第317話 今度は盗賊、でも瞬殺です
タスー「実は、俺達の恩人が窮地に追い込まれているらしく、何か助けになれないかと思ってジャールに向かっていたんだ。こちらの母娘はラエナとララ、恩人の妹さんとそ の娘さんなんで、一緒にジャールに向かっているところだったんだ」
タスー達は冒険者になる前にジャールの街で警備兵をしていたというだけあって、それなりに腕に自信があったようだ。実際、ランクはまだE・Fであるが、実力的にはDくらいはありそうである。ただ、今回は相手の数が多かった…
街と街を結ぶ主街道で上級種を含むオークの群れが出るというのは、少しばかり普通でない気がリューはしたのだが、タスーが言うには、あきらかに異常とまでは言えないんじゃないかという話だった。
(タスーは冒険者としての経験は浅いが、警備兵として周辺の魔物の駆除などもしたことがあるのだそうだ。その時、何度かゴブリンやオークの集落を潰した事もあるという)
また、ガレリアは長く戦争が続き、国内が荒れている関係もあり、魔物の駆除などもあまり頻繁には行われていないという事情があるのだそうだ。
リュー 「俺が仕留めたオークは俺が貰っていいよな?」
タスー 「ああ、もちろんだ。俺達が倒した分も持ってっていい。獲物は惜しいが、俺達は先を急ぐので、処理していられないんだ」
冒険者が獲物を持ち帰るという時、普通はその場で解体処理をする。持ち運ぶ量にも限度があるので、解体して必要な部分だけにするのだ。解体までしないにしても、血抜きくらいはしたほうが素材が傷みにくくなる。(血に価値がある魔物の場合は別であるが。)
持ち帰らない場合でも、その場で死体を埋めるなり燃やすなりするのがマナーである。(逃げるので精一杯という、余裕がない緊急事態の場合は仕方がないが。)
ただ、リューならば時間停止の亜空間収納が使えるので獲物が腐ったりはしないし、持ち運ぶ容量も無限なので特に気にする事はない。持ち帰らない場合も転移でダンジョンの中にでも送り込んでしまえばよいので、埋めたり燃やしたりする必要もない。(以前盗賊の死体を燃やした事があったが、あれはリューの魔法の実験的な意味合いがあっただけである。)
では遠慮なくと言ってリューはオークの死体をそのまま全部収納してしまった。
タスー 「うぉ? マジックバッグ? いや、収納魔法か?」
リュー 「急いでいると言っていたが、どうする気だ? 歩いていくのか?」
魔物の脅威は去ったものの、馬がオークに傷つけられ死んでしまったようで、タスー達の馬車は動けなくなってしまっていたのだ。
健脚の冒険者ならば小走りで街まで行く事も十分可能だろうが、幼い子供が居てはそれも少し酷であろう。
そこで、リュー達は馬車の後ろに彼らの馬車を連結し、牽引してやる事にした。バトルホースの牽引力ならばまったく余裕である。
ベリン 「すげぇ、バトルホースの馬車だ……」
ヨリン 「初めて見た……」
ララ 「お名前は、なんていうの?」
いつのまにか、幼女ララがバトルホースの前に居た。巨大なバトルホースに近づいた娘を見て母親のラエナが慌てるが、ララはまったく怖がっていない様子だった。
もちろん、バトルホースはリューの従魔として契約状態にあるのでララを襲ったりする事はないのだが。
リュー 「ランドルフだよ」
ララ 「ランドうふ……? よろしくね、ランド」
バトルホースは小さなララに鼻を近づけ臭いを嗅いだあと、小さく嘶いてからララの身体に頬ずりした。ララも押し付けられるランドルフの鼻筋を撫でた。
タスー 「ララは動物が好きだよなぁ。もしかしてララには動物使いの才能があるかもな?」
再びジャールの街を目指して進み始めた一行。
急ぐというので詳しい話は移動しながら聞くということで、タスー達も全員リューの馬車に乗って移動することになった。
少し狭くなるので、レスターとアネットの両親(スケルトン)には亜空間に入っていてもらう。
すると、御者のランスロットがまた、今度は前方に盗賊が居ると知らせてきた。街道の先で、こんどは盗賊に襲われている馬車が居るというのである。
魔物が街の近くを彷徨いていたら駆除する。盗賊は討伐する。冒険者の義務である。
別にリューは正義感を持ってやっているわけではまったくない――――言ってしまえば、悪人も魔物も、自分に関係がないならどうでもいい――――のだが、リューは一応、自身も “冒険者” であろうとしているので、冒険者の仕事もきちんとするのだ。
だが、今回はリューは動かなかった。ランスロットがやると言いだしたためである。正確にはランスロットの部下の兵士達だが。そう言っている間に、既にスケルトン兵達によって盗賊の殲滅は完了してしまっていたのであった。
ただ、発見した時点で、既に襲われていた馬車は全滅状態であったようだ。
リュー達の馬車が現場に到着したところ、襲われていたのは商人の馬車のようだ。殺されていた人間の中に、リューは知った顔を見つけてしまった。
リュー 「イルミン?!」
襲われていた商人は、ダヤンの街の入口で知り合ったイルミンであったのだ。
殺されたばかりで死体はまだ暖かい。
リュー 「これなら……」
リューは “巻き戻し” でイルミンを生き返らせることにした。
イルミンだけ生き返らせるわけにもいかないので、イルミンの従者や護衛の冒険者達も生き返らせてやる。
本当は、あまり死んだ人間をほいほい生き返らせるような真似はしないようにしようとリューも思っているのだが、この世界での数少ない知り合いが目の前で死んでいるのも放っておけなかった。
イルミン 「……あれ?」
むくりと起き上がったイルミンは、剣で貫かれたはずの腹を擦った。
リュー 「たまたま通りかかったから、生き返らせてやった、運が良かったな」
イルミン 「……リュージーンさん?!」
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次回予告
ゼッタークロス
乞うご期待!
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