していく者も多いのである。
もちろん、冒険者として一攫千金に成功し、悠々自適の隠居生活を決め込む者も居るが、現実にはそのような事例はあまり多くないのであった。
(そういう者も、遊び暮らしたあげく金を使い果たし、また冒険者に戻って死ぬか、怪我をして二度目の引退を余儀なくされるというケースは意外と多いのだが……冒険者の気質としては、どうしても、生き方そのものが冒険になってしまうのは仕方がない事なのかも知れない。。。)
金もなく、冒険者も続けられなくなった者は、一般的な仕事に就く事になる。
五体満足で引退を決断できた者は良いが、不自由な体になってやむなく引退した者は、稼げる仕事に就く事ができず、貧乏な生活を送る事になるケースも多いのである。
そういう元冒険者達にとって、ギルドでの指導員という仕事は魅力的であり、すぐに人は集まったので、無事に新人育成のカリキュラムを進められる事となった。
ただ、集った元冒険者達には問題もあった。
リューがかねてから指摘していた通り、新人を捨て石に使うのが当たり前、それを切り抜けて成長してこそ高ランク冒険者になれるという考え方をする者がミムルの街の元冒険者には多かったのである。(ある意味、それがこの街の冒険者ギルドの伝統になっていたのだから仕方がないのだが。)
だが、新人を育成し、一人前の冒険者になって活躍してもらう事が目的なのに、それを疎かに扱うのが当たり前の価値観で指導されては困る。まずは、仲間は絶対に見捨てないというところから教えなければならない。
確かに、“緊急避難”で誰かが切り捨てられるというケースは、絶対ないとは言い切れないがそれはリーダーの立場になった者の苦渋の選択であって、初めから安易にそれを選ぶような価値観を持たれても困るのだ。
人間というものは、指導する立場になると自分が偉くなったと勘違いしやすいものである、指導員も教育していく必要があるだろう。指導員を監視・教育する監査員のような制度も必要になってくる。
まぁ何にせよ、新しい事を始めれば問題が出てくるのは当然の事である。とにかく始めて見て、問題点は追々改善していくしかないとキャサリンも割り切っていた。
とりあえずキャサリンは、指導者として応募してきた者たちの面接を行う事とした。それを聞いたリューは、自分も同席する事にした。(リューはずっと、キャサリンに冒険者ギルド立て直しの方法について相談されてきたのであった。)
リューには「神眼」という能力がある。これを使えば、相手の心の中までもが読める。問題がありそうな人物が居れば、リューにはそれが分かるのである。
ただ、神眼の能力についてはリューは誰にも明かすつもりはない。
瞳が光ったのを見逃さず「魔眼か?」と尋ねたゴランの例などもあったが。ただそれが魔眼ではなく神眼という魔眼をはるかに凌駕する上位能力である事は誰も分からないだろう。
それに、魔眼にせよ神眼にせよ、その能力でどこまで見えるものなのかは、結局本人にしか分からない事である。
なので、問題がありそうだと言う根拠を訊かれても「勘だ」としか応えられないため、リューの意見は参考程度となってしまったが、リューが問題有りそうだと指摘した人間は、その後、何かしら問題を起こす者が多かったため、リューの意見が正しかった事が証明されたのであったが。
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そして、ついに、新人冒険者研修、第一回目の授業まで漕ぎ着けた。
まず、は座学からである。初めて冒険者に登録した者には、ある程度で冒険者としての基礎的な知識を教え込む必要がある。
ギルドが教室として提供した会議室、そこに、十数人の冒険者志望の若者(中には若くない者も居たが)、及び、まだ駆け出しの新人冒険者が集まっていた。
第一回の指導教官は、キャサリン自身が務める。
だが、教室に入り、生徒たちを見渡したキャサリンは、思わず声をあげた。
「なんでアンタがいるの?!」
生徒の中に、リュージーンの姿があったためである。
リュー 「いや、俺も冒険者としては駆け出しだから、色々勉強したいと思って。」
そう、リューは冒険者登録をしてから、薬草摘み専門でやってきたため、魔物の討伐やダンジョンアタックの基礎知識はそれほど豊富ではないのである。
今となってはリューはその圧倒的な能力でどうとでもなってしまうのだが、それではいつまで経っても一般的な冒険者が必要とするような知識は身につかない。
そこでリューは、能力を封印して、一般の冒険者として勉強をする事にしたのであった。
キャサリン 「アナタにはコッチ側で指導してほしかったんだけど?」
リュー 「教えられる事がないだろ。いや、薬草摘みならプロだけど。」
キャサリン 「それでいいわ、よろしく!」
結局、後日、リューは本当に薬草摘みの授業を一コマ受け持つ事となってしまうのだった。(これは、キャサリンの狙い通りであった。なし崩し的にリューにギルドの仕事を任せるようにして、リューを縛る作戦なのである。)
キャサリンの思惑はともかくとして、リューの薬草採集の知識は、初心者にとってはそれなりに必要な知識であるのも事実である。
薬草の種類と見分け方、種類ごとの薬草の生えやすい場所、周辺の薬草の分布、高く売れる薬草の採り方、保存の仕方、処理の仕方。延いては薬草の生息域ごに遭遇しやすい獣や魔物など。薬草摘みもそれなりに奥が深いものがあるのだ。
三年もそれに専念していたリューの知識は、十分役に立つ内容である。
薬草摘みは、冒険者になったばかりの新人にとっては、細々とでも収入を稼ぐ手段として大事な仕事なのであるから。
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次回予告
リュー、指導教官の元剣聖相手にからまれる?!
乞うご期待
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