第353話 聖女になんてなるもんじゃない
オリゴールの馬車を護衛する形で馬で移動していたレンツォだったが、突然、馬上から姿を消した。後ろに居た副官が不思議な顔をした。
副官 「あれ、隊長? 小便にでも行ったのかな?」
突然周囲の景色が変わり、馬の手綱を握った形のまま、レンツォが戸惑っている。
レンツォ 「…ん? なんだ? 馬はどこに…」
リュー 「お前にもちゃんと理解してもらいたくて、戻ってもらったぞ」
レンツォ 「お前は?! なんだ? ここはスラム? 何が起きた?」
リューは戸惑うレンツォの片腕を光剣でいきなり切り落とした。
レンツォ 「うぉぉぉっ! 貴様、何をする~~~!」
リュー 「いや、兵士達だけ体験して、指揮官のお前が体験してないのでは不公平だと思ってな。お前も、治癒魔法の効果を体感してもらおうと思って、な」
レンツォ 「思ってなってぇ!」
リューは切り落とされた腕を拾うと、レンツォの腕に切断面を合わせて治癒魔法を発動する。
レンツォ 「…おお、繋がった!」
リュー 「まぁ、切断された傷跡は残ってるけどな」
そう言ったリューは再び光剣を抜いた。
レンツォ 「…何を?」
リュー 「いや、まだ実感がないんじゃないかと思ってな。まだ、腕は一本、足は二本残ってる。是非、たっぷりと治癒魔法の効果を味わって行って貰いたい」
レンツォ 「いや、結構ですぅぅぅぅ」
だが、レンツォの右足が切り落とされる。
そして再び接合。治してもらえるとは言え、斬られた痛みと、切り離される恐怖心は感じる。
レンツォ 「分かった、ワカリマシタ、理解ジマチタ…」
だが、残った腕、そして足と切断・治療は繰り返された。
レンツォ 「や、めて…ひぃぃぃぃ」
リュー 「どうだ? 疫病を治療しただけの能力があると、理解してもらえただろうか?」
レンツォ 「ワカマシタ、理解シマシタ、もうやめて……」
レンツォの目から涙の粒が溢れた。
リュー 「分かってもらえたならいいんだよ。最初から、ちゃんと話を聞いてくれてれば良かったんだけどな? 汚物呼ばわりとかしないでな?」
レンツォ 「ひっ、す、すみませんでしたぁ~」
リュー 「分かればいんだ、じゃぁ帰っていいぞ。ああ、あの、オリゴールとかいう奴にも言っておけ。次はお前もお仕置きしちゃうぞ、ってな」
レンツォ 「あの…歩いて帰るんでしょうか?」
リュー 「ああ、そうだな。送ってやろう」
再びレンツォの周囲の景色が変わる。突然馬の上に転移させられたレンツォは、驚いてバランスを崩しそうになるが、手綱を掴んでかろうじて持ちこたえた。
周囲の護衛の騎士達が突然姿を消し、また突然現れたレンツォに驚いていたが、副官が「小便にでも行っていたんでしょ~」と呟いたのでそれで納得して黙っていた。
レンツォは、一瞬、夢でも見ていたのかと思ったが、切断された腕と足に触れてみれば、服の腕と足のスリーブ部分は切断されたまま、隙間から見える腕と足には接合された傷跡が輪状にきっちり残っていた。
やはり、夢などではなかった。手足を擦りながらレンツォは「酷い目に遭った…」と呟いた。
再び王都へ戻る旅に戻るレンツォだったが、馬上で何か違和感を感じる。かなりの違和感である。何かがおかしい。股間に鞍が食い込む。
レンツォは馬を止め、馬から降りてみる。いつもと感覚が違うので落ちそうになってしまった。副官も馬を止めて降りてきた。
副官 「あれぇ、たいちょ? 背が縮みました?」
レンツォ 「そんな…まさか……!」
慌てて副官と並んで背を比べてみる。
副官 「ちっちゃくなってますね」
レンツォ 「そんな……酷い!」
実は、リューは切断した腕と足を十センチほど切り詰めて接合したのだった。手足が短くなってしまえば、違和感があるのは当然であろう……。両手両足をいちいち切断したのはそのためであった。いや、むしろ、両手両足の長さを揃えてやったのは、リューの温情であったとも言えるのだが。
その時、不審に気付いたオリゴールが馬車の窓から顔を覗かせて尋ねてきた。
オリゴール 「どうかしたのか?」
レンツォ 「それが、その……」
何があったのか説明するレンツォ。
こんな話、信じてもらえないんじゃないかと思ったレンツォだったが、意外にもオリゴールは素直に信じてくれた。
オリゴール 「そうか……報告通り、とんでもない奴だな」
レンツォ 「へ…? もしかして、オリゴール様はアイツの事をご存知だったので?」
オリゴール 「知らんよ。黙っていろ。…そうか、次に会ったら俺もお仕置きか。会わないようにしたほうが良さそうだな…」
オリゴールは不敵に笑った。
* * * * *
隣町に向かうには遅くなってしまったので、リュー達はもう一泊してから街を出る事にした。
リュー 「しかし、聖女認定されたのは、ちょっと気になるかな?」
ヴェラ 「面白がってたくせに」
リュー 「まぁな。でも、聖女ってあれだろ、協会本部に監禁されて、朝から晩まで金持ちの治療をさせられる、みたいな? 教会の本部からスカウトが来たりするかもな」
ヴェラ 「アタシは一般人だから大丈夫として。教会からスカウトなんか来ても蹴散らして逃げるだけだし。でも、現役シスターであるモリーはどうかしらね」
モリー 「いえ、治癒魔法が使える聖職者はたくさんいます。その程度で【聖女】の称号は認定されないと思います」
ヴェラ 「でも、疫病を解決したなんて実績が報告されたら……?」
リュー 「別に、何か言われても、望まない事なら断ればいい。うるさいこと言われるなら、いっそモリーも教会から脱退したらいいんじゃないか?」
モリー 「私は一生神にお使えすると決めたのですが」
リュー 「別に、組織に所属していなくとも神を信仰する事はできるのではないか?」
モリー 「え? そんな事……できるのでしょうか?」
リュー 「教会に所属していない者は神を信じたり神に使えたりしてはいけない、と言う事はないはずだろう?」
モリー 「それは……そうなんですか……ね?」
リュー 「なんなら、今の教会とは別に、新しい宗教組織でも作っちゃえばいいんじゃないか?」
モリー 「そ、そんな大それた事……」
リュー 「大切なのは信仰心だろ? 組織を維持するためには金が掛かる。その金を集める事に執心するあまり、組織の上層部は信仰心を忘れて金の亡者になる。今の教会本部も、そうなっているんじゃないか?」
モリー 「私のような末端のシスターは、本部の、上層部の方々の事は知りませんが……正直に言うと、お金に関してはあまり良い噂は聞こえてこないのは事実ですね……教会は、金持ちばかり優遇して治療して、貧乏人の庶民は相手にしてくれないとかなんとか……」
リュー 「ま、人間が集まるところ、どこも似たような感じになるのは世の常だな」
・
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翌朝、リュー達はパラガンの街を出発した。
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次回予告
ついに、王都ガレリアーナへ!
乞うご期待!
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