第354話 王都ガレリアーナ

ジャスティンに諸々の費用を支払わせる話が保留になったままだったが、その件は出発前にリューが早朝にジャスティンの屋敷に押しかけて話をしておいた。


早朝であったがジャスティンは起きていた。ジャスティンは疫病の対応のため、【クリーン】が使える者を集めるのに夜通し精力的に走り回っていたようだ。確かに、ウイルスの駆除はできるだけ速いほうがよい。


費用については、“貸し” にしておいてやるとリューは伝えた。街の除染作業もまだあるだろうし、スラムの受けたダメージも大きい。リューに支払う金を、スラムの者達を社会復帰させる支援のために使えと言ったのだ。


ランスロットがそうしろと言うので、一応、借用書をジャスティンに用意させたのだが。返済期限は未記入である。金は、いずれ街の財政が落ち着いたら払ってもらうという事にした。あるいは、領主であるグリンガル侯爵に直接請求してもよいだろう。


冷静になってみれば、スラムを焼き払おうとした侯爵の指示はスラムの人間からすれば確かに酷い話ではあるのだが、リュー達が現れず、疫病が解決できない状況であったとしたら、街に疫病が蔓延するのを防ぐためには、致し方ない判断であったと見る事もできなくはない。批判はあるだろうが、街がそれで全滅するくらいならば、英断であったと言う事になるかも知れない。


その判断に従わず、勝手にスラムに入って支援を続け、結果としてスラムの外の街にウイルスを持ち込んでしまったジャスティンは、少々判断が甘かったとは言える。それはリューも同じだが、伝染病についての知識が不足していたのだから、対応が甘くなったのは仕方がない事であろう。


ただ、身分に別け隔てなく、住民のためを考えるジャスティンの姿勢には、リューは好感を持ったのだ。親の教育のせいなのか、多少、変わった価値観を持っているようだが、ジャスティンは悪い奴ではなさそうである。


馬車を走らせながらとりとめもない事を考えていたリューは、ふと、呟いた。


リュー 「なぁ、ランスロット」


ランスロット 「はい、リューサマ。なんでしょう?」


リュー 「俺は、あの時は兵士達を殺さなかった理由をああは言ったが……実際のところ、正直に言うとだな」


ランスロット 「?」


リュー 「兵士達に火球を放たれたが、あんまり腹が立たなかったんだよ。どうせそんなもので俺を殺せはしないと思っていたからな」


ランスロット 「それはそうでしょうね、あの程度の魔法ではリューサマは殺せないでしょう。なるほど、子供に殴られたとて腹が立たないのと同じ、というわけですか」


リュー 「うまい事言うな。だが、子供と言えども、こちらを本気で殺す気で攻撃してきたなら、それはやはり怒るべきだったかな、と思ってな……いや、そうじゃない。俺が言いたいのは、俺は、慢心してしまっているのかも知れない、と思ってな」


ランスロット 「慢心ですか?」


リュー 「ああ、俺は、生来もっと慎重な性格だったはずなんだよ。それが、最近は、どうせこの世界で俺を傷つけられる者など居ないと、油断するようになってしまってる気がする。あの時だって、兵士達の中に、強力な攻撃魔法が使える者が居たかもしれないのにな」


ランスロット 「それは、仕方がないのではないですか? リューサマを傷つける事ができる者など居ないのは事実ですから。我々(スケルトン軍団)を傷つける事ができる者が居ないのと同様に」


リュー 「そんな事はないさ。油断すれば何があるか分からない。油断はすべきじゃないと思うんだよ」


ランスロット 「それは、リューサマの、過去世での経験からくる感覚なのでしょうなぁ。まぁ、慢心、良いではないですか。その分、我々がしっかりとフォロー致しますゆえ。大船に乗った気で慢心してもらって構いませんよ。リューサマが慢心するほどに、我々が警戒を強めて行きますので、ご安心ください」


リュー 「うーん、頼りになるのはありがたいのだが、そういう事じゃないんだけどなぁ……俺自身の、心構えの話で……」


そんな話をしながらも、旅は快調に進んだ。慢心しないように反省したリューは、軍団レギオン任せにせず、神眼を使ってちゃんと自分で索敵を行うようにしたのだが、さすがに王都周辺ともなると、魔物も盗賊の類もあまり出ないのであった。


結局、何のトラブルもなく、馬車は王都ガレリアーナへと到着したのであった。




  * * * * *




王都ガレリアーナは、これまで見てきた街の数倍もの大きさがある巨大な都市であった。王都には門が東西南北に四箇所、さらにその間(北東・北西・南東・南西)にも四箇所の門が設けられており、それぞれの門から街道が放射状に伸びている。(リュー達はその東側の街道を進んで来た。)


入場にも大変厳しいチェックが有るようだが、リュー達はドロテアがくれた通行証のおかげで貴族門からほとんどノーチェックで入る事ができた。


貴族や金持ちも多いのだろう、立派な馬車も多く行き交っており、バトルホースに牽かせた馬車でリュー達が街を走っていてもそれほど注目を浴びる事はなかった。(貴族であればバトルホースや竜種(正しくはトカゲの類である事が多いが)などに馬車を牽かせている事もあるのだ。)


この街でも、滞在はゼッタークロス商会の「木漏陽の宿」を利用する事にした。イルミンに貰ったブラックカードのおかげで格安の特別料金でありながら最上級クラスのサービスを受けられるのである。


ただ、いくら命を助けたとは言え、甘えすぎな気もする。もてなしサービスの内容が金額に対してどう考えても釣り合っていないのだ。そこで次からは他の安い宿に泊まる事にしようかとリューも考えてはいたのだが、イルミンの感謝の気持ちを受け取るという意味で、王都まではありがたく利用させてもらう事にしたのだ。


宿にチェックインすると、知らせを聞いたイルミンが飛んできた。(イルミンは早馬で先に王都に戻っていたのだ。)


イルミンがリューに命を救われた件について両親に話したところ、ぜひとも両親からもお礼が言いたいので招待したいと言われたが、それについては忙しいのでと断った。そのうち時間ができたら顔を出すと言っておいたが、有力な冒険者と縁を持っておきたいという商家としての下心も見え隠れしている気がして、何も用がなければ行かないだろうなぁと思うリューであった。



  * * * * *



そう言えば……


リューは宿でふと思い出した。不死王に依頼してあるはずのランスロット達スケルトン用の認識阻害の仮面はどうなっているのだろうか?



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


王都の冒険者ギルドへ


乞うご期待!



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