第63話 偉そうな貴族のメイド達

キャサリン 「ああ、すみません! 彼にはまだちゃんと説明していなかったんです!」

 

奥の部屋から飛び出してきたギルドマスター・キャサリンが、あっという間にリューを拉致していった。

 

執務室にリューを引き込み、ソフィの身分と事情を話すキャサリン。冒険者ギルドとして、リューに護衛も兼ねてパーティを組んでほしいと言う。

 

リュー 「そんなお偉い人の護衛なら、レイナードでもつければいいだろ。レイナードは一応貴族なのだろう?」

 

キャサリン 「有名な“剣聖”なんてつけたら、明らかに護衛のためだってバレちゃうでしょ。姫さま、あくまで普通の新人冒険者として扱って欲しいらしいのよ。護衛の騎士が大勢来てるけど、冒険者ギルドには姫が絶対立入禁止にしてるんだって。」

 

リュー 「ああ、外になんか偉そうな態度の騎士がいっぱい居たのはそれか。」

 

キャ 「レイナードがついたら、剣聖がなんでFランクの新人冒険者とパーティ組むの? って話になるけど、名目上は“Fランク冒険者”のあなたなら、姫も納得するでしょ?(笑) あくまで護衛だとは気づかせず、新人冒険者仲間として振る舞いつつ、姫様に冒険者としての活動を経験させて満足させて上げてほしいというわけよ。もちろん、正式な依頼として、ギルドから報酬も出すわ。」

 

リュ 「なんだか、あまり進んでしたい仕事ではないなぁ……」

 

キャ 「お願い! 特に護衛らしくする必要はないわ、普通にやってくれればOKよ。どうせアナタが居れば、どんな魔物や敵が出たって一人で撃退できるでしょう?」

 

リュ 「正直言うと、貴族にはあまり関わりたくない。さっきも礼儀がどうとか言ってたが、貴族や王族には偉くもないのに威張り散らす奴が多いからな。むしろそういう奴らを酷い目に遭わせる話だったら性に合っているのだが。」

 

リューは子供時代に貴族の奴隷になり、理不尽に拷問を受け続けた経験がある。貴族に良い印象などあるわけがないのであるが、キャサリンはそんな事は知る由もない。

 

リュ 「そう言えば、“魔物や敵”と言ったな? 魔物は分かるが、もしかして姫の命を狙う奴とかいるのか?」

 

キャ 「いえ、現時点ではそういう情報は何もないのだけどね。あくまで可能性という事よ、王族とかの場合は、常に考えておかないといけない事なの。」

 

リュ 「貴族や王族に恨みがある連中の復讐を俺が止める理由がないんだがな。」

 

キャ 「復讐ばかりじゃなくて、政争とか跡目争いとか色々あるのよ!」

 

リュ 「王族の跡目争いとか、それこそ俺には関係ないがな。」

 

キャ 「さっきやるって言ったよね? お願い! いくら本人の希望と言っても、王族に護衛もつけないと言うわけにはいかないのよ、あちこちから絶対怪我させるなって厳命が来てるのよ!」

 

リュ 「あちこち?」

 

キャ 「王宮からも来てるし、ギルド本部やこの街の領主からも来てるわ。この街に居る間に王族に何かあったら、領主が睨まれてしまうから心配なのでしょう。」

 

結局、キャサリンの懇願に押されて引き受けてしまったリュー。再びソフィ王女と顔合わせとなったのだが……

 

そこでソフィのパーティメンバー=つまりソフィの護衛兼メイドが爆弾を投下してしまう。

 

メイドA 「平民の、しかも駆け出しのFランク冒険者ごときが、本来なら王族と話す事すら許し難いのだぞ、分かっておるのか?」

 

メイドB 「王女のってのご希望なので致し方ない、特別にオマエを姫のお付きとして加えてやってもよい。だが、まずは礼儀作法から叩き込む必要があるな。さぁ、跪いて臣下の礼をとるがよい。」

 

リュー 「あ゛あ゛?」

 

ソフィ 「マリー、ベティ、やめんか。」

 

リュー 「別に俺はパーティ組んでもらわなくても構わないんだがな? ソロで十分なんでな。」

 

マリー 「たかがFランクの新人冒険者がソロで活動などしたら死ぬだけだろうが、バカなのか?」

 

ベティ 「バカなんだろう、なにせ平民、それも冒険者などという下賤な仕事をしている者なのだから。」

 

リュー 「その下賤な職業を、お宅のお姫様がご希望してると聞いたが?」

 

マリー 「ソフィ様には、冒険者のマネ事などやめて下さいと、何度も言っておるのだが……」

 

ソフィ 「お~~~前達! いい加減にするのじゃー!!」

 

ソフィが大声を出した。

 

ソフィ 「その話は既に終わっているはずじゃろうが。気に入らないなら、今すぐ出ていくがよい! 外にいる騎士団と一緒に待っておれ。」

 

マリー 「そんな、ソフィ様を放って待っているなどできません。」

 

ソフィ 「冒険者活動をする事については二度と反対しないと約束するなら追従を許可すると言ったはず。これ以上一言でも口を出すなら、今すぐ出ていくがよい。」

 

マリー 「も、申し訳有りません、もう何も、申しません。」

 

ベティ 「ま、まぁ、マリーもソフィ様を思っての発言ですから……」

 

ソフィ 「ベティ、お主もじゃ! 冒険者としての活動についてくるなら貴族だ平民だという考えは捨てよ。妾はあくまで一人の冒険者じゃ。他の冒険者にも敬意を払え。それができぬなら、パーティに追従は許さぬ。」

 

リュー 「ほう……。悪いが、俺は王族だろうが貴族だろうが、膝をついて仕えるつもりはない。姫様らしいが、あくまで新人の冒険者の一人、冒険者の仲間として対等に扱う、それでいいんだったら、パーティを組んでやってもいいぞ?」

 

マリー 「キサマ、なんだその態……」

 

マリーが口を開きかけたが、ソフィに睨まれて黙る。

 

ソフィ 「もちろんじゃ、是非ともよろしく頼む。」

 

王女が手を差し出してきたので、その手をリューは握った。だが、それを見たマリーがまた激昂する。

 

マリー 「貴様!! 気安くソフィ様に触れるな!」

 

マリーが剣を抜きリューに突きつける。

 

ソフィ 「止めろマリー!! 口を出さぬと言ったばかりであろうが。」

 

マリー 「ソフィ様の冒険者活動にはもう何も申しませぬ。この男とパーティを組むのも。だが! だからといって下賤の者がソフィ様の体に気安く触れるような事は容認できませぬ!」

 

ソフィ 「今のは妾が握手を求めたのに応じてくれただけじゃろうが。」

 

ベティ 「いいえ、ソフィ様はまだ結婚前の淑女、男性と気安く触れあう事など、厳に慎まねばなりません。」

 

マリー 「おい、オマエ! 私は“騎士”の職能クラスを持っている。貴様のような平民など簡単に切り刻む事ができるのだぞ。今後もしソフィ様に触れる事があったら、その場で剣の錆にしてやる! 肝に命じておく事だ。」

 

リューは肩をすくめながら言う。

 

リュー 「別にこちらだって触れたくはないんだが? 今だって、断ったら失礼になるかと思って渋々握ったんだが。」

 

マリー 「キサマ!! ソフィ様の手を握るのに嫌々などと、無礼であろうが!」

 

リュー 「触っていいのかダメなのか、どっちなんだ。なんだか面倒くさい奴らだなぁ、なぁ、なんでそんなに偉そうなんだ?」

 

マリー 「無礼者め。我々はメイドとは言え、全員貴族である。本来なら我々と口を聞くなど、平民に許される事ではないのだぞ!」

 

ソフィ 「やめろマリー。おぬしらも妾とともに冒険者をやるのであろう? ならば身分などひけらかす事は許さん。対等な冒険者として対応するがよい。」

 

マリー 「しかし!」

 

ソフィ 「できぬと言うならパーティはクビじゃ、屋敷に戻って待っておれ。」

 

マリー 「ぐぬぬぬぬ……。」

 

ソフィに言われて渋々引っ込みかけたマリーであったが、そこに改めてリューが爆弾を投じる。

 

リュー 「平民だ貴族だと、やけに偉そうだが、貴族がなんで平民より偉いんだ?」

 

マリー 「……な、何を、当たり前なことを。貴族は平民より偉い、そう決まっておる。」

 

リュー 「だから、なんでそう決まってるんだ? 誰が決めたんだ? 貴族と平民と、何か違いがあるのか?」

 

マリー 「流れる血が異なっておる。高貴な民族の子孫である貴族は高貴な血肉を持っておるが、平民は下賤な血肉しか持っておらん。」

 

リュー 「へぇ。するってぇと何かい? 平民と貴族で、肉体の構造や材質が違うってのか? 魔獣と人間のように、違う生物だと?」

 

マリー 「……そうだ! 構造は同じでも、貴族と平民では質が違うのだよ質が!!」

 

ソフィー 「いい加減にしろ、マリー!! 貴族・王族は、民が居てこそ成り立っておると常々言っておるであろうが!! 貴族も平民も同じ人間じゃ! 異なる生物だなどという話、聞いたことはないぞ。」

 

リュー 「平民から貴族に叙される人間も居るそうだが、違う生物が貴族になってしまっていいのか? って話になるが?」

 

マリー 「お、同じ人間でも、能力が違うのだ! 優れた人間だから貴族になり、無能で愚かな平民共を導いてやっておるのだ!」

 

リュー 「じゃぁ平民で優れた能力を持っていたら貴族を名乗っていいって事か?」

 

マリー 「平民は平民だ、貴族に敵うわけがなかろう。だいたい、キサマだとて、私に剣を向けられてもまったく反応もできなかったではないか! そのような者とパーティを組んだとて、足手纏でしかない!」

 

先程剣を突き付けられた時の事を言っているらしい。あの時、実は、リューは反応できなかったわけではない。危険予知能力が発揮され、剣が向けられる事は事前に察知していた。だが同時に、その剣が突きつけられるだけで、実際に攻撃する意志がない事を神眼で読んでいたため、動く必要がないと判断しただけなのだ。むしろ、読んでいたとは言え、剣を向けられて微動だにせず平然としていた事が凄いのであるが。

 

キャサリン 「丁度いいじゃない、では、お互いの自己紹介と連携確認も兼ねて、これから訓練場で剣の腕など見せあうというのはどう?」

 

リューの実力を見せつければマリー達も納得し少しは敬意を持つようになるんじゃないかと思ってのキャサリン発言であった。

 

ソフィ 「そんな必要はない。マリーよ、貴族の能力をひけらかし平民を甚振るなど許さぬぞ。リュージーンよ、済まぬな、気にしないでよい……」

 

リュー 「……平民より優れた能力を持っているのが貴族だというなら、その平民にもし負けたりしたらどうなるんだ?」

 

マリー 「貴族が平民に負けるわけがない! いいだろう、オマエに決闘を申し込む!」

 

ソフィ 「マリー! いい加減に…」

 

リュー 「別に構わんよ、少し相手してやろう。」

 

キャサリン 「ええっと、決闘じゃなく、模擬戦ね?」

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

貴族のメイド(マリー)に力を見せつけるリュー

 

乞うご期待

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る