第506話 カザームに歯が立たない警備隊の騎士達

隊長 「君達は危ないから下がっていなさい!」


だが、カザームの歩みを警備隊は止める事ができない。騎士達が見る見る倒れていく。


最初にカザームを取り囲んだのは、魔法障壁が得意な騎士達である。それでも敵わなかったのだから、残った騎士達では対抗しきれるはずもない。


それが分かると、カザームは方向を変え、わざと騎士達の居るほうに居る方にと歩き始めた。このままでは騎士達は全滅してしまいそうである。


リュー 「俺ならアレを止められるが?」


隊長 「本当か?! いや、だめだだめだ。警備隊の騎士が居るのに生徒達に戦わせるわけにはいかない」


リュー 「そんな事言ってるうちに全滅しちまうぞ?」


と言ってる間に、残るは隊長だけになってしまっていた。


カザーム 「この国の騎士達など、大した事はないな」


隊長 「舐めるな!」


警備隊長が魔法障壁を張りながらカザームに斬りかかるが、結局、電撃を防ぎきれず返り討ちにあってしまった。


残るはリューとジャカールだけである。ジロリと二人を睨むカザーム。思わず怯むジャカール。意に介さない様子のリュー。


リュー 「…お前、どこの国の者だ?」


カザーム 「何のことかな?」


リュー 「ドネル帝国?」


カザーム 「さて、どうかね? この国を憎んでる国はドネル以外にもたくさんあるだろう?」


カザームは表情を変えなかったが、その脳裏に浮かぶ情報をリューが読み取っていた。


相手の心の奥深くを除くのはかなりの労力が必要だが、質問して、その結果、意識の表層に浮かんだものを読むのは容易い。


結論から言えば、学園長の推測通りであった。カザームはジフダラードの出身で、ドネル帝国の命令で来ていた、という事のようだ。


ただ、カザームは、当てずっぽうで言ったのだと思ったようだ。ガレリアの一番の宿敵国と言えばドネル帝国であるので、まずその名前が出るのは不思議な事ではないからである。


リュー 「何が目的だ? あの薬はなんだ?」


カザーム 「目的? 成績の悪い君達に新薬の治験を手伝ってもらっただけだが?」


リュー 「この国の未来を担う貴族の子女を減らして、国力を低下させるのが狙いか」


カザーム 「そんな事はないよ、ただの善意だ」


リュー 「そうか。いや、なかなか素晴らしい薬じゃないか? 本当に能力を上げる効果があるようだ。そんな凄い薬を、お前が発明したのか?」


カザーム 「ふふん…ああそうだよ、凄いだろう、あれは私が開発したんだ」


褒められて嬉しかったからか、カザームは急に薬について喋り始めた。


カザーム 「あの薬を使えば、魔力が強くなる。魔力が弱い人間でも強力な魔法も使えるようになるんだ。素晴らしいだろう?」


リュー 「だが、依存性……強い中毒性がある。」


カザーム 「ああ、そうだ。そこが解決できなくてな。最初はいいんだが、すぐに廃人になってしまう」


リュー 「性格も変わるようだな?」


カザーム 「ああ、それも副作用だ。あれを飲んだ人間は、攻撃的な性格になってしまうんだよ。疑り深くなり、欲望・本能に忠実になり、自分勝手になるんだ。知能は上がるのだが、それ以上に感情的になって結局冷静な判断ができなくなる。


使い物にならんと酷評されたよ。だが、だったら自国民に使うのではなく、敵国に撒けと指示されたんだ。中毒性を高めて、敵国の人間を廃人にしてしまえ、とな」


ジャカール 「それ以上近づくな!」


話しながらじわじわとカザームがリューとジャカールに近づいてきていたのだ。


カザーム 「そういうわけにもいかない。なんでペラペラ喋ったと思う? お前達には死んでもらうつもりだからだよ」


リュー 「大丈夫だ、下がっていろジャカール」


カザーム 「なかなか勇敢だが……この魔力数値計測計で見る限り、お前からは微弱な魔力しか感じられない」


カザームは掛けていたメガネに手をやりながら言った。どうやらメガネが計測機になっているらしい。


カザーム 「お前、そんな魔力では、魔法が重視されるこの国では相当虐げられて来たんじゃないのか? どうだ、俺達の仲間にならないか? 一緒にこの国に復讐しようじゃないか」


リュー 「断るよ」


リューは自分からカザームに向かって歩き始めた。


カザーム 「お前、もしかして、頭悪いのか? さっきのを見ていなかったか? ほれ、あと一歩でお前も電撃の餌食だぞ?」


だがリューの歩みは止まらなかった。カザームの電撃を放つ魔道具が発動する射程の5mに入る……


だが、何も起こらなかった。


カザーム 「?!」


カザームが慌てて腰の当たりの魔道具を操作するが、一向に反応しない。


カザーム 「なんだ? 故障か?」


リュー 「俺が無効化したんだよ」


カザーム 「何?!」


次の瞬間、既に至近距離まで踏み込んできていたリューによって、カザームは殴り飛ばされてしまう。


リュー 「俺は魔力はゼロだが、魔力を分解して無にしてしまう能力スキルがあるんだ」


カザーム 「なん……だと? そんな能力、聞いた事がないぞ」


リュー 「ああそうだろうな。俺しか使えないユニークな能力らしいからな。さて、大人しく捕まってもらおうか、色々聞きたい事もあるしな」


ちらっと見ると、警備隊長ほか騎士達も意識を取り戻し、ヨロヨロと立ち上がっていた。電撃は命を奪うほどの力はなかったようだ。


だが、カザームはリューの視線が一瞬はずれたのを見逃さなかった。懐の魔道具のスイッチを入れるカザーム。次の瞬間、カザームの体の下に魔法陣が浮かぶ。


リューが視線を戻した時、カザームの姿は半透明になって消えかかっていた。


リュー 「しまった!」


リューは咄嗟に魔法陣を分解しようとしたが、一歩間に合わず。カザームはそのまま消えてしまった。慌てて神眼を発動し周囲を探索したが、もう近くにはカザームの魔力は感知できなかった。さらに探知範囲を広げていくが、どこにも見つからない。


リュー 「まさか、転移が使えるとはな……しかも、近距離転移ではなく、長距離の転移が可能だと言うことか」


残念ながら、転移で長距離移動した相手を追うことはリューにもできない。転移とは、いわば亜空間を通って別の空間へ移動する事だが、使用する亜空間は無限に生成される。それぞれに異なる独自の次元となるため、他人からはアクセス不能なので、追跡も不可能なのだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ジャカールの妹エイミに危険が迫る


乞うご期待!



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