第46話 新人研修を受けるリュージーン

第一回 新人冒険者研修

 

その休憩時間に、隣に座っていた女の子のグループに声をかけられた。

 

「ねぇ君、ギルドマスターと知り合いなの?」

 

「いや、まぁ、最近だけどな。君は?」

 

「アタシはサリ。剣士よ。」

 

サリと名乗った少女は机の脇に立て掛けた剣を掴んで見せた。

 

「こっちはメグ。そっちに居るのが「ナオミよ!」」

 

「「「よろしくね」」」

 

「俺はリュージーンだ。君たちはパーティを組んでいるのかい?」

 

メグ 「そうよ、まだ組んだばかりで一度もクエストに出た事はないけど。あなたは?」

 

リュー 「俺は……ソロの冒険者だ。」

 

サリ 「パーティは組んでないの?」

 

リュー 「前に少しだけ組んだ事もあったけど、クビになったんだ。」

 

メグ 「え~クビ?! どういうこと? 無能過ぎてクビにされたとか?!」

 

ナオミ 「ちょっと!」

 

リュー 「いや、その通りだよ。」

 

サリ 「ああ、それで、今更研修を受けて勉強しなおしているというわけか。」

 

ナオミ 「でも、講師やるんでしょ?経験は長いのじゃないの?」

 

リュー 「薬草摘みは三年やったぞ、レベルが低くてそれしかできなかったからな。」

 

「「「……ああ~なるほど」」」

 

「なんでぇ、三年もやってて薬草摘みしかできねぇクズ冒険者かよ!」

 

「「「「!?」」」」

 

後ろから突然声をかけてきた男が居た。

 

男 「実力もねぇクズがギルマスと知り合いだからって偉そうな顔すんなよ!」

 

サリ 「そういうアンタは誰よ!?」

 

男 「俺はギャビンだ。戦士だ、よろしくな!」

 

リューはキャサリンに呼ばれたので席を立ったが、そこにギャビンが着席して、しきりに女の子たちに話しかけていた。

 

ギャビンはサリ達女の子達には笑顔を向ける。女の子目当てで声を掛けてきた口のようだ。

 

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リューは、次の時間、講師をやるように言われた。適当に、薬草について知ってる知識を説明してくれればいいという。

 

リューには一つ前の過去世―――地球・日本での人生―――の記憶がそのままある。仕事ではそれなりに人の上に立つ立場になった経験もあるので、いきなり人前で話せと言われたとしても緊張する事もなく、まぁ適当に話せばいいかと余裕があるのであった。

 

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― ― ― ― ― ― ― ―

薬草採集の講習。講師はリューである。

 

薬草採集の授業は、まったくの初心者には勉強になるだろうが、既にある程度、依頼(クエスト)をこなしている者には退屈な授業となるだろう。そのため、リューは経験者は寝ててもいいと伝えて始める事にした。

 

リューは、薬草の実物を出して見せながら説明を始める。亜空間収納には、収納したまま忘れていた薬草も残っていたのだ。

 

薬草の種類と、それぞれの生えている場所の説明、薬草とよく似た毒草の区別。薬草の近くに出現する可能性のある獣・魔物。話すことは意外とたくさんあった。

 

すべて話し終えると、薬草をテーブルに並べて自由に見てもらう事にし、その間にリューは少し席を外した。

 

転移で森の中に行って、薬草と区別しにくい毒草を採集しに行ったのだ。生えている場所はよく知っている。最近はあまり薬草採集には行っていなかったが、変わらず同じ場所に生えていた。

 

戻ってきたリューは、テーブルに並んでいた薬草を全部回収して、採ってきた毒草と混ぜてもう一度テーブルにばら撒いた。

 

そして、参加者に薬草を種類ごとに区別する練習をさせて、合格したら授業は終わりと言う事にした。

 

サリ・メグ・ナオミの三人組が仕分けに挑戦した時、ギャビンがシャシャリ出てきて、サリ達の仕分けに間違いがあると言い出した。自信満々のギャビンにサリ達は答えを訂正してしまったが、結局その答えは間違っていたという結果で、ギャビンはサリ達の顰蹙を買うのであった。

 

ギャビン 「そもそも薬草採りなんて雑魚の仕事、優秀な冒険者はやる必要はないからな!」

 

と誤魔化していたが、参加者達に白い目で見られてしまう。

 

ちなみに最初にしたサリ達の仕分けで正解であった。ギャビンは授業中は居眠りしていたが、サリ達は熱心にリューの授業を聞いていたので当然であろう。

  

ギャビンは、何故か間違いを指摘したリューを睨んでいたが、それはさすがに逆恨みというものだろうと呆れるリューであった。。。

 

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次の授業は剣術の実技であった。

 

剣術は、数日の研修で身につくものでもないので、その気があるものは継続的に訓練に参加してもよいし、訓練場が空いている時は自由に自主練して構わないと説明された。

 

ギルドに指導員が常駐するようになったので、指導員の手が空いている時は相談に乗ってもくれるそうだ。これまでのミムルの冒険者ギルドにはなかった制度である。

 

指導を担当するのは、杖を突いた初老の男性であった。片足は義足らしい。片手で杖を突き、残った片手で剣を持っている。実技の授業であるが、自ら剣を持って指導するようだ。フットワークは使えないだろうが、初心者相手なら片手で十分なのであろう。

 

男はレイナードと名乗った。かつてはかなりの剣豪であったのだろう、なかなかの剣気を纏っている。

 

その時、参加者からヒソヒソ話す声がリューの耳に入った。

 

「剣聖レイナードじゃないか?!」

「生きていたんだ・・・!」

 

へぇ、有名な人物だったんだとリューは思った。

 

リューは知らなかったが、レイナードはかつて剣聖と呼ばれるほどの剣の達人であったのだが、とある戦闘で片足を失い引退したのであった。

 

レイナードは、実は、キャサリンの知り合いで、キャサリンに頼まれて講師を引き受けたのだ。

 

レイナード 「まずは、最低限、冒険者としてやっていける実力があるか確認をする。全員木剣を持って一本ずつ俺に打かかってこい。」

 

参加者の中には剣を使わない者も居る。拳や蹴りを主体とする格闘術を使う人間も居るし、魔法使いなど、そもそも剣を持たない職種の人間も居る。

 

しかし、ダンジョンの中では何が起きるか分からない。魔法使いでも剣やナイフで戦う必要に迫られるケースは必ずあるものだ。最低限の剣術は身につけておいたほうがよいというのはレイナードの方針であった。

 

レイナードは、参加者に順番に打ち掛からせ、それを木剣で受け止め、あるいは受け流されていく。どれほど鋭い打ち込みであろうとレイナードは一歩も動かず難なく捌いて見せた。

 

ただ、中にはやんちゃな参加者も居る。わざとフェイントや奇手を使って攻撃したりする者もあった。それでも、レイナードは動じる事もなくすべて簡単に往なしてみせる。それだけでなく、そういうやんちゃな手合には反撃して少し痛い目を見せてやったりもするのであった。

 

ギャビンも、そういうやんちゃな一人であった。

 

例によって、女の子たちの前で力を見せつけようとでも思ったのだろう。

 

他の者は剣を普通に振りかぶって打ち込んでいるのに、ギャビンは、レイナードに向かって、いきなり“突き”を放って行った。どんな攻撃をしろという指示はなかったのだから、これもありだという屁理屈を言うつもりであろう。

 

しかし、レイナードはほんの僅かに剣を触れただけで突きの軌道を外し、そのまま逆にギャビンの胸に突きを返した。

 

レイナードはほとんど動いていないようにすら見えるが、ギャビンの突きははずれ、レイナードの突きがカウンターで入る。

 

ギャビンは尻もちを突き、痛みに胸を押さえる事となった。ギャビンは金属製の胸当てを付けていたのだが、木剣で突かれたところが凹んでいる。かなり痛そうである。

 

「ギャビンが馬鹿な事をしてギャヒンと言わされたわけか。」

 

前世では中年のオッサンであったリューは、つまらないオヤジギャクを呟いてしまう事がたまにあるのだ。通常は相手にされないのだが。


だが今回は、たまたまそばに居たナオミが、何がツボにハマったのか、吹き出してしまったのだ。必死で笑いを堪えながら座り込んでしまうナオミ。

 

実はリューは、剣の実技に参加するつもりはなかったのだが、ナオミが騒いでいるのが目立ち、レイナードに見つかってしまった。

 

レイナード 「お前がリュージーンか? かなり強いらしいな、キャサリンに聞いているぞ。お前の力も見てみたい、打って見せてくれ。」

 

手招きするレイナード。

 

仕方なく、リューはレイナードの前に立ち木剣を構えた。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

剣聖の完全な技を見てみたいリューは、レイナードの足を治療する! 完全体になったレイナードに挑むリュー!

 

乞うご期待!

 

 

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