第318話 ジャールの街

慌てて周囲を見回し、イルミンは状況を理解したようだ。


盗賊の奇襲攻撃で死んだはずの護衛の冒険者達も息を吹き返し、不思議そうな顔をしている。


イルミン 「あっ、ありがとうございますっ! あなたは命の恩人です!」


是非ともお礼を支払わせてくれというイルミンであったが、急いでいるので込み入った話は街についてからにしようと言って、リューは盗賊の遺体をすべて亜空間に収納し、再び馬車を走らせる事にした。(別にリューは急いではいないが、タスー達が急いでいるというので。)


イルミン達の馬車も馬が殺されていたので、リュー達の馬車で牽引する事にした。


リュー 「ランド、大丈夫か?」


ランドルフ 「ぶひひぃぃん(まったく問題ないッス)」


三台の馬車を数珠つなぎに牽きながら、ランドルフは快調に街道を飛ばしていく。さすがは巨体のバトルホースである。


走り出した馬車の中で、リューがタスーに尋ねた。


リュー 「しかし、治安悪すぎないか?」


タスー 「ずっと戦争が続いていたので、国内も荒れているんだ……今の王に変わってから戦争がなくなり、少し落ち着いたけどな」


ベリン  「でも、戦争がしたい貴族も多いみたいなんだよね」

ヨリン 「なんで戦争なんかしたいんだろう?」


タスー 「戦争がないと、武功を上げて出世するチャンスがなくなる者が居るからな。あとは他国の領土をぶんどって領土を増やしたいとか?」


ヴェラ 「その分、損害や消耗も激しいはずだけどねぇ……」


ベリン 「貴族が戦争するのは勝手だけど」


ヨリン 「それで苦しむのは平民なんだよね」


タスー 「貴族は平民の事なんざ考えてないからな…」


やがてついに、リュー達の馬車はジャールの街に到着した。


衛兵1 「おい、あれ、なんだ?」


衛兵2 「バトルホース?」


衛兵達は最初、ド迫力で向かってくるバトルホースを見て緊張が走っていたのだが、近づくにつれ、それが馬車を牽いている馬であると気づき少し落ち着いた。


馬車は城門の前で停車、乗っていたタスー達とイルミン達は馬車から降りて身分証を出し、入門手続きをしてもらう。(連結していた馬車も切り離した。)


タスー達の馬車は、人力で引っ張って入場する事になった。それほど大きな馬車でもないので、冒険者三人で牽けば門を通過するくらいはできる。街に入ったら警備隊の詰め所の裏で預かってくれるらしい。街を出る時までには新しい馬を買うか借りる必要があるだろう。


イルミン達の馬車は、街に入ったらイルミンの商会に連絡して馬を連れてきて牽かせるそうなので問題ないらしい。


ランドルフは街に入ると入れられる厩舎も限られてくるので、リューの管理ダンジョンのバトルホースのフィールドに転送する事にした。馬車も収納してしまう。


受付している間にバトルホースが馬車ごと居なくなってしまったのに気づいて衛兵たちが騒ぎ始めた。


衛兵1 「おい、バトルホースはどこに行った?」


衛兵2 「まさか、逃したのか? バトルホースはAランクの魔物だぞ! そんなのが彷徨いていたら旅人が襲われるだろうが」


別に近場に放逐したわけではない事を理解させるのに少々難儀するリューであった。だが、衛兵達はすぐにそれどころではなくなる。ランスロットが入門手続きをするために自分のギルドカードを出したからである。


種族名にスケルトンと書かれているのを見て、最、初衛兵は信じなかった。ランスロットは骸骨の仮面を被っていたが、人間がそれを被ってスケルトンだと言い張っているのだろうと思い、仮面を取る事を要求したのだ。


言われるままに仮面を取ったランスロットの素顔を見て、しばしフリーズした衛兵が、本物のスケルトンである事に気づいて騒ぎ出したのである。


だが、従魔登録もちゃんとされている。スケルトンなどのアンデッドを従魔登録してはいけないという法律もないし、そもそも冒険者として登録されているのである。流暢に人間の言葉を話すランスロットに、しばらく揉めたものの、結局入場が認められたのであった。





街に入ったリュー達。タスー達とはそこで別れる。だが、イルミンが自分たちの商会の運営する宿を無料で提供すると言うので、その申し出を受ける事にした。


イルミンは実は、ガレリア国内でも有名なゼッタークロス商会の後継ぎだった。現在は修行と視察を兼ねて行商をしながら国内を旅している途中なのだそうだ。


ゼッタークロス商会はガレリア国内のほとんどの街に支店を持つ商会で、商品の売買だけでなく、宿の運営や牧場の経営、投資など、様々な事業を展開しているらしい。


案内された宿で最上級の部屋に通され、豪勢な歓待を受けてしまった。イルミンとしては、一度死んだ命を救ってもらった、命の恩人なのである。さらに別途、金貨一万枚を謝礼として支払いたいという。イルミン個人の資産で出せる金額はそれが精一杯だそうで、それでは足りないというのなら、親に言って出させるので王都の本店に来てくれと言う。


まぁ、本当ならば死んだものを生き返らせるなど、光属性魔法の最高峰と言われる教皇レベルでもできるかどうかという話なわけで。仮にできたとしても、国家予算級の謝礼金が必要になる話なのである。


とは言え、そこまで金にがめついわけではないリューである、お礼は金貨千枚でいいと言ってしまうのであった。


イルミン 「それでは私の気が済みません、命を助けてもらったのですから」


リュー 「んー、ではこうしよう、今後、いつか、俺が困った時に、一度だけ力を貸してくれ。もちろんできる範囲で良いが」


イルミンはその約束を守ると誓った。


ただ、一度と言わず、何度でも手を貸すと言って聞かないのだが。とりあえず、ガレリア国内のゼッタークロス商会で常に最上級サービスを受けられるという優待カードを押し付けられた。


そんなカードは必要ないと思いつつも、イルミンを大人しくさせるため、リューはありがたくカードを受け取ったのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


モリーの古巣の教会は……


乞うご期待!



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