第209話 良い知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたい?

冒険者ギルドの執務室、ネリナとリュー・ヴェラの会話。


ネリナ「リュー、良い知らせと悪い知らせがあるわ、どちらから聞きたい?」


リュー「んん? …じゃぁ悪いほうから」


ネリナ「……ごめんなさい、 “良い知らせと悪い知らせがある” って言ってみたかっただけでした。情報としてはどっちも微妙な感じだったわ。


ひとつは…


伯爵から勇者の捕縛命令が出たわ。証拠固めが終わったようね」


リュー「それは良い知らせじゃないか」


ネリナ「そうなんだけど、思った以上に勇者の行状が酷いみたいでね。女性を暴行しては殺していたのは本当だったらしいわ。


伯爵としても、もっと早く命令を出したかったんだけど、勇者一行パーティは被害者達に口止めをしていて、証言を得るのに時間が掛かってしまったらしいわ。喋ったら殺すって言われて、実際に殺された者も多くて、皆黙るしかなかったみたいね。


特に、ユサークに暴行された女性で生き残っている娘は、もう思い出したくないし証言して恥の上塗りをしたくないという思いもあるみたいで」


リュー「それは……そうだろうな」


ネリナ「それと、逮捕命令を出したはいいけれど、問題は勇者を捕らえる事ができる人間が居ないって事もあるわ。残念勇者でも、その実力は本物だから厄介なのよね」


リュー「それを俺にやれと」


ネリナ「いえ、確かにあなたなら勝てるだろうけど、その後の事も問題で。あの勇者が捕らえられたまま、大人しく拘束されているとは思えないでしょ。一応伯爵が魔封じの手枷を用意しては居るけれど、果たしてそれが勇者の権能に通用するかどうかも分からない。王であれば、勇者を抑える道具を持っているかも知れないけどね」


リュー「なるほど、俺もつきっきりで二十四時間見張ってるわけにもいかないからな」


ネリナ「それと、勇者一行は既にシンドラル領を出てしまったみたいで。昨日セッタ村を通ったとスーザンから連絡があったわ…」


リュー「あの冒険者嫌いの村長がいた村か」


ネリナ「そう、勇者一行は村でもまた、問題を起こしたようでね、また誰かを殺したとか……


で、勇者一行はそのまま逃げ去ってしまったそうよ。転移が使える魔道具を持ってたようね」


ヴェラ「たしか精霊の羽根とか言ってたわね、ダンジョン脱出以外にも使えるのね。使い捨てで非常に貴重だって言ってたけど、ふたつも持ってたのね」


リュー「だとすると、まだ持ってるかも知れんな。……そう言えば今回はパーティメンバーは置き去りにされなかったのか」


ネリナ「全員まとめていなくなったそうよ。連中がどこに転移したのか分からないんだけど……シンドラル伯爵の指令が有効なのは領内だけだからね、領地から出られてしまうと効力がないわ。それに、もしかしたら既に王都にいるかもという情報もあってね」


リュー「伯爵はどうするつもりなんだ?」


ネリナ「伯爵は既に、まとめた証拠を持って王都に向かっているそうよ。そして、もう一つの悪い方のお知らせなんだけど……」


リュー「?」


ネリナ「バイマークの冒険者ギルドに、冒険者リュージーンを出頭させろと王宮から命令が来ているわ」


リュー「……勇者が有る事無い事王に吹き込んで、王がそれを信じてしまったという感じか?」


ネリナ「ええ、既に勇者が王都にいるかも知れないという推測も、その命令が来たからなのよ」


リュー「やれやれ……この国の王がどんな人物なのか知らないが、あの勇者を信じて庇護しているとなると、どうやらボンクラか?」


ネリナ「この国の王は悪い噂はあまり聞かないから大丈夫だと思いたいんだけどね、勇者が王の名を笠に着て好き勝手していたのを放置していたのは事実だからねぇ……


とりあえず、あなたにはセッタ村に言って事件の詳細をスーザンに聞いて。その後、王都に向かってほしいの。一応、王の勅命だからね、冒険者ギルドとしても無視するわけにもいかないのよ。大丈夫、あなたの事は伯爵がちゃんと守ってくれるはず。冒険者ギルドとしても勇者の行状については真実を証言するわ」


リュー「それでも、王が勇者の言うことを信じ、勇者を庇うなら……?


…まぁ、そんな王は国民の害になるからいっそ殺してしまうか。そもそも俺はこの国の国民になった覚えはないからな、王に従う義理もない」


ネリナ「物騒ね、王族の関係者に聞かれたら不敬罪か反逆罪で逮捕されるかもしれないわよ。まぁ、あなたを捕らえておくなんて事はできないでしょうけど……そうね、問題があったらひと暴れしたあと逃げ出してしまえばいいわ、隣の魔法王国にでも行けばいい、フェルマー王国と敵対してる国だから逃げ切れるでしょう。ついでに勇者も殺していってくれると助かるわ」(笑)


リュー「あんたも物騒な事言ってるけどな。そんな事して伯爵は大丈夫なのか?」


ネリナ「伯爵は、いざとなったら国とも対立する覚悟のある人よ。国王も、伯爵と敵対するとマズイ事くらい分かってると思うし」


リュー「国と戦うなら呼んでくれ、力になる」


ネリナ「あなたが協力してくれるなら、王族を倒して国を乗っ取ることもできそうね」


ネリナは悪そうな顔をして笑った。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


村長ふたたび


乞うご期待!



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